2021.1026

探究学習評価型入試④ 「入試のプロ」による先行事例の分類と読み解き

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3行でわかるこの記事のポイント

●探究学習による「実績の評価」と「修得した力の評価」に大別できる
●「大学にとって比較的、導入のハードルが低いのは実績評価型」
●「実力評価型」では、探究的な活動を入試で再現

2022年度から始まる高校の新教育課程の目玉となる探究学習の受け皿として、新たな入試を導入したい-。この課題の下、入試の先行事例を分析し、ポイントをおさえておきたいと考える大学関係者が多いことだろう。そこで、自学で先行的に導入し、他大学の事例にも詳しい桜美林大学入学部部長・高原幸治氏による分類をもとに、総合型選抜における「探究学習評価型入試」の「型」を捉え、それぞれの意図を読み解いてみたい。

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探究学習評価型入試③ 評価基準の公表で高校教育を支援-桜美林大学


●高校との相互理解のため、他大学の入試事例も集めて発信

 桜美林大学は連携先の高校との継続的な勉強会で、探究学習と大学入試について相互理解を深めている。探究入試を先行導入している大学をゲストに招いて入試概要を解説してもらうなど、他大学の事例の研究にも力を入れる。高原氏はウェブサイト等で公表されている情報も集めて先行事例を独自に整理・分類し、下表のようにまとめた。

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 「探究学習の成果を評価する」と明示しているものに限らず、名称に「探究(探求)」を掲げる入試、実質的に探究的な力を評価する入試も含めている。高原氏に、「入試のプロ」の視点から各大学の公表情報を読み解いて解説してもらった。
 
 探究学習評価型入試は大きく分けて、高校での探究学習の成果・実績を評価するもの(①実績評価型)と、探究学習・教科学習を通して修得した学びの力や経験値を独自の試験で間接的に評価するものとがある。後者はさらに、入試の場で探究的な活動に取り組ませて実力を見る「②実力評価型」、探究的な学びを通して自己分析し、大学での学びにつなげようとする力を評価する「③自己分析評価型」、事前に示された課題等に基づいてアウトプットする力を評価する「④課題評価型」の3つに分けることができる。

●ハイレベルな「実績評価型」で「エース級の学生」を発掘

 「①実績評価型」の入試では、研究会での発表やコンテストでの入賞など、探究学習の直接的な成果を評価する。高原氏は「探究のサイクルを複数回、回したことによるこれらの成果は大学でも再現性が高いことに着目した入試と言える」と説明。
 成果として求めるレベルは大学によって異なる。出願対象を「SGH(アソシエイト含む)の実績校やSSH校(実績校含む)」等の高校に限定している関西学院大学の「探究評価型入学試験」、出願要件を「評定平均値4.0以上、かつ数学または理科の評定平均値4.2以上」とする国際基督教大学の「理数探究型」などは、「エース級の学生」(高原氏)の獲得を意図した入試と言えそう。社会起業家を多く送り出し、高校教員から「一般選抜以上に合格させるのが大変」と評される慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の「AO入試」も同様だ。
 一方、高原氏は、自身が設計に関わった桜美林大学の「探究入試Spiral」について、「高校で探究のサイクルを複数回回すプロセスを通して気づきや成長があることが重要なので、そこを丁寧に評価していく入試だ」と説明。工学院大学の「探究成果活用型選抜」では、校内での成果発表も実績として出願を認める。探究テーマと関係なくどの学部・学科にも出願でき、他大学との併願を可とするなど、門戸を広げたうえで自学の教育との相性を見定める入試だ。

