2018.0801

社会人や留学生の受け入れの具体的規模は示さない方向-将来構想部会

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3行でわかるこの記事のポイント

●「部会で方向性を示し、各大学が主体的に規模や割合を考えるべき」
●入学者ゼロの博士課程も多い大学院教育の実態に意見が相次ぐ
●受け入れ拡大には教育プログラムの見直しが不可避

中央教育審議会大学分科会の将来構想部会は秋の最終報告に向け、注目のテーマ「2040年の高等教育の規模」に関する議論を本格化させた。18歳人口が減少を続ける中で拡大が期待される社会人や留学生の受け入れについて、データに基づいて課題を検討。企業側のニーズや日本社会の労働力ニーズへの対応以上に、学ぶ側が明確なキャリアパスを描ける教育プログラムの提供が重要との考えで一致した。2040年の高等教育規模として、カテゴリーごとの学生数や構成割合を具体的な数字で示すことには慎重な意見が大勢を占めた。

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●「企業側のニーズと社会人本人のニーズは必ずしも一致しない」

 このほど開かれた将来構想部会の会合では、各国との比較も含め、①高等教育の全体規模、②大学院教育の規模、③社会人受け入れの規模、③留学生受け入れの規模等について、文部科学省が資料に基づいて説明した。
 日本では人口100万人あたりの修士・博士の学位取得者数は他の先進国に比べてかなり少なく、特に人文・社会科学分野の少なさが目を引く。韓国、中国を含め他の国では増加傾向であるのに対し、日本は横ばい、減少傾向となっている。

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 日本の大学院について専攻単位の入学者数分布を見ると、入学者が5人未満の専攻も多く、博士課程では入学者ゼロの専攻が最多。私立大学では、入学者3人未満の専攻の定員充足率が修士14.4%、博士19.2%となっている。

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 委員からは、コースワークが確立されず狭い分野の教育が徒弟制的になされている実態、大学院修了者に対する社会的評価の低さが指摘され、それらが国際的に見て低調な大学院進学状況につながっているとの考えが示された。
 社会人教育については、経団連の調査で「従業員を送り出したい専攻分野」として経済学・経営学、情報・数理・データサイエンス、IT関連等が上位に挙がっている。
 これに対して「企業側のニーズと学ぶ本人のニーズは必ずしも一致しない。大学で学ぶことで自分自身にとってどんなキャリアパスが描けるか見えなければ、学ぼうというモチベーションにはつながらない」との意見が目立ち、小ロットの社会人教育における個別ニーズへの対応が課題として挙がった。
 外国人留学生の日本企業への就職状況についても、製造業、商業・貿易等の割合が高いとのデータを確認したうえで、「人手が足りない分野を補う労働力という発想ではなく、本人にとってのキャリアパスが描ける教育プログラムが必要」との指摘がなされた。
 こうした議論をまとめる形で永田恭介・大学分科会長(筑波大学学長)が「社会人も留学生も大学院も今後、受け入れを増やしていくためにはきちんとしたプログラムを提供することが必要ということだろう」と述べた。
 将来構想部会が、2040年に提供すべき高等教育の規模を示すのではと注目する大学関係者も多いが、この日の会合では18歳、社会人、留学生等の人数や割合を具体的に示すことには慎重な意見が相次いだ。「各大学が自学における規模、割合を主体的に考えるうえでたたき台になる方向性を示すことが重要」との考えに集約された。

●大学の経済負担による留学生受け入れの常態化に疑問の声も

 この日の会合で出された主な意見は次の通り

<社会人教育>
●企業が社員に何を学ばせたいかでなく、社会人自身が何を学びたいかという調査が必要
●企業や社会から盛んに「これからは○○のスキルが必要」と言われても学ぶモチベーションにはならない。大学で学ぶことで、自分自身にとってどんなキャリアパスを描けるか見通せることが大事だ。

<留学生の受け入れ>
●社会人教育と同様、留学を検討している人に「日本では○○分野の労働力が不足している」と言ってもあまり意味がない。日本での自分の具体的なキャリアパスをイメージできてこそ留学を考える。
●私立大学の留学生受け入れは奨学金で授業料を無料化し、住居費まで面倒をみるのが当たり前になっていて、大学の負担が非常に大きい。きちんとお金を取れるようにすべき。
●日本の高等教育は今後、世界的に増加する中流層から優秀な人を有償で受け入れていくべきで、そのための教育改革が不可欠。

<大学院教育>
●日本の大学院は専門分野が狭く仕事で生かしづらい。大学教員になっても1分野だけ教えればいいという職場などなく、少なくとも3つ程度の専門分野が必要になる。
●日本の大学院にはきちんとしたコースワークがなく、教員が自分の専門分野だけを伝授するケースが多い。学部教育の質を上げようという議論がずっとなされているが、大学院も同じ課題がある。
●1人か2人の院生を相手に自分の後継者育成のための教育をするだけで、社会に対して知を還元していない教員も多い。教育プログラムの見直しのためには、まずこうした実態について情報公開が必要だ。
●博士は社会から必要とされていないというイメージが定着しているが、実際の就職率は院卒の方が高いケースも多い。きちんとしたエビデンスに基づいて議論すべきだ。
●先進国の中で大学院生に給料を出さないのは日本くらいで、これでは日本の大学院で学ぼうという者が増えなくて当たり前。(学部の)留学生からちゃんと学費を取るべきという主張と相反する部分もあるが。

<まとめ>
●社会人教育も留学生受け入れも大学院も今後、受け入れを伸ばしていくうえでの課題は、きちんとしたプログラムを提供できるかどうかだろう。
●将来構想部会では2040年の18歳、社会人、留学生それぞれの受け入れ規模の人数や割合を示すのではなく、あるべき方向性を示すべきだ。各大学はそれをふまえ、自学の強みや特色を生かしてそれぞれの受け入れ規模や割合をどうするか主体的に考える必要がある。


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