2019.0902

梅光学院大学~起死回生のその後<上>「選ばれる大学」になった背景

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3行でわかるこの記事のポイント

●充実した留学プログラムで「留学なら梅光」というポジションを確立
●マーケット拡大による学生募集の安定化で定員増を果たす
●教職と航空業界という出口の特色づくりでも成果が表れだした

山口県下関市にある梅光学院大学(入学定員310人)は、入学定員充足率60%台という苦境にあった7年前から改革に乗り出し、近年は充足率110~120%台を維持している。「留学なら梅光」と言われるような特色づくりとエリアマーケティングの成功が安定的な学生募集につながっている。「地方小規模大学の起死回生」を果たした梅光学院大学の改革の成果と今後の構想を、2回にわたって紹介する。


●共学化、資格系学部の新設も好転にはつながらず

 1967年にミッション系の女子大として開学した梅光学院大学は地元では長く伝統校として知られていたが、二十数年前から学生募集が悪化、共学化や教員免許が取れる子ども学部設置も好転にはつながらなかった。2011年度から2年続けて入学定員充足率が60%台に落ち込んで危機感を強め、2012年度に法人、および学内の組織を一新して改革に乗り出した。
 外部人材の参加を得ての組織改革と業務改善、戦略的な高校訪問やオープンキャンパスによる募集広報強化、教職員の痛みを伴う財政再建と要所への投資強化など、これまでの改革の中身については本サイトでも紹介してきた。

~梅光学院大学の改革に関する記事はこちら~
前編(2015年8月)
後編(2015年9月)
THE世界大学ランキング日本版・留学経験者の割合(短期)1位の梅光学院大の施策

●7年間で志願者数と入学者数が倍増、質の面でも変化が

 梅光学院大学は文学部(入学定員210人)と子ども学部(同100人)で構成、文学部人文学科には語学系3専攻を含む4つの専攻、子ども学部子ども未来学科には児童教育と幼児保育の2つの専攻がある。
 2019年度入試の志願者数(608人)と入学者数(354人)は、底だった2011、2012年度の2倍前後。入学定員充足率は67~68%から114%になり、2016年度から継続的に110~120%台を維持している。改革に着手した直後、子ども学部でまず志願者が増え、その後、文学部の人気が出た。

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 2016年度には子ども学部の入学定員を20人増やして全体で290人に。さらに2019年度には文学部も20人増やして全体で310人にした。定員割れにあえいでいた2009年度には10人の定員減をしており、今回の定員増は感慨もひとしおだったようだ。
 志願者全体に占める福岡県の高校出身者の割合は2014年度の41.8%から2019年度は 45.5%に上昇。下関に近い北九州市にとどまらず、福岡市の高校からも志願者が増加傾向にある。九州北部の佐賀県(2014年度2.6%→2019年度3.3%)、大分県(1.7%→3.5%)からも増え、九州・沖縄地区全体では54%に。マーケットの拡大に伴い、地元・山口県からの入学者の割合は 38.9%から35.0%に下がった。

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 これは改革に着手した当初からのねらい通りだという。東西に長い山口県では、東部の高校生は広島の大学をめざす傾向が根強く、マーケットの掘り起こしは難しい。九州のほうが開拓の余地があると見定め、広報の広域展開や高校訪問によるエリアマーケティングに力を入れてきたのだ。
 以前は少なかった進学校からの入学者が増え、質の面でも変化が表れている。「高校生の子どもがいる教職員によると、県内の進学校で近年、生徒や保護者から『押さえとして梅光もありだよね』といった言葉が聞かれるようになっている」。入試広報部の緑川勝利部長は、数年来の活動の手応えをそう語る。

●わずかだった航空業界の内定が年々、増加

 入り口の成果と対をなす形で出口でも、就職支援に力を入れている航空業界や教職を中心に成果が上がってきた。2013年度までは航空業界への就職はわずかだったが、2014年度以降は航空会社や空港関係の内定者が年々、増加。また、教員採用試験対策の強化により、そちらの合格者も着実に増え、2019年度は41人が一次試験に合格している。

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 専攻によって差が大きかった就職率(卒業者に占める就職者の割合)は、2018年度卒業者については東アジア言語文化専攻、日本文学・文芸創作専攻(2019年度に日本語・日本文化専攻に改編)などの底上げによって改善した。教務部の田中紳一部長(前キャリア支援センター長)は「一部上場企業への内定が増えるなど、質の面でも実績が出てきている」と話す。

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●「留学ホーダイ」「教員の星」など、大学の特色をわかりやすく発信

 入り口と出口、それぞれどんな改革が成果につながったのだろうか。
 学生募集においては、希望すれば学部や専攻に関係なく参加できる留学プログラムの充実ぶりが人気を集めているという。語学に自信がない学生でも受け入れ可能なレベル別・ステップアップ式の多彩なプログラムで多くの学生を送り出し、「THE世界大学ランキング日本版2017」では「全学生に占める留学経験者の割合(短期)」がトップに。
 「留学ホーダイ」というわかりやすいネーミングで、ランキングの結果もエビデンスとして積極的に広報した結果、高校教員が「留学したいなら梅光」と薦めるようになった。推薦入試等の面接では「留学がしたくて梅光を選んだ」という志望理由が、「キャビンアテンダントになりたい」「教員志望だから」といった声と共に確実に増加。戦略的に打ち出してきた大学の特色が受け入れられている。
 就職面の成果につながっているのは、キャリア教育と「学内ダブルスクール化」を掲げて学外と連携して実施している就職支援プログラムだ。
 1、2年次対象のキャリア教育には「進路デー」や、就活を終えた4年次が同乗する船上合宿「梅旅」があり、就職を意識しながら戦略的に大学生活を送るよう動機付けしつつ、ロジカルシンキングの力を鍛える。
 3年次対象の「キャリアデザイン」ではエントリーシートの書き方や面接対策などの就活テクニックを指導。さらに、専門学校との提携による教員採用試験対策プログラム「教員の星」、航空会社傘下のエアラインスクールと提携してキャビンアテンダント等を養成する学内プログラムにも力を入れている。

●キャンパスの賑わいが教職員を同じ方向に向かわせるエネルギー

 学内には「大学は就職予備校ではない」という声もあるというが、「就職実績を出さずして地方大学が学生を集めることなど不可能」と考える執行部はキャリア支援の手を緩めない。2017年度には3年次の「キャリアデザイン」を必修化、田中部長は「この必修化が2018年度卒業生の就職率改善につながったのは明らか」と指摘、航空業界や教員の採用実績が出始めたことにも自信を深めている。
 キャリア支援に限らず、これまでのあらゆる改革は樋口紀子学長らトップと幹部が学内の理解を得ようと粘り強くコミュニケーションする場面の連続だった。募集が好転して学生が増え、キャンパスに活気が戻るなど、成果が顕在化するにつれ、改革に懐疑的な声は少なくなっていった。樋口学長は「実務家教員や企業経験のある職員が増えて主体的にキャリア支援に関わってくれるなど、色々なことがうまく回り出すようになった。キャンパスの賑わいが教職員を同じ方向に向かわせるエネルギーになっている」と話す。