2020.0302

2月上旬現在、私大の志願者数は対前年指数95.8で14年ぶりに減少

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3行でわかるこの記事のポイント

●センター利用方式で1割の大幅減
●入試の難化を受けて出願校数増・学内併願減に動いた?
●志願者数が増え続ける時代から「質」を重視する時代へ

2020年度入試は前期日程がほぼ終わり、後期日程に入っていく。2月上旬までに判明しているところでは、私立大学の一般入試・センター利用方式の総志願者数は対前年指数95.8。14年ぶりの減少で着地する見通しになっている。入定厳格化、入試制度変更による安全志向で併願校数増→志願者数増が続いていた動きは今回、なぜ見られないのか。次年度以降の入試はどうなるのか。データをもとに分析・予想してみる。

*記事中、2020年度入試の私立大学志願者に関する数値は豊島継男事務所が2月7日までに集計したデータ(集計大学数201。2019年度に集計した最終志願者数の73.9%に相当。一部は概数で示している)。各数値は今後、変動する可能性がある。


●センター試験の志願者は既卒者が減少

 私立大学の一般入試・センター利用方式を合わせた総志願者数は279万5000人で対前年指数は95.8。最終集計でも指数が100%を下回ると、14年ぶりの前年割れとなる。一般入試は187万人(指数99.0)、センター利用方式は92万5000人(同89.8)で、センター利用方式で大きく減少している。

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 大学入試センターが公表したセンター試験の受験者数は52万7000人で対前年指数96.5。志願者ベースでは現役が2.7%減、既卒は5.9%減で既卒者が減少に転じている。
 私立大学の一般入試・センター利用方式の総志願者数をエリア別に見ると、東京(92.5)と近畿(95.5)での減少が目立ち、関東甲信越(99.4)、東海(98.3)、九州(107.5)など、地方では微減~横ばいのほか増加するケースも見られる。

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 個別大学の志願者数を見ると、前年度の減少から揺り戻しとなったケースを除き、都市部の大規模大学での減少が目を引く。一方で愛知学院大学、九州産業大学など、各エリアの拠点大学では大幅な増加も見られる。

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●併願のキーとなる大学のセンター方式が著しく難化

 これまで、センター利用方式拡大や全学部入試導入など入試の複線化、学内併願の受験料割引制度などを背景に、私立大学の志願者数は増え続けてきた。今回、減少に転じる見通しとなったのは、18歳人口の減少に加え、入学定員管理の厳格化と入試制度の変更による影響が大きい。入定厳格化の下での合格者絞り込みによって難化した大規模私立大学を敬遠する一方、現行入試が最後となり、浪人を避けようと年内入試で進学先を決める受験生が増えたのだ。
 入定厳格化、入試制度変更による安全志向、現役志向の高まりは、前年度入試までは受験生が併願校を増やす動きにつながり、結果として総志願者数が増加した。今回の入試ではなぜ逆に、総志願者数が減っているのか。
 「出願校数を増やす一方で学内併願は減らした結果、一人あたりの出願件数が減ったのではないか」。受験生の動向に詳しい進研アド・進路データベースマーケティング部の仁科佑一グループリーダーはそう読み解く。2019年度入試では一つの大学を複数回受験し、全て不合格というケースも多くあった。そこで、高校の進路指導では2020年度入試で併願戦略を修正。安全校を中心に難易度の幅を広げて出願校数を増やす一方、学内併願を減らす指導をしたという分析だ。受験料のことを考えると気軽に学内併願できないという事情もあったのではないか。
 「ある大規模私大のセンター方式の実質倍率は、2017年度から2019年度までの2年間で4倍台から8倍台に急上昇した。併願戦略のキーとして成績上位、下位両方の受験生が多く出願する大学で同様に難化したため、センター方式は特に敬遠された。平均点が下がって事後出願も控えられ、センター試験の志願者数が大幅に減ったのだろう」(仁科グループリーダー)。

●意欲、志望度の高い学生の獲得が重要に

 14年ぶりに志願者数が減った今回の入試の後、次年度以降の入試で受験生はどう動くのか。新しく始まる大学入学共通テストはセンター試験とは出題傾向が変わって難化すると予想される一方、入定厳格化による大規模大学の敬遠は続くだろう。こうした情勢の下、多くの大学が、早めに入学者を確保しようと年内入試の枠を拡大する方向にある。18歳人口の減少、および入試制度変更による既卒者の減少も勘案すると、私立大学の一般入試・センター方式の志願者数はさらに減ると予想される。
 では、大学は次年度以降の入試にどう臨めばいいだろうか。仁科グループリーダーは「志願者数が増える時代は終わったという覚悟で、『数から質へ』という発想で学生募集戦略を考える必要がある」と話す。意欲、自学の志望度とも高い志願者を増やすことによって、歩留まりの上昇と中退率の低減を図ることが重要になる。
 受験生心理の変化への対応も求められる。急激な難化によって、模試の判定結果が良かったにもかかわらず不合格になる先輩を多く見てきたため、教員から固めの指導・助言を受けてもなお躊躇し、出願・受験に踏み出せない生徒も出てくるだろう。大学は従来、判定の低い受験生を想定していた「背中を押す」施策を、今後は判定結果が良かった受験生に対しても考える必要がある。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、春のオープンキャンパス中止を決断する大学が相次いでいる。東京オリンピックの開催で夏のオープンキャンパス開催を危ぶむ声も聞かれる。受験生との直接接触の機会が激減しそうな情勢の下、2021年度入試に向け、どのようにしてコミュニケーションを維持し、どんなメッセージを届けるのか。早急な検討・対策が求められている。