佐賀大学が特色加点制度を拡大し、全学部の一般選抜で多面的評価を実施
学生募集・高大接続
2021.0106
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3行でわかるこの記事のポイント
●高校生活での活動を入学後の学びと結びつけ、任意で申請
●書類審査採点システムを活用し、合否ボーダー層を対象に評価
●タブレットを使ったCBTは思考力等の評価に拡大して運用
佐賀大学は2021年度入試から、全学部の一般選抜で主体性等の評価を実施する。高校での活動をアピールする「特色加点制度」を拡大し、ミスマッチ防止にもつなげる。多くの大学が難題とする大人数対象の主体性等評価を可能にしたのが、書類審査採点システムだ。入試のDX化に積極的に取り組む中でのCBTの拡大とあわせ、話を聞いた。
*この記事では便宜上、2019年度までに実施した入試についても「一般選抜」「総合型選抜」「学校推薦型選抜」という名称で統一している。
*2018年1月現在の佐賀大学の入試改革の状況はこちら
佐賀大の入試改革<上>タブレット入試で類題に再挑戦させ学習力を評価
佐賀大の入試改革<下>2019年度一般選抜で主体的な活動・実績を評価
佐賀大学は2019年度入試から、理工学部と農学部の一般選抜に「特色加点制度」を導入している。部活動や探究活動、ボランティア活動などの取り組み内容やその成果を示したうえで入学後の学びにどう結び付けるか説明してもらい、加点方式で評価するというもので、申請は任意。
最初にこの制度を導入したのは芸術地域デザイン学部で、2015年度の新設当初から総合型選抜で実施。理工学部と農学部の一般選抜では合わせて1000人規模の出願に対応するため、紙ベースだった申請をデジタル化し、ウェブ出願システムと連携させた。
2021年度入試からは教育、芸術地域デザイン、経済の各学部でも一般選抜で特色加点を実施。すでに面接や調査書による多面的評価を行ってきた医学部も含め、全学で一般選抜における多面的・総合的評価に取り組む。これを機に「特色加点」という名称は一般選抜のみで使うこととし、総合型選抜等では「活動実績報告書(加点式)」にあらためた。
文部科学省が推進する入試改革では各入試方式において学力の3要素を評価することが課題になっているが、主体性等については評価手法が確立されておらず、多くの大学が⾯接や書類審査で対応しているのが現状だ。多数の志願者を短期間で評価する必要がある一般選抜での実施は特に困難視されている。
佐賀大学ではウェブ出願システムと連携した書類審査採点システムを使って、4000人規模と予想される志願者の申請に対応する。ウェブ出願で入力される志望理由や⾼校での活動・実績などに加え、添付するエビデンス資料を採点システムに取り込み、情報を一括管理。評価のためのルーブリックや判定ルールもこのシステムで設定し、評価結果の検索や抽出、並び替えなどで効率的な採点を支援する。
理工、経済、芸術地域デザインの各学部では合否のボーダー層だけを抽出して特色加点の対象にする。一方、募集人員が少ない教育学部と農学部は全員の資料に目を通すことにしている。自らの意思で申請してきた積極性に応えるためで、学力試験の成績が出てボーダー層が特定される前から読み始めれば合否判定に間に合うという判断だ。
1人の出願者について複数の教員が評価をする。評価担当者は書類審査採点システムに設定されたルーブリックを参照し、4段階ほどの区分(例えば、A、B、C、D)で評価する。その評価結果パターンごとの判定を「3人ともAなら5点」「Aが2人でBが1人なら4点」といった具合にあらかじめ設定しておき、判定が自動計算される。評価が極端に分かれた場合は「協議(が必要)」のフラグを立てるなど、慎重に判定する仕組みになっている。
佐賀大学の特色加点は「この資格を取ると〇点」「あの大会で△位なら●点」という採点ではなく、「専⾨分野に対する強い興味・関⼼および主体的に学び続けようとする意欲と態度」「⾃ら学びを深めようとする⾏動や姿勢を通して、本学部の教育・研究活動を活性化できる可能性」という2つの観点(理工学部と農学部)から総合的・定性的に評価する。この制度が過度な動機付けになり、逆に高校生の主体性を損なうようなことがあってはいけないと考えるからだ。数学オリンピックなどに代表されるような志望分野との関係が深い活動・実績に限らず、探究活動や部活など、普通の⾼校⽣活の中で⾃ら積極的に取り組んだことをアピールしてほしいと呼びかけている。
高校での活動を振り返って⾝に付けた能⼒・スキルや経験を捉え直し、⼤学⼊学後の学習や活動にどのように生かせるか考えることは、それ自体に意義があるはずだ。入試でそれをアピールするためには志望学部のアドミッション・ポリシーや学びの特徴を理解する必要がある。つまり、佐賀大学にとって特色加点制度は、主体性等に関わる資質を評価すると同時にミスマッチを防ぐ手立てでもあるのだ。
