2016.0218

ベトナム・インドネシアからの留学生獲得

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~第32回マネ研サロン「今躍動する東南アジアとの大学国際交流 なにが起こっており、どう対応すべきか」参加報告~

大学マネジメント研究会(会長:本間 政雄 学校法人 梅光学院 理事長、立命館アジア太平洋大学 学長特命補佐、事務局:東京・九段南)は、2016年2月9日(火)、第32回「マネ研サロン」を東京・四谷で開催した。今回は、東南アジア事情に精通する2人の講師を招き、日本留学生市場としての可能性について話を聞いた。


 まず、ベトナム事情の専門家である堀江 学 氏(一般財団法人 国際教育交流フォーラム 理事長)による「今躍動する東南アジアとの大学国際交流」と題する講演が行われた。続いて、インドネシア事情に詳しい和氣 太司 氏(弘前大学 副学長・国際連携本部長・教授)から、「インドネシアの大学」と題した話題提供があった。会場には約20名の大学・高等教育関係者が参加した。

 なお、日本学生支援機構が実施した「平成26年度外国人留学生在籍調査結果」(平成27年2月)によれば、ベトナムから日本の高等教育機関への留学生数は、平成25年の6,290人から、翌平成26年には11,174人となり、前年比177%の急増を示している。日本への出身国別留学生数は中国・韓国に次いで3位となっている。

 同じ調査によると、インドネシアから日本の高等教育機関への留学生数は、平成25年は2,410人、平成26年は2,705人で横ばいの状況であり、出身国別留学生数は6位である。

●ベトナムから日本への留学生をめぐる環境

 堀江氏によると、ベトナムからの留学生派出は、オーストラリア・アメリカ・日本の順に多く、今後も留日を希望する学生は増えるだろうと述べた。その背景には、実質経済成長率6%台の高い経済力の発展と日越経済関係の順調な進展、親日的な風土に加え、オーストラリア・アメリカに留学するよりも日本に留学するほうが安価なことを指摘した。

 同氏によれば、ベトナムはIT立国を掲げているが自国の工業生産インフラが未成熟なこと、他のASEAN諸国と同様に中国経済の動向がリスクとなることが特徴だ。また、経済成長に伴いトップビジネスパースンよりも中堅人材の育成が急務であるようだ。ベトナムの大学進学率は20%を越えて高等教育志向が強まっており、日本への留学生は通常、来日後2年の日本語学校での学習を経てから大学に進学することになる。直近の日本への留学生の激増は、日本留学エージェントの強力な勧誘による日本語学校生が増えていることが原因であると述べた。

 また同氏は課題として、ベトナム国内の日本語教育が質的に低く、自国の日本語学校では語学習得に困難をきたす場合があること、また、日本の大学に進学後も留学生への日本語リメディアル教育が十分にできていないことをあげた。

●インドネシアの大学との国際交流

続いて和氣氏が、インドネシアの大学事情と日本の大学との国際交流について述べた。

 同氏によれば、インドネシアでは高校教育の外国語として日本語を選択する生徒の割合が多いので、初級日本語に親しむ機会はあるものの、現状では日本への留学者数は少ない。インドネシアの大学には国立・私立があり、同氏の用語を借りれば、それらの役割は先導大学・準先導大学、地域中核大学、地域密着大学の4つに分類できるようだ。

 日本の文部科学省は「大学の世界展開力強化事業」の平成25年度事業において、日本と東南アジア諸国の大学との共同の研究・教育提携の取り組みを募ったが、インドネシアとの間では同国の代表的な先導大学であるバンドン工科大学との提携が、7事業中4事業でみられる(提携先は複数の国・大学にわたるので、同大学単独との提携ではなく、他国の大学や他のインドネシアの大学も含む)。

 インドネシアの外国語教育環境と大学間提携の実績から、同氏は日本とインドネシアの高等教育の交流の素地はあるとして、特に国際交流推進ニーズの高いインドネシアの大学からの日本への留学ポテンシャルがあるのではないかと指摘した。

●これからの留学生獲得には学生の相互留学の視点も

 講演と話題紹介の後に、上杉 道世 氏(大正大学 理事長特別補佐・質保証推進室長)の司会によるミニディスカッションが催された。

 参加者からは、ベトナムから日本に留学する学生の志望分野の質問が出され、堀江氏から経済・経営など文科系専攻の学生が多く理工系は少ない旨の回答があった。また留学エージェントについては、ベトナムには日本留学のエージェントの団体や自主的質保障のシステムはないため、留学生募集では学業成績とともに十分な面接を行うなどの工夫が必要であること、さらに、ベトナムから日本に留学する学生の日本語能力試験成績は、ハノイの学力の高い一部の高校を除き、N4程度が通常である旨の説明があった。

 インドネシアについては、和氣氏から同国の社会事情について補足があり、就業形態が流動的で、現地の日本企業の賃金はもはや魅力ではないこと、また近年は韓国文化の流入が著しく高校段階でも日本語より韓国語を選択する生徒が増えてきており、日本側に工夫がなければ高等教育で日本留学に直接は結びつかないだろうと述べた。

 そのうえで同氏は、同国からの留学生の受け入れに際しては奨学金など経済的な支援がカギになるとし、イスラム教徒の学生のためのハラール食の用意など、日本側も留学生受け入れの専門家を育てる必要があると述べた。さらに、日本の生徒・学生も東南アジアに目を向け留学が双方向にならなければ、留学を通じた真の国際理解と交流は進まないと指摘した。

 最後に上杉氏が、これまでのような先進国的な姿勢で留学生市場を開拓していくのではなく、相互に留学する交流が必要になるだろうと述べ、会を結んだ。