2019.0821

これからの大学ブランディング<1> 偏差値ブランドから Myブランドへ

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3行でわかるこの記事のポイント

●昭和は「偏差値」、平成は「実学」、令和に響く大学ブランドとは?
●SDGsもポートフォリオも当たり前、高校生の視線は未来に向く
●「未来」志向の高校生と「過去」「現在」を語る大学

これまで、伝統や偏差値、実学訴求でつくられてきた大学のブランド。長年にわたって大学のブランディングに携わってきた弊社社員が、令和時代の大学ブランドのあり方について2回にわたって語る。

*この記事のPDFはこちら

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(株)進研アド エリアプランニング部部長
  新井千晶
あらいちあき●大学・専門学校のブランディング、プランニングの戦略立案サポートを行う。ACC CMフェスティバル(第51回、第52回地域テレビスポット地域ファイナリスト)ほか、広告賞の受賞多数。
〈執筆・講演活動〉
全国の大学、学校法人の学内セミナー、FD・SD講演多数。テーマはブランディング、学生募集戦略、教育力の可視化、高校訪問戦略、インナーコミュニケーションなど。


昭和は「偏差値」、平成は「実学」
令和に響く大学ブランドとは?

 かつて大学のブランドと言えば、伝統と偏差値でした。創設者から綿々と受け継がれた校風が憧れになり得ましたし、1990年代半ばまでは、「偏差値が高いほどいい大学。いい大学に入ればいい会社に入れる」という直線的なキャリアルートに疑いを持つ人は少数派でした。2000年前後に大学生の就職事情が悪化すると、大学は就職予備校化していきます。学ぶ場所というよりも将来を保証する場所として捉えられるようになり、資格取得に代表される目に見えるメリット、いわゆる「実学」が訴求されるようになりました。医療系、福祉系など、トレンドに乗った学部新設も相次ぎました。
 しかし学部を増やし、定員枠を広げていくことは教育の本分ではありません。社会がしびれを切らす形で、2010年ごろから教育改革の流れが始まりました。このころになると高校生は「入学後に何がしたいか」、大学は「どんな学生が欲しいか」を基準に、互いにマッチングを行うようになります。私たちはこの風潮を「Myブランドの時代」と呼んでいます。

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SDGsもポートフォリオも当たり前
高校生の視線は未来に向く

 Myブランドの時代の高校生は、常に「未来」を見ています。SDGsなどの社会課題への関心が高く、それを題材にした課題解決型学習の質が、学生募集に影響を与えます。高校で見つけ、取り組んだ課題をもっと深められる大学を、彼らは探しています。
 日常的にポートフォリオを運用している高校も、もはや珍しくありません。「先輩の話を聞いて、大学は社会で発揮できる力を磨く場所だと感じた」「中東紛争について学び、1人でも多くの子どもを救いたいと思った」といった、自身の経験を将来に生かしたいという声が、全国の生徒から上がっています。

「未来」志向の高校生と
「過去」「現在」を語る大学

 一方の大学は、高校生に何を伝えているでしょうか。歴史や伝統、資格取得実績。これらは「過去」の話です。学部・学科のバラエティの豊かさや就職に対する手厚いサポート。これらは「現在」の話です。「未来」を見ている高校生に対して、果たして「過去」「現在」の話ばかりでよいのかどうか。
 内容だけではありません。春に大学案内を配り、夏にオープンキャンパスを、秋に推薦・AO入試を、冬に一般入試を告知する。高校生の進路検討時期は10年前と比べて半年以上早まっているのに、高校3年生の夏をヤマ場にした告知があふれています。多くの大学の広報は、自分たちが言いたいことを好きなタイミングで発信していて、受け手視点に立ててはいないのではないでしょうか。
 彼らが知りたいと思う時期に、「未来」のビジョンを語らなければ、高校生の心は動かないでしょう。きっとこんな未来になる、こんな課題が現れる。だから、私たちと一緒に解決しませんか。そんなメッセージを高校1、2年生に投げかけることが、Myブランドの形成には必要です。動き出すなら、なるべく早く。こうしている間にも高校生は未来に向けて学んでいるのですから。