2020.0206

海外向け研究ブランディング②地上戦×空中戦の有機的な組み合わせ

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●「人対人の草の根活動」と「メディアを活用した広報活動」の組み合わせ
●国際学会での教員の研究活動も、研究ブランディングの一環
●英訳しただけでは伝わりにくい海外向けマスコミュニケーション

海外向けに研究の特色を発信するには、各教員の国際的な活動をマネジメントすると同時に、その活動の効率をあげるための、マスコミュニケーションが欠かせない。海外市場でのブランディングに精通した進研アドの担当者が、その課題と具体的な解決策についてレポートする。

*この記事のPDFはこちら
「海外向け研究ブランディング①『強みを持つ研究』×『国際的なニーズ』」はこちら

tsutsui.jpg

つついえみ●関西地区での大学支援を経て2018年より現職。THE世界大学ランキング分析や大学の魅力向上施策の企画立案など、多角的に改革支援を行っている。
〈講演活動〉 全国の大学での学内セミナー、FD講演多数。テーマは「ランキングマネジメントとブランディング」「教育力の可視化」「高校教員向けブランディング」など。


国際学会での活動も研究ブランディングの一環

 前回は「海外向け研究ブランディングでは、何を伝えるべきなのか」をテーマにしました。今回は「どうやって伝えるか」、つまり広報手法について解説してまいります。
 一般的な広報・マーケティングの手法の中に、「地上戦」と「空中戦」という考え方があります。「地上戦」とは、ターゲットを明確にしたパーソナルアプローチのこと。つまり「人等を媒介とする、草の根の広報活動」を指します。大学が国内の学生募集のために行っている活動で言えば、高校訪問やオープンキャンパスがこれに当たります。一方で「空中戦」はマスアプローチのこと。広告やウェブプロモーションなど、「メディアを活用した広報活動」を指します。海外向けの研究ブランディングにおいても、この2つの手法をうまく組み合わせることが重要です。
 まず、「地上戦」。これは何も特別な活動をすることではありません。普段各教員が行っている「国際学会や会議への参加」「海外での研究活動」などが、実は立派な研究ブランディング活動になり得るのです。この取り組みに、ちょっとした工夫とマネジメントを加えることで、効果の最大化が見込めます。  
 例えば、多くの大学では所属教員が海外出張をする際は、事前に届けを出し、帰国後は報告をする制度があると思います。ただしこれを、あくまで労務管理目的だけで行っているのでしたら"もったいない"と言えます。「海外向け研究ブランディング」の観点からも、各教員の海外での活動を把握し、戦略的にマネジメントしていくことが大切ではないでしょうか。さらに自学を紹介する英訳資料や発表資料作成用の自学オリジナルフォーマットを各教員に渡すなどして、「大学についてもアピールする」ミッションを持っていただくことも大切です。 
 このように人を介した地道な取り組みは、国内の高校訪問同様、じわじわと貴学の海外での認知拡大に貢献していくでしょう。

海外向けコミュニケーションのツボを押さえた空中戦

 空中戦は、地上戦における各教員の活動の効果を高め、成果につなげるためのものです。具体的には、海外の研究者が手にする国際的な学術雑誌や海外のサイトへの広告出稿などが挙げられます。すでにこれらに取り組まれている大学もあるかもしれません。ただし、国内向けの発信内容をただ英訳しただけなら"もったいない"と言えます。第1回目にお伝えした通り、まず、海外向けに「どの研究分野」をアピールするかを戦略的に決め、そのうえで、メッセージを届けたい海外のターゲットが受け入れられやすい文体や表現、デザインで伝えること。これには外部の専門スタッフの力を借りることも必要でしょう。
 多くの大学は、国内向け募集広報では戦略を立てノウハウも蓄積している一方、海外向けになると戦略が見えてこないのが気がかりです。国内広報と同様、海外向けも「ターゲットを明確にし、効果を想定して計画を立てて取り組む」「実行後にきちんと振り返る」というプロセスを踏むことが肝要です。
 これまで、日本の大学が「自学の研究の強みを海外に伝える努力」をしてこなかったかというと、決してそんなことはないと思います。ただ、それらが「地上戦なのか、空中戦なのか」「2つのバランスが取れているのか」「有機的に結びついているのか」といったことは、あまり考えられてこなかったように見受けられます。現在の取り組みをきちんと整理したうえで、有機的に組み合わせる計画を立てることが、海外向け研究ブランディングの第一歩です。
 次回はブランディングの推進体制をテーマに取り上げます。

 海外向け広報の2つの手法
kenkyu-branding.jpg