特色加点の実施2年目となる理⼯学部と農学部の2020年度入試では、申請率が初年度より上昇。理工学部では前期日程で12.7ポイント増の68.1%、後期日程で14.6ポイント増の51.4%。農学部では前期日程で13.2%ポイント増の73.1%、後期日程で7.6ポイント増の51.9%だった。
両学部を合わせた2020年度の⼊学⼿続き率は、特⾊加点に申請しなかった者が81.8%だったのに対し申請者は92.3%で、より志望度の高い受験生が申請していることがうかがえる。入学オリエンテーションで実施している学生アンケートでは、申請者のほうがアドミッション・ポリシーに対する理解度や⾃律性、リーダー性などが高いこともわかっている。1年次修了時のGPAも申請者のほうが高いという。加点による逆転合格者の中に2年次進級判定で留年した者はおらず、今のところ逆転の妥当性を疑うような問題は生じていない。
申請内容の⼤半が⼀般的な⾼校⽣活での活動や実績であることから、「過度な動機付け」も回避できていると言えそうだ。
ボーダーラインでの合否の⼊れ替わりは主として「申請したか・していないか」が決め手になっている。このことは、高校生活の振り返りと進路の見つめ直しを期待する特色加点申請のインセンティブになり得る。
佐賀大学はペーパーテストでは測れない能力を評価することを目的に、CBT方式にも先駆的に取り組んできた。理工学部と農学部では2018年度入試の専門高校対象の推薦入試から、タブレット(iPad)を使い集合型のCBTを実施。これは「佐賀大学版CBT」の「タイプ1 基礎学力・学習力テスト」で、時間内に受験者が解答を確定させると、即座に自動採点する。不正解だった問題についてタブレットで解説したうえで類似の問題を出し、学習力を確認。4年目となる2021年度入試からは経済学部の普通科高校枠にも拡大する。
2019年度入試からはCBTのバリエーションとして、理工学部などで「タイプ2 思考力・判断力・表現力等を問うテスト」、教育学部で「タイプ3 英語技能テスト」を実施。理工学部の総合型選抜の「タイプ2」は、化学実験等の動画を見せたうえで、観察にもとづく科学的な思考力・判断力・表現力を評価する。初年度には、正解者ゼロとの予想もあった難問で満点に近い成績をとるような実験好きの受験生を発掘したという。教育学部英語分野の総合型選抜の「タイプ3」は、4技能のうち「聞く力」と「話す力」をタブレットを使って測定した。
CBTシステムの開発をはじめとする入試でのICT活用は、学内にオフィスを持つ佐賀電算センターと共同して進めている。共同開発したCBTシステムは、千葉商科大学が2020年度実施の総合型選抜で活用した。
千葉商科大学での導入を支援した佐賀電算センターの小林博昭センター長は「他の大学からも問い合わせや相談が来ており今後、CBTの導入が加速するのではないか。佐賀大学では学習評価の工夫がCBTのねらいの一つであるのに対し、他の大学ではまず採点を効率化することが主な関心事だ」と話す。
コロナ禍を受けてCBTの遠隔実施に関する相談も増えているというが、「今の技術では不正防止の仕組みの整備に膨大なコストがかかり、実現は難しい。オンライン型のCBTを理想形とするのではなく、現在のCBTの仕組みを活用してできることを考える方が現実的だろう」と小林センター長。
佐賀大学では、受験生が入試対策をすることを前提に「望ましい対策」となる学習を促すような入試改革をめざしている。CBTの「基礎学力・学習力テスト」では学校の授業にしっかり取り組むことが評価に繋がる仕組みにしたことで、基本的な学習習慣を大切にしてほしいというメッセージが浸透してきたのを感じるという。一方の特色加点制度には、高校生活を通して自分が頑張ったことと結びつけながらアドミッション・ポリシーを理解してほしいとの期待を込める。
アドミッションセンターの西郡大センター長は「これからの入試では間違いなくDX化がカギになる。それによってこれまで見えなかった部分が見えるようになり、一歩進んだ多面的評価が可能になる」と話す。「入試はあくまでも人が人を評価するものであり、ICTにはその支援の役割を期待している。例えば、調査書や活動報告書など、さまざまな提出書類の中から理数分野の学習履歴に関する情報だけを抽出・連結できれば、従来以上の情報量をもとに書類審査や面接試験を効果的に実施できる。佐賀大学の教育にマッチした能力や適性を多面的・総合的に評価するという方針の下、ICT活用の可能性は大きい」。
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