戸板女子短大 産学連携の企画・開発で"輝く在学生"を広報して学生募集

●企業と連携する課外プロジェクト活動が必修の正課に発展
●企業出身の教職員が企画を立案し、協力企業を開拓
●オープンキャンパスの学生スタッフが研修を経て主体的に活動

日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、2018年度入試で入学者が定員割れした私立短大は、集計301校中212校で70.4%を占めた。18歳人口の減少、四大志向、専門学校との競合など、さまざまな要因で学生募集に苦戦する短大が多い。そうした中にあって、安定的に学生を確保しているケースもある。東京の戸板女子短大もその一つだ。受験生に人気の資格系分野がなくても、実社会と学びのつながりを体感しながらさまざまな活動にチャレンジする学生の姿を発信して高校生の心を捉え、学生募集につなげている取り組みを紹介する。


●「憧れ」を引き出す広報で慢性的な定員割れから脱却

 戸板女子短大は2018年度、1年次対象の全学必修の教養科目「戸板ゼミナール」で、学生が企業から出された課題の解決に取り組む「産学連携プレゼンテーションプログラム」を開講した。5年ほど前、希望者対象の課外活動として始めた産学連携プロジェクトを発展させたものだ。服飾芸術、食物栄養、国際コミュニケーションの3学科それぞれの専門分野と関係する6企業が協力。500人近い学生が「インスタ映えするスタジアムグルメ開発」「オリジナルワンピースのデザイン」「女子大生に受ける海外旅行企画」などの課題に取り組んだ。 
 課外活動として実施していた頃から、企業のアドバイスの下で企画を練り上げ、商品を作り上げたり、成果についてプレゼンテーションしたりする学生の姿をオープンキャンパスやウェブサイトで強力に発信してきた。

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 その生き生きとした表情や躍動感で短大志望者層の「憧れ」を引き出し、学生募集につなげるサイクルが次第に定着。2011年度以降、ほぼ一貫して志願者が増えている。2015年度にはおよそ10年間続いた定員割れを脱し、その後も充足が続く。

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●広報予算を見直し、「広報すべきコンテンツ」の開発に注力

 戸板女子短大の入学定員は3学科合わせて400人。東京都港区という恵まれた立地ながら、医療、保育等、人気の資格系学科はなく、食物栄養学科でも管理栄養士の資格は取れない。2000年代半ばから定員割れに陥り、充足率50%前後という状態が続いた。
 苦境のさなかにあった2011年、まず手をつけたのが広報予算の選択と集中だった。「お付き合い」的な取り引きが続いていた出広媒体を精査して数を4分の1に減らした。400校ほどを対象にしていた高校訪問も、そのほとんどを休止。これらで浮いた予算と労力を投入し、当面は学内に目をむけて「広報すべきコンテンツ」の開発に注力することにした。
 「将来に不安を抱え、就職に向けてしっかり知識と技術を身につけたい。でも、それだけじゃなく、短大生でもわくわくドキドキできる体験にチャレンジして自分の可能性を広げたい―。そんな高校生をターゲットにして、建学の精神に掲げる『女性の人格形成と自立』を応援したい」。担当者らは、戸板女子短大の新たなブランド構築においてそう考えた。
 具体的な方策を探る中、若い女性に人気のモデルが多く出演するファッションショーのフィッティング会場としてキャンパスを提供したことから、ヒントが得られた。裏方としてショーを手伝う学生たちが「本物の仕事の現場」に触れて表情を輝かせるのを見て、こうした機会を多く設ければ、わくわくできて意欲と自立心も高まるのでは?と思い至る。

