中退予防のため、総合型選抜を段階的に再編―関東学院大学
学生募集・高大接続
2020.0922
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●学生データを基に入試方式と中退との関係を分析
●安易な出願が想定され、中退率が高かった募集単位を廃止
●中退率が低い学校推薦型選抜は一層の質向上をめざし出願要件を引き上げ
関東学院大学は中退予防と入学者の質向上を目的に、学生データの分析に基づいて2018年度から年内入試の見直しを続けてきた。総合型選抜を再編する一方、学校推薦型選抜は出願要件を引き上げ、すでに効果が見えだしている。IR先進校における入試改革の一端を紹介する。
*本記事では便宜上、従来の「AO入試」「推薦入試」についても、それぞれ「総合型選抜」「学校推薦型選抜」としています。
関東学院大学が10年ほど前から取り組むIRでは中退予防が重点テーマの一つとして位置付けられ、約2800項目の学生データを蓄積、分析してきた。入試方式をはじめプレースメントテストや学生調査、出席や単位修得の状況、GPAなどのデータを基に1年次前期末には高い精度で中退ハイリスク学生を割り出す。当初はそれらのデータに基づく面談や指導が中退予防施策の柱だったが、次第に「入学後の対応だけでは限界がある」「関東学院での学修とのマッチングを重視した手立てが必要だ」と考えるようになった。
そこで、2017年度に入試課に着任した安田智宏課長(広報課長も兼務)は「関東学院大学で伸び、社会で成功する学生像を分析し、施策に反映する」というIRの基本方針の下、データに基づく入試の見直しに着手。入試改革元年の2021年度入試を見据えて2018年度に新設されたアドミッションズセンターでは規矩大義学長がセンター長に就任し、各学部の入試に関わる権限を統合する体制を敷いて検討を続けた。
まず手がけたのが年内入試の見直しだった。2018年度入試まで、総合型選抜では8月、9月、10月、11月の計4回、募集をしていた。入学後の学生データの分析に基づいて2019年度入試で8月募集を廃止し、2020年度入試では理工学部以外で11月募集も廃止、9月と10月の2回のみにした。入試方式ごとの入学者の分析で、総合型選抜のうち8月と11月の募集による入学者は9月と10月の募集に比べて中退率が1.5~2倍に上っていたのだ。
高校から得られる情報とも重ね、「8月募集では『早く進学先を決めてしまいたい』という安易な動機で出願する生徒が集まり、11月募集では学校推薦型選抜に出願できず、『それなら総合型選抜で』という消極的選択による生徒が流れてくるのではないか」との仮説を立てた。安田課長は「2017年度入試までは学校推薦の出願要件となる評定平均について検証が十分でなかった。11月募集の総合型選抜は、その評定平均に届かない生徒の受け皿になっていたのでは」と解説する。
8月、11月の募集による入学者はGPAも低く、一般入試による入学者との学力面の開きが学修意欲を削ぎ、中退につながると考えた。8月募集については「9月に合格が決まった後、11月後半からの入学準備教育まで2カ月半も間があいてしまう。一度失った学習習慣を取り戻せないまま入学して低迷する学生も多かったのではないか」と安田課長。そこで、中退リスクの高いこれらの募集単位を段階的に廃止したわけだ。総合型選抜についてはその後、文部科学省が出願を従来より1カ月遅い9月以降にすることを決定、同大学が規制を先取りする形になった。
一方でこの間に、学校推薦型選抜の評定平均を少しずつ上げてきた。こちらのねらいは、中退率が最も低いこの入試方式で「自律的に学ぶ学生」のレベルをさらに引き上げることだった。多くの大学が指摘するように、関東学院大学でも評定平均が高い学生は出身高校にかかわらず自律的に学ぶ姿勢を確立できていることが、GPAや学生調査等のデータからわかっていた。「評定平均は基礎学力面では高校による開きがあって一律の基準はさほど意味をなさないが、真面目に授業を受け、ちゃんと宿題をこなすなどの学習習慣を評価する指標としては信頼できる」と安田課長。
3年かけて学校推薦で求める評定平均を上げたうえで、2021年度入試では総合型選抜の10月募集を廃止。11月募集を復活させて9月と11月の2回に変更した。「学校推薦には届かないから」という出願動機の生徒でも、今なら10月募集以上の水準になると判断した。
これらと並行して、選考方法も見直してきた。2019年度入試では、総合型選抜のアウトカム評価で公平・公正性を担保するため書類、面接、プレゼンテーション等の評価にルーブリックを導入。2021年度入試からは、学部・学科とのマッチングを重視し、総合型選抜と学校推薦型選抜の両方に大学入学希望理由書、学修計画書を導入している。
2021年度入試の総合型選抜の再編をもって一連の見直しは一段落し、次年度からは2025年度入試からの「入試改革第2弾」に向けた議論に入る。これまでの見直しの成果については、卒業までのワンサイクルを回したうえで検証する考えだが、「現時点で総合型選抜による入学者のGPAは大きく上がり、中退率も徐々に改善している」(安田課長)と、一定の手応えを得ている。入学定員厳格化による影響との峻別も必要な中、2020年度はコロナ禍によってデータが取れなかったり、従来と同様の評価ができなかったりすることへの対処について検討中だ。
中退予防施策として重要な入学前教育について、安田課長は「現在は知識・技能面の強化を重視する系統とコミュニケーション能力や思考力、表現力を重視する系統の2種類のプログラムを実施しているが、今後は各専門分野との接続を重視した多様なプログラムを整えていくことが課題になる」と話す。