●アイデアの出し方を指導する教育的な探究入試も

 「②実力評価型」は、図書館での調査や実験室での観察(お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」、ブレインストーミング(高崎商科大学の「探究・ブレインストーミング型」)など、「探究活動の一部を実際に再現する入試」と言える。
 「新フンボルト入試」の「文系」の2次試験では、初日に附属図書館で課題レポートを作成させ、2日目にグループ討論と面接を課す。高原氏は、出願要件の「調査書の学習成績概評がA段階以上であることが望ましい」という点にも着目。「事前の対策が難しい入試であり、探究や教科の学習を通して獲得した実力を素の状態でも高いレベルでアウトプットできる優秀な学生をとる意図がうかがえる」と指摘する。
 一方の「探究・ブレインストーミング型」は、ファシリテーター役の学生を加えた4~5人のグループワークで、当日提示されるテーマについてブレインストーミングでアイデアを出し合う。その後、ワークに関連した質問シートに取り組み、集団面接に臨む。高原氏は「探究そのものである大学での学びや社会で求められる積極性、仲間を巻き込む力を見定める入試」と見る。ワークの前にブレインストーミングでのアイデアの出し方を説明して練習させたり、評価を受験者にフィードバックしたりと、入試自体が学びの機会になる点も特徴的だ。

●深い探究経験で「学びの源泉」を見つけた受験生の自己分析を評価

 「③自己分析評価型」について、高原氏は「特定のテーマにのめり込んで調べたり勉強したりして、自分にとっての学びに向かう源泉を探し当てた受験生を発掘する入試」と読み解く。島根大学の「へるん入試」は、高校で特に力を入れた活動を振り返る「クローズアップシート」や「大学でなぜ、何を学びたいのか」を記述する「志望理由書」などの書類審査を通じて「学びのタネ」、すなわち知的好奇心や探究心を見極める。
 立命館アジア太平洋大学の「世界を変える人材育成入試」は、問いの発見、解決のための仮説、検証、結論という探究的なプロセスをモデル化した「ロジカル・フラワー・チャート」を活用した筆記試験で、探究的なものの見方や考え方など、基礎的な素養を評価する。「出願書類で探究経験についての記述を求めてはいないが、ロジカル・フラワー・チャートは探究学習を深めて自己分析をした生徒でなければ書けないものになっている。APUが常に言っている『世界の学生と机を並べて学ぶために最も必要な要素』をこの入試で問うている」と高原氏。

●入学前教育や1年次の履修と連動する入試も

 「④課題評価型」に該当するのは奈良女子大学の「探究力入試『Q』(文学部)」と羽衣国際大学の「課題探求型」だ。
 奈良女子大学では、「言葉と人間の探究」「社会と人間の探究」など、4つのテーマから1つを選んで出願。1次試験通過者はテーマごとに指定される書籍や資料に関する課題レポートを提出する。2次試験ではそれらの書籍や資料に関する小論文を課し、口述試験も実施。合格者は入学前教育から「探究的な営み」がスタートし、1年次は入試で選んだテーマごとに推奨される科目で探究に取り組む。高原氏は「与えられた課題に丁寧に取り組む『指定校推薦の上位層』的な資質の受験生をターゲットにした入試という印象だ」と話す。
 羽衣国際大学は、課題探求ゼミの受講を必須とし、自宅で作ったノートを持ち込んで課題レポートを作成し、面接も加えて選考する。

●「まずは探究学習の実態や課題の把握から」

 高原氏は「探究学習評価型入試をこれから導入する大学にとって比較的ハードルが低いのは、探究学習での学びや活動の実績を客観的に評価する『①実績評価型』ではないか」と指摘する。「本学の場合、高校教員から『探究学習に取り組ませるだけでも大変で、入試対策の指導まで手が回らない。入試では高校での実績そのものを見てほしい』と言われたこともあり、そうした現場の声を最大限に生かしながら選抜を作り込んだ」。
 もちろん、それぞれの大学が、探究学習評価型入試による入学者に何を求め、自学の教育を通してどう成長してほしいかという具体的なイメージを持ち、それに合った選抜方法を考えることが何より重要だ。高原氏は「まずは高校での探究学習の実態や課題を理解し、それをふまえて、自学との最適な接続を図る入試をデザインすることが大事だと思う」と話した。