広島経済大学―マーケットデータに基づく広報戦略で入学者の質確保を図る
学生募集・高大接続
2016.0517
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●接触者を出願、入学に導くためのデータ分析を継続
●接触者と出願者のデータが教えてくれる広報の打ち手
●地元の高校の変化を戦略に反映
広島経済大学は、2013年度入試から合格最低点を引き上げ、同時に教育改革も進めている。こうした改革のPDCAサイクルにおいて、接触者(資料請求やオープンキャンパス来場等、大学に接触した高校生)のデータの分析が大きな役割を果たしている。どのようなデータ分析によって、どんな施策を展開してきたのか、紹介する。
※この記事は、『Between』2016年4-5月号の特集内、広島経済大学の事例の続編です。下記URLから本編も併せてお読みください。
https://shinken-ad.co.jp/between/backnumber/pdf/2016_4_tokushu06.pdf
広島経済大学は2012年秋、高校生の接触者データベースシステムを実験的に使い、2008年度入試と2012年度入試の接触者について、高校の進路区分別の分析を試みた。
中堅校を柱とする自学のボリュームゾーンを中心に、接触者は増えていた。その一方で、接触者データを自学の志願者データと紐づけて分析した結果、上位大学併願層、下位大学併願層のいずれでも、接触者の出願率が下がっていることが判明。上位と下位、両方向から食い込まれている状況は、担当者が肌感覚で捉えていた以上の厳しさだった。
※グラフは全て、実データを基に相対的な増減や大小を示しているが、具体的な数値は伏せている。
これを機に、同大学は接触者データベースシステムを本格的に導入。学力上位層の獲得に力を入れるため、接触者データを確認しながら、試行錯誤で募集広報の打ち手を展開していった。
学力上位層の獲得をめざす背景には、地元・広島の高校における指導の変化もあった。広報戦略室の上重(うえしげ)五郎室長は、「高校は近年、学習指導に力を入れて国公立の合格実績向上をめざす進学校と、職業指導、生活指導が中心になりがちな多様校とに二極化し、広島県ではその傾向が特に顕著に表れている。私大を専願する中堅校自体が減りつつある中、そこだけをターゲットにしていてはじり貧だ」と指摘する。
多様校では「何を学ぶか」よりも「何になるか」から考えさせる進路指導が主流のため、資格系、実学系の学部学科を選択しがちだ。広島経済大学のように、ゼネラリストを育てる社会科学系の大学にはなかなか目を向けてもらえない。「われわれは、『何を学ぶか』を考える生徒に選ばれるようになりたいと考えた」と上重室長。
2013年度入試からの合格最低点引き上げも、当面は定員確保を犠牲にしてでも「何を学ぶか」から進路を考える層を取り込み、教育の質を上げていくための施策として決断した。
最低点引き上げ2年目の2014年度入試の後の分析では、入学者の平均偏差値が上昇していた。接触者も中堅校以上の各進路区分で2年続けて増加し、母集団形成の段階は成功していることを確認。一方で接触者の出願率は依然、上がっておらず、課題は、接触してきた高校生をいかにして出願まで導くかであることが鮮明になった。
そのヒントを求めて媒体別の接触状況を分析してみた。成績上位層の接触増加と同期して大幅に増えていたのは、受験情報誌、受験情報サイト、そして公式ホームページからの接触者だった。これらが、欲しい層の生徒たちが積極的に活用する媒体だと推測できる。
この結果をふまえ、毎年、予算削減の対象として検討に上がっていた受験情報誌と受験情報サイトへの出稿の継続、拡大を決定。学力上位層の保護者は、受験校決定における影響力が特に強いことをふまえ、保護者向けの受験情報誌に初めて出稿し、保護者向けオリジナルパンフレットも制作した。
接触者のフォローも強化した。従来、オープンキャンパスや推薦入試の告知のみだったDMに、学生の活躍と成長について紹介するコンテンツを加え、送付時期も進路指導ストーリーに合わせて最適化するなど、出願につなげるための戦略を講じた。今後は、上位層の接触度が高い大学のホームページも強化していく予定だ。
これら一連の発信において、広報戦略のコンセプトを抜本的に見直した。それまでは、課外活動として展開している「興動館教育」を広報コンテンツのメーンとし、「ゼロから立ち上げる興動人」というキャッチコピーで訴求を図っていた。しかし、「課外活動は本来、大学教育のメーンではないし、キャッチコピーとしてわかりづらい」と考え、大学の本分である正課の学びを徹底的に訴求する方向に転換。「全力で、学ぶ君を応援する」というキャッチコピーで広報を展開するようになった。
保護者対策の強化も、「教育の中身を理解してもらったうえで本学が選ばれないなら仕方ないが、取り組みや実績がきちんと伝わらないまま反対されたり、他大学を選択されたりということはあってほしくない」(上重氏)との考えの下で進めた。
これら一連の改革の結果、合格基準点引き上げを維持した2016年度入試では、この4年間で入学者数が初めて増加に転じ、対前年指数110となった。歩留まり率も上がった。成績上位層が接触だけで終わらず、出願、そして入学手続きまで進んだ結果と言えるだろう。定員充足率は依然9割を切っているが、当面は現在の方針を維持する。
高校教員からは、「しっかりと質を保証してくれる広島経済大学には安心して生徒を送り出せる」という声が届いているという。
従来13%前後だった女子学生の比率が20016年度は約3ポイント上昇し、行事への活発な参加など、意欲的な学生が増えている。「厳しい入試」に切り替えた2013年度入学者が4年生になり、就職活動真っ只中。学内の就職支援行事への参加にも積極的で、教職員はその成果を注視している。