小規模大の入学定員充足率の改善傾向が続き800人未満の全区分で上昇
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2019.1028
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3行でわかるこの記事のポイント
●定員割れ大学の割合は3.1ポイント下がり33%に
●入学定員「200人~300人」「300人~400人」で充足に転じた
●入学定員3000人以上の大規模校の充足率は98.8%に低下
日本私立学校振興・共済事業団による2019年度の私立大学入学志願動向調査によると、定員割れした4年制大学は前年度より16校少ない194校で、全体に占める割合は3.1ポイント低い33.0%だった。入学定員管理厳格化による私学助成不交付基準の段階的引き下げの完了後も大中規模大学が合格者を絞り込み、小規模大学が進学の受け皿になっている状況がうかがえる。
*調査結果はこちら
*記事中のグラフはいずれも私学事業団の資料より
私学事業団の2019年度調査では、私立大学587校の入学定員や志願者数、入学者数などを集計し、分析している。全体の入学定員充足率はほぼ前年並みの102.7%だった。
入学定員規模による11の区分ごとに見ると、入学定員が1番目、2番目、4番目に多い「3000人以上」「1500人以上3000人未満」「800人以上1000人未満」以外の全ての区分で入学定員充足率が上昇した。上昇幅が特に大きいのは「300人以上400人未満」(5.5ポイント上昇して103.7%)、「500人以上600人未満」(5.2ポイント上昇して108.8%)、「600人以上800人未満」(5.1ポイント上昇して108.7%)などの小規模大学。「200人以上300人未満」と「300人以上400人未満」は定員割れから充足に転じた。
一方、「1500人以上3000人未満」の充足率は2.4ポイント下降して102.6%。「3000人以上」は1.7ポイント下降して98.8%と定員を割り込んだ。未充足は、定員が最小の「100人未満」(95.0%)、次に少ない「100人以上200人未満」(98.4%)、最大規模の「3000人以上」の3つの区分だった。
私学事業団は今回、収容定員が大規模(8000人以上。2019年度は46校)、中規模(4000人以上8000人未満。89校)小規模(4000人未満。452校)の各区分の入学定員充足率も示した。下図のように、小規模大学では3年連続で充足率と志願倍率が上昇。一方、中規模大学と大規模大学では充足率が下がり、志願倍率が上がる傾向が続いている。特に中規模大学の志願倍率はこの2年間で急上昇した。
これらのデータから、前年までと同様、入学定員管理厳格化の下で全体としては大中規模校が合格者を絞り込み、従来、これらの大学に出願・合格していた受験生が小規模校に流れる傾向が続いたと言えそうだ。ただ、首都圏上位校では2019年度、絞り込みが緩和されたこともあり、大規模大学の志願倍率の上昇と充足率の下降は緩やかになっている。
21のエリア別の入学定員充足状況を見ると、東京(1.8ポイント減の101.9%)、神奈川(2.6ポイント減の101.5%)、愛知(0.3ポイント減の103.5%)、大阪(0.9ポイント減の103.6%)など、大都市部で充足率が下降している。下降幅は前年より小さく、これは大中規模大学による合格者の絞り込みが前年までに比べると緩やかになったためだと考えられる。
充足率が大きく上昇したのは、甲信越(5.1ポイント増の102.3%)、関東(1都3県を除く。4.7ポイント増の109.1%)、東海(愛知を除く。4.6ポイント増の106.6%)、九州(福岡を除く。4.5ポイント増の103.8%)、千葉(4.3ポイント増の107.5%)など。大都市部の大規模校の合格者絞り込みによって、近接するエリアで入学者が増加する傾向が続いている。
前年は数年来の最低水準だった中国(広島を除く)は4.1ポイント増の98.0%だった。上位大学が前年より合格者を絞り込んだことによって他の多くの大学で志願者が増え、歩留まり率も高くなったと推測される。ある小規模大学の学生募集担当者は「このエリアはほとんどが小規模大学だが、前年までは入定厳格化の恩恵を受けていなかった。今年度は大中規模大学がある福岡、広島からも受験生が流れてきて、本学含め1.3倍までのバッファを活用して充足率を上げる大学が多かったのでは」と見ている。
前年、充足率が大きく低下した京都は1.5ポイント回復したが、99.2%で依然、充足していない状況だ。
文科省は、2018年度までの私学事業団の調査結果などを基に、「地域による差異はあるものの、全体で見ると入学定員管理厳格化の施策が大都市圏を中心とする定員超過の適正化に一定の効果をもたらした」と判断、2019年度からの新たなペナルティの導入を見送った。
定員超過率が基準を超えた場合に補助金を不交付とするルールは継続されるのに加え、2021年度の新入試への移行もあり、2020年度入試では受験生が「超安全志向」になると予想される。大学は事前の接触状況や模試の動向から歩留まりを慎重に見極めて合否判定し、定員を適正に確保すること、志望度の低い入学者の受け入れも想定した教育、その他の支援体制を整備しておくことなどを考える必要がある。
一方、大学入学共通テストへの外部英語検定試験導入等によって進路指導が早期化する見込みの2021年度入試の募集広報についても、早めの対応が必要だ。既卒生が減少して安全志向の緩和やチャレンジ志向への転換が起きることも予想される中、環境変化をチャンスに変える戦略的な募集活動が求められる。