2022.0204

高校の英語4技能育成に対応した入試と教学の改革を

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校の指導の変化によってアウトプット力が向上
●新卒採用場面でも英語力が注目される
●新課程生受け入れに向け、2021年度入学者の4技能の可視化を

文科省による入試改革の軌道修正により、英語の4技能の測定は各大学の個別試験の中で行うこととされた。一方、高校における英語の指導は4技能の育成を重視したものに切り替わっている。このような現状に大学はどのように対応すべきなのか。ベネッセ文教総研の齋藤輝之研究員に話を聞いた。


齋藤研究員の話は以下の通り。

●今年度の入学生と2年生の「高2時点」「入学直後」の英語力を比較

 2021年度に大学に入学した学生は、入試で英語4技能が課されるという前提のもと、高校で英語教育を受けた学年である。大学入試英語成績提供システムによるスピーキング導入などは見送られたものの、それが発表されたのは高2の冬であり、少なくとも高校3年間の半分以上、4技能の育成を意識した英語教育を受けたことになる。そのことは、入試の内容にかかわらず英語の能力に一定の影響を及ぼしているはずだ。
 それを確かめるため、2021年度の大学1年生と、その1年上の2年生、それぞれが高校2年の冬に受検したGTECのスコアを比較してみた(2年連続で2年生全員が受検した高校を抽出)。4技能のスコアをCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)にあてはめると、1年生の方がレベルA2.2の割合が高かった。技能別ではライティングとスピーキング、すなわちアウトプットの力が高く、特にライティングはB1.1の生徒が最も多かった。
 一方、リーディングのスコアも1年生の方が高い。4技能指導が広がり出した当初はリーディングのスコアが下がるのではないかという懸念の声も聞かれたが、少なくとも今回のデータを見る限り、そのような傾向は確認できなかった。

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 次に、同じく2021年度の1年生と2年生について、大学入学直後の英語力(大学・社会人版GTEC2技能<リーディング、リスニング>)を比較してみた。大学ごとの平均スコアについて1年生を2年生と比べると、多少の増減はあるが、全体平均は+2点でほぼ同レベルだった。
 以上のことから、2021年度の大学1年生は、高校での英語4技能を重視した教育の結果として、リーディング力やリスニング力は上の学年とほぼ同じレベルを維持しながら、ライティング力やスピーキング力がより高いレベルに鍛えられていることがわかる。

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 このような高校の英語教育の成果を大学入試で適切に把握するためには、リスニングとリーディングの評価だけでなく、ライティングとスピーキングも加えることが望ましい。入学後の習熟度別クラス編成の精度を高め、英語学修の成果をより正確に評価するためにも、2技能ではなく4技能を測定することが重要だ。技能ごとの評価を学生にフィードバックすることで、英語学修の目標を具体化・明確化する効果も期待できる。英語の4技能評価は、大学にとっても学生にとっても学修のPDCAを回すのに役立つと考える。

●採用担当者の学修ポートフォリオ検索キーワードは?

 高校や大学で育んだ英語力について、企業は関心を持っているだろうか。下図では、学修ポートフォリオ「dodaキャンパス*」で企業の採用担当者が検索しているキーワードの上位20項目をまとめた。企業が学生のどのような力に着目しているかがわかる。従来、重視されている「パーソナリティ」や、近年のDX化の流れを受けた「ITスキル」に関するキーワードと同様、英語を中心とした「語学」に関するキーワードも上位に来ている。新卒採用場面で英語力が重視されていることがわかる。
* ベネッセi-キャリアが提供する学修ポートフォリオ。学生本人の承諾があれば企業の採用担当者が閲覧したり、インターンシップなどへの参加招待(≒オファー)を送信したりすることが可能。

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●2025年度入学者の到達目標引き上げを検討する大学も

 高校の指導の変化による4技能向上への対応や、アウトプット力が足りない学生に起きている問題について、2つの大学に聞いた。
 1つ目は桜美林大学。ビジネスマネジメント学群で語学育成の統括をしている根津明広准教授によると、2021年度の1年生は入学時点での成績が同程度だった上級生と比べてスピーキングの伸びが良いという。レベル別に3つのクラスを編成しているが、秋学期の時点でほぼ全員が1分以上、最上位のクラスでは3分以上英語で話せるようになっていた。根津准教授は「高校で4技能の下地が育成されているためだろう」と分析する。
 このような入学生の質の変化に合わせて、桜美林大学では4技能を意識した指導を強化する方向だ。4技能の統合的な学習がより重視される新課程で学んだ学生が入学する2025年度には、各レベルのクラスの到達目標を一段ずつ引き上げることも検討しているそうだ。
 2つ目は学生にオンライン留学を積極的に勧めている中央大学。コロナ禍への対応というだけでなく、コスト面の負荷も軽減されることから、語学の力を伸ばしたいと考える学生が参加している。留学を担当する藤井真也特任教授(理工学部)によれば、リーディングやリスニングの力が他の学生と同等でも、スピーキングに自信がない学生は必要以上に簡単なレベルの授業を選択する傾向があるという。「国際学会での受信や発信にも英語力は必須なので、大学入学までに4技能をバランスよく修得してきてほしい」と期待を寄せる。
 高校での4技能指導の拡充に合わせ、大学でも4技能をバランス良く修得するための科目選択を促し、適切な評価やフィードバックを通して学生に自信を与えることが重要だろう。

●求める英語力の明示が受験生のモチベーションを高める

 高校での指導の変化に伴って学生の英語力が変化し、大学の英語教育にも変化の兆しが表れている。新卒採用場面でのニーズが高い英語力の育成は、これからの大学教育の重要な課題である。新課程で学んだ学生が入学してくる2025年度以降、大学はさらなる対応を求められるだろう。
 教育改革を単年度に一気に行うことは困難で、まずは2021年度の1年生の4技能それぞれについて学修成果を正確に把握することが求められる。その結果を入試制度や教学設計に徐々に反映させてはどうか。大学が入学時や卒業時に求める英語力をCEFRのCan-do statements などを参考にして技能別に具体的に示せば、それが内部質保証における指標になり得る。「大学でも英語力を伸ばしたい」と考える高校生や、その指導にあたる高校教員にとって、その大学で学ぶ意義を明確にし、モチベーションを高めることにもつながるだろう。

齋藤輝之(さいとう・てるゆき)
ベネッセコーポレーションで高校・大学を担当。高校担当時は地方部から都市部まで、進路多様校から進学校まで幅広く進路指導を支援し、2016年度から東北支社長を務める。2018年度から大学担当として教学設計や入試設計を支援し、2021年度から現職。

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