●産学連携が採用につながるケースも

 戸板女子短大の入試・広報部、キャリアセンターの職員には企業出身者が多い。それぞれが前職で培った異業種コラボレーションのノウハウや企業ネットワークを生かした産学連携プロジェクトの企画を担った。学生に響き、企業側にもメリットを提供できるアイデアを携え、IT、情報、アパレル、外食などの協力企業を開拓。
 その結果、課外活動として複数のプロジェクトを実施できることになった。当初から学生が主体的に集まってきたわけではないが、その中でも『ぜひチャレンジしたい』と手を挙げた学生を中心に、まずは少人数で実体化させた。
 積極的な広報の効果もあり、2年目以降は参加希望者が徐々に増加。学生から「楽しいけど、自分の力不足を痛感する。もっと勉強しないと」というコメントも聞かれるようになった。こうした教育効果と参加者の増加をふまえ2018年度、必修の正課に昇格させた。
 6つの企業からの課題に対し、1年生全員がグループごとに企画を考えてプレゼンテーションし、企業が選考。採用されたグループは、社員のアドバイスを受けながら企画の実現に取り組む。成果は、オープンキャンパスや10月の学園祭で学生自身がプレゼンテーションやファッションショー、商品販売等の形で発信し、その様子をウェブサイトやYouTubeの動画で公開する。

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 これまでの協力企業は30社ほどに上り、企業側から連携を持ちかけてくるケース、連携が採用につながるケースも出てきた。

●オープンキャンパスのコンテンツは「憧れの先輩」の姿

 入試・広報部はオープンキャンパスの学生スタッフ育成にも力を入れた。こちらも当初は、産学連携プロジェクトの参加者に声をかけてメンバーを確保。高校生の進路選択という重要な局面に関わる責任の重さを自覚させ、コミュニケーションやプレゼンテーションのスキルを鍛えるハードな研修が当初から続いている。
 現在、学生スタッフ「チームといたん」は約100人。毎年、新入生から希望者が押し寄せる。2年生が選抜から研修まで担い、オープンキャンパスの企画も主体的に考える。今では職員の手を離れ、放っておいてもうまく回るという。学科間で高校生の参加満足度を競うなど、企画内容やスタッフのクオリティ向上を図るアイデアも取り入れる。高校生にお礼のハガキを書いたり、母校を訪問して自学のアピールをしたりといった活動も学生スタッフが提案し、主体的に行っている。
 オープンキャンパスの主たるコンテンツは従来の模擬授業から、生き生きと活躍する学生スタッフ、産学連携プロジェクトを通して自信を得た学生など、「憧れの先輩」のリアルな姿へと変わった。志願者が増えだし、推薦入試の面接では「私もプロの人と一緒に商品開発をしてみたい」「オープンキャンパスで会った先輩みたいなかっこいい学生スタッフになりたい」といった志望動機が聞かれるようになった。

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 ピンクを基調にした女性誌のような大学案内にも、ページ全面に写真を配したウェブサイトにも、学生の活動する様子があふれる。こうした広報に対して学内には慎重な意見もあったが、担当職員らは「学生の生き生きした姿こそが本学の1番のアピールポイントであり、元気な短大だと伝えられる」と主張してきた。近年は多くの教職員から「学内に活気が戻ってきた」という声が聞かれ、他の短大からは「戸板の元気の秘密を知りたい」と視察の申し込みや大学案内送付の要望が増えている。

●2年間の成長サイクルをベースにしたブランディングに取り組む

 入学直後から「2年間の自分ストーリーづくり」を始めさせ、計5回の面談を通して「今、必要なこと」を考えさせるなど、短大ならではのきめ細かいキャリア支援も高校から評価されている。
 戸板女子短大にほぼ毎年、複数の生徒が進学している横浜清風高校の石黒さおり進路指導部長は「学生スタッフとして来校する卒業生が生き生きしていて、後輩の指導などに張り切っている様子がよくわかる。高校時代までは十分に輝ききれなかった学生も、個々の可能性を引き出して成長させ、安心できるところに就職させてくれる。これは産学連携の活動による部分が大きいと思うので、ぜひ続けてほしい」と話す。
 入試・広報部の金井裕太部長は「入学直後から企画を考えてプレゼンして、学生スタッフの活動で成長し、就活に突入―。中だるみなどするひまもなく2年間にこれらをぎゅっと詰め込むのは、短大の強みとも言える」と話す。今後は、これまでに確立した2年間の成長サイクルをベースにして、産学連携の強みをさらに生かしたブランディングに積極的に取り組む予定だ。