2018.0319

公大協が認証評価機関参入へ-書類を簡素化し質保証活動そのものを支援

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3行でわかるこの記事のポイント

●情報公開を前提にポイントを絞った評価を社会にわかりやすく発信
●自己点検・評価の様式を細かく指定せず簡素化
●質保証に関する全学研修など、自己点検・評価のプロセスを支援

公立大学協会が新たな認証評価機関の設立をめざし、文部科学省への認証申請の準備を進めている。認められた場合、早ければ2019年度から評価活動を始めたい考えだ。認証評価については大学から、受審の負担の大きさがしばしば指摘される。公大協は「社会から信頼を得られる評価と大学の負担軽減を両立しつつ内部質保証活動を支援し、メリットを感じてもらえる認証評価をめざす」という。「評価のための評価」ではなく、実質的な改善や社会への発信につなげるというコンセプトで検討されている新たな評価機関について、公大協の中田晃事務局長に聞いた。


●「負担と成果が見合わない」という問題意識が出発点

 公立大学協会が設立をめざす評価機関の名称は「高等教育質保証支援機構」(仮称。以下、「質保証支援機構」)。評価のポイントを絞り、大学ポートレート等の公開情報を参照することで大学の書類作成の負担を軽減する。その一方、全教職員を対象に内部質保証の重要性を伝える研修、自己点検・評価の段階からの助言、ステークホルダーを加えワークショップ形式で実施する公開審査会等、大学とのコミュニケーションを通して内部質保証活動を支援する。評価報告書は一般の人でも読みやすいコンパクトなものを予定している。
 公大協のこうした構想の背景には、現状の認証評価に対する問題意識、および公立大学が独自に抱える問題があるという。
 最大の問題意識は負担と成果が見合っていないという点だ。大学にとって認証評価を受ける負担は大きいが、多くの場合、そのプロセスや結果を現場の改革に役立てることが難しく、「受けっぱなし」になっているという声も聞かれる。
 公大協は現状、評価結果の公開が形式的になっているという点も指摘する。自己点検・評価報告書や認証評価結果を大学のウェブサイトで公開しても、データ集を含め全体で数百ページに及ぶこともあり、内容も一般の人には難解なことが多い。  
 公立大学独自の問題もあるという。公立大学の多くは法人化され、法人評価を受けている。地方独立行政法人法では、法人評価は認証評価の結果を踏まえて行うことになっているが、書類の様式がそれぞれ異なるなど、相互の活用が難しい。また、国立大学と違い法人評価委員会は大学の設置自治体ごとに設けられるため、受審に関する知見やノウハウを公立大学間で共有できず、対応が成熟しない。これらによって評価の負担感がさらに増すという。

●「適合」「不適合」等の判定は出さない

 質保証支援機構は、認証評価の課題にどう対応していくのか。構想されている評価プロセスに沿って、手法のポイントを紹介する。 

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①大学質保証研修
 認証評価のキックオフとして質保証支援機構の担当者が大学を訪問し、全教職員参加の下、評価の理念や意義、大学を取り巻く環境変化、課題について解説する。大学は、質保証に対する全学的な意識向上を目的としたこの研修を義務化されたSDに位置付けることができる。

② 大学による自己点検・評価
 大学の自主性・自律性を尊重し、各大学が行う自己点検・評価、法人評価を含むさまざまな外部評価の結果を簡潔にまとめる「点検評価ポートフォリオ」の様式を設定。これはエビデンスデータ集を含め50ページ程度に収めるという。
 情報公開がなされていることを前提に、学生数や施設整備状況など、法令適合性等に関する項目については大学のウェブサイトや大学ポートレートの当該箇所を示してもらい、書類での詳細な記述は求めない。
 下記③④のプロセスも含めて点検評価ポートフォリオの作成段階から質保証支援機構が助言し、大学の自己分析力の強化、質保証人材の育成などを支援する。

③書面評価
 完成して提出された点検評価ポートフォリオの内容を審査するだけではなく、その作成過程で書面評価を行い、助言するという位置づけだ。

④訪問評価
 自己点検・評価担当者との面談、教職員や学生からのヒアリングに加え、地元の高校・自治体・産業界など関係者参加の下、特色ある取り組みを発展させるための公開・対話形式の評価審査会(ワークショップ)を行う。

⑤評価結果の返却
 自己点検・評価で実態や率直な意見を引き出すため、評価基準に対する「適合」「不適合」等の判定は出さず、基準ごとの分析や助言・指導を返す。法令に適合していない点は、その内容について指摘する。

⑥「点検評価ポートフォリオ」の完成・公表
 大学は、質保証支援機構から返される評価を反映する形で点検評価ポートフォリオを完成し、公表する。

●「ゼミ・卒論指導型」の認証評価をめざす

 中田事務局長は「従来の認証評価が提出された自己点検・評価報告書をチェックする『レポート提出・採点型』だとすれば、我々がめざすのは自己点検・評価報告書の作成を支援する『ゼミ・卒論指導型』と言える」と話す。全大学一律に全ての評価項目をあてはめて細かく見るのではなく、評価委員の経験と知見に基づいて「この大学であればここを重点的にチェックすべき」とポイントを絞って評価したい考えだ。
 既存の認証評価機関の関係者や大学関係者からは「様々な項目を網羅的に見ることなしに公正な評価、真の質保証が可能なのか」という声も聞かれる。これに対し、中田事務局長は「当然ながら現在の制度が許容する範囲内での簡素化であり、中教審の議論でも大学の負担軽減を図る方向になっている。われわれのやり方で全ての問題をが解決するとは考えていないが、一つのアプローチではある」と説明。「認証評価の手法はもっと多様であっていい。他の評価機関が細部にわたる厳密なチェックで社会の信頼を得ようとするのに対し、われわれはポイントを絞った評価結果を社会にわかりやすく示すことにより、大学に対する理解と信頼を得たいと考えている。認証評価に新しいスタイルが加わることで、大学が評価機関を選ぶ選択肢が広がればいいと考えている」。