私大一般選抜の志願者数は大幅減だった前年並み
学生募集・高大接続
2022.0523
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●5月2日時点の対前年度指数は100.2、対2020年度指数は86.0
●改組、入試変更等による大規模校の志願者増が全体を押し上げた
●高校は志望理由を明確にする指導を重視
私立大学の2022年度入試一般選抜の総志願者数は対前年度指数100.2で、大幅減となった前年度とほぼ同じ水準にとどまった。コロナ禍による影響が大きいが、「偏差値を参考にして併願校を決めていく」という受験行動そのものにも変化が起きている。大学には、今後も志願者が増えていかないことを前提に、志望理由が明確で入学に結びつく「志願者の質」を重視する募集戦略が必要になっている。
*記事中の志願者数は、進研アドと連携している豊島継男事務所が5月2日までにまとめた最終データをもとにしている(集計大学数は全私立大学の79.2%にあたる464校)。
5月2日現在、私立大学の一般選抜(大学入学共通テスト利用方式を含む)の総志願者数は314万5448人で、対前年度指数は100.2。18歳人口の指数は98.1となっている。
志願者数の対前年度指数は100を超えたが、前年度は指数85.9の大幅減だった。2年前の2020年度を基準にした2022年度の指数は86.0で志願者数が回復したとは言えず、大幅に減少したままと見るのが妥当だろう。集計対象464校の65.5%にあたる304校が志願者減で、46.3%にあたる215校は10%以上の大幅減となっている。
入試方式別、地区別で見ても大幅減だった前年並みという傾向だ。
共通テスト利用方式の志願者数は105万4640人(対前年度指数99.8)で、それ以外の一般選抜は209万808人(同100.4)。しかし、対2020年度指数はいずれも86.0で低調だ。共通テスト利用方式を活用した併願に受験生が積極的でなかったこともうかがえる。
3大都市圏の志願者数を前年度と比べると、東京はほぼ前年度並みで近畿は微増。東海は指数94.3で6ポイント近く減少した。しかし、対2020年度指数でみると東京(85.3)、東海(78.8)、近畿(85.4)で大きく落ち込んだままだ。
2022年度入試における一般選抜の志願者数は、大規模校を中心とする一部の大学によって押し上げられた。
下表では志願者数の規模別に志願数者の増減を示している。( )内に示した2021年度入試における対前年度指数は、どの規模グループでも100を切っている。一方、2022年度入試では志願者数3万人以上の大規模大学では志願者が増加に転じたのに対し、中小規模大学では引き続き減少している。
志願者が大きく増えた大規模校には、それぞれ推定される要因がある。近畿大学は情報学部の新設、法政大学は入試の変更、青山学院大学は法学部でのヒューマンライツ学科新設などだ。複数年にわたって志願者減が続いたり、前年度に大きく減ったりしたことによる揺り戻しも増加の要因になっている。
2022年度入試で私立大学全体として志願者数が回復しなかった背景には依然、コロナ禍の影響がある。大学による高校訪問やリアルでのオープンキャンパス開催は、コロナ禍前の状態には戻らなかった。高校教員は大学の情報を集めることが難しく、進路指導が停滞。生徒は大学研究を十分深められずに「行きたい大学」に出合う機会が減り、併願先を広げられなかったと推測される。
加えて、年内入試で入学先を決めるケースが増え、一般選抜まで受験生が残らなかったことも志願者数が回復しなかった要因に挙げられる。同じく豊島事務所の調査(全私立大学の48.1%に該当する282校が集計対象。5月2日現在)では、志願者数は総合型選抜で対前年度指数101.9、学校推薦型は102.8でいずれも増加。合格者数を公表している244校について合格者総数を算出すると、対前年度指数113.0と大幅に増えている。
この先、コロナ禍が収束した後も、志願者数が再び増加傾向に転じることはないだろう。18歳人口が減り続け、国公立大学や私立上位大学に手が届きやすくなれば、受験生が併願を減らすのは自明だ。
「国公立大学に入りたい」「少しでも偏差値上位の大学に」という価値観そのものにも変化が起きている。「早く、手堅く入学先を決めたい」「自分に合った教育をする大学がいい」 と考える生徒も増加。こうした変化は、偏差値を参考にして第一志望校と併願校を決め、一般選抜を柱にして出願計画を立てるという従来の受験行動を変えつつある。大学にとっては、併願による志願者の拡大というシナリオを作りにくい状況だ。
高校では、生徒の意識変化と入試の多様化が相まって、進路指導の見直しを迫られている。総合型選抜など、年内入試での受験を希望する生徒は今後も増えるだろう。一斉指導から個別指導へとシフトする中、安易な「自分軸」によるミスマッチを防ぐことが課題の一つだ。低学年のうちから「どんな大学に行きたいか」「なぜその大学がいいのか」と考える機会を提供し、進路目標の設定、志望理由の明確化を促す指導の重要性があらためて認識されている。
大学にとっては今後、こうした高校での指導を前提に、志望理由を明確にしたうえで自学を選んだ、モチベーションが高く入学後に伸びる可能性を秘めた学生を受け入れることが望ましい。そのための教育のブラッシュアップと、それをわかりやすく伝える広報が求められる。
首都圏のある中堅大学は2年前、教育の特色を反映した多面的評価型の入試を導入したところ、志願者の数は多くないが、歩留まりは良好だという。入学者の一人は「入試を通して『この大学は知識の量ではなく、自分で考えたことの中身を評価してくれる』と感じ、公立大学を辞退してここに決めた」と語ったそうだ。
志願者減の時代は、こうした大学選びのエピソードを数多く生み出すチャンスだとも言える。