2019.0521

世帯年収400万未満の3割弱が「無償化対象外の大学は志望しない」-ベネッセ調査

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3行でわかるこの記事のポイント

●1037組の高校生と保護者を対象に3月、ネット調査を実施
●対象となり得る層で制度に対する理解が浸透していない
●制度について説明すると、対象層の半数前後が「利用したい」

2020年度から始まる高等教育無償化制度の法案が先ごろ国会で成立し、対象となる大学の申請受け付けが6月下旬から始まる見通しとなった。文部科学省は7月中旬頃まで申請を受け付け、要件を満たしているか確認したうえで9月中下旬に対象大学を公表する予定だ(公立大学は設置者である自治体、私立専門学校は都道府県が申請受け付け・審査を実施)。夏休み明けから受験生の志望校選びが本格化することを念頭に置いたタイトなスケジュールとなる。そうした中、ベネッセコーポレーションが実施した調査では、支援対象になりそうな層の高校生とその保護者の間で、制度に対する理解が十分浸透していないことが浮かび上がった。

*文科省ウェブサイトの「高等教育段階の教育費負担軽減」のページはこちら
*文科省が作成したQ&A集はこちら


●年収380万円未満の世帯を対象に3段階の支援

 高等教育無償化制度は給付型奨学金と授業料等減免のセットで、住民税非課税世帯、およびこれに準ずる世帯からの高等教育機関への進学を支援する。両親と受験生本人・中学生の4人家族で年収270万円未満(目安)の住民税非課税世帯の場合、授業料等減免の上限額が適用され、給付型奨学金も進学先の学校種、国公立/私立、自宅/自宅外の別に応じた上限額の支援が受けられる。年収270万~300万円未満の世帯はその3分の2、年収300万~380万円未満の世帯は3分の1の支援となる。
 支援に当たっては成績だけで否定的な判断をせず、世帯年収などの要件に加え、高校等がレポートの提出や面談により本人の学習意欲や進学目的を確認して決める。
 文科省は、支援対象となる低所得者世帯の高等教育進学率が全世帯平均の約8割まで上昇したと仮定した場合、給付型奨学金と授業料等減免を合わせた費用は最大で7600億円と試算している。

●世帯年収200万~300万円未満の高校生の55%が制度を「知らない」

 ベネッセコーポレーションによる高等教育無償化制度の利用意向に関する調査は、2019年3月中旬、全国の高校1年生~3年生とその保護者1037組を対象にインターネット上で実施された。
 最初に「2020年4月から始まる高等教育(大学/短大/高専/専門学校)無償化制度を知っているか」と尋ねたところ、「知らない」と答えた高校生が45.3%、保護者は38.3%いた。

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 制度について「知らない」と答えた高校生の割合を世帯年収区分別に見ると、「200万~300万円未満」が54.9%と最も高く、次いで「200万円未満」が50.0%。無償化の支援対象となる可能性が高い層で理解が広がっていない現状が浮かび上がった。「300万~400万円未満」でも半数近くが知らない状況だ。
 保護者も「200万円未満」「200万~300万円未満」の両区分のほぼ半数が無償化制度について「知らない」と回答した。

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 調査ではこの後、無償化制度による支援内容、対象となる世帯、対象となる受験生・学生の要件、対象となる大学等にも一定の要件が課されることなどを説明。そのうえで「制度を利用したいと思うか」と聞いた。支援対象になる可能性がある世帯年収400万円未満の層では高校生の46.1%、保護者の52.2%と半数前後が「利用する」との意向を示した。

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 これら無償化制度の利用を希望する高校生や保護者にとって、大学が制度の対象であるか否かは進路選択に影響するだろうか。世帯年収400万円未満で、高等教育機関への進学を希望する層に「自分の希望進学先が無償化の認定対象とならなかった場合、志望度は変化するか」と聞いたところ、最も多いのは「無償化は利用したいが、志望校は変更しない」という回答で高校生、保護者とも60%を超えた。一方で「無償化を利用したいので志望校からはずす」と答えた高校生も26.3%いて、保護者はこれを上回る29.0%だった。つまり、制度の対象か否かによって志望校を変える世帯が一定程度存在するわけだ。

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 ベネッセコーポレーション大学・社会人事業本部の藤井雅徳本部長は調査結果をふまえ、「無償化制度の情報が、真に必要としている低所得層に届いていないことは大きな問題であり、このままではせっかくの制度が十分に活用されない恐れがある」と指摘する。「制度について詳しく説明すると、対象となりそうな層の半数前後が『利用したい』と答えており、認知を広げることが制度の実質化につながる。大学にとっては制度の対象になるための教育の質保証と合わせ、対象となる受験生に対し制度について積極的に広報することが重要になる。その努力によって新たな志願者層を開拓できるはずだ」と述べ、大学の情報発信による高等教育の裾野拡大に期待を寄せる。

*文科省や各自治体は申請に向けた事前相談に応じている。
 文科省の質問受け付けメールアドレスは qafutankeigen@mext.go.jp