2017.0710

23区での定員規制-8月末に一定の方向性提示の見通し

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3行でわかるこの記事のポイント

●留学生や社会人を規制対象から外しても残る難題
●「専門職大学は?」「届け出等による定員増は?」なども検討課題
●大学の先行投資も念頭に、どこから規制の線引きをするかが焦点に

東京23区内での大学の定員増を認めないという政府方針の具体化に向けた検討が、文部科学省で進められている。まずは10月に延期した収容定員増の申請受け付けへの対応を念頭に、8月末には何らかの方向性を示す考えだが、検討課題は山積み。「突然のルール変更」にどの程度、大学の理解が得られるのか、担当者は「まだ腹づもりができていない」と明かす。

*「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」はこちら
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/h29-06-09-kihonhousin2017hontai.pdf#search=%27%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%83%BB%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%83%BB%E3%81%97%E3%81%94%E3%81%A8%E5%89%B5%E7%94%9F%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E6%96%B9%E9%87%9D%27

*「骨太方針2017」はこちら
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/decision0609.html

*「地方創生に資する大学改革に向けた中間報告」はこちら
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/daigaku_yuushikishakaigi/h29-05-22_daigaku_chuukanhoukoku.pdf


●専門職大学の扱いによっては高校生にも不利益

 23区での定員増規制は、内閣官房所管の有識者会議が5月に出した中間報告で提起された。6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針」と「骨太方針」に、この地域での「大学の定員増は認めないことを原則」にすると明記され、政府方針として位置づけられた。「23区内にある学部・学科の収容定員」が規制の対象だ。
 これら政府の「方針」では、規制のための具体的な制度や仕組みについて検討し、「年内に成案を得る」とされたが、文科省は8月中には何らかの方向性を示すべく動いている。今年6月にあった2018年度の収容定員増の申請について、23区内の大学は受け付けを10月に延期、加えて2019年度の大学新設の申請も同月にあるからだ。大学設置基準等の法令に大きな変更を加える場合には1カ月間程度パブリックコメントにかけるのが通例で、そこに間に合わせるために8月中に方向性をまとめる必要があるという。様々な課題や案を近く再開される内閣官房所管の有識者会議に示しながら、調整を図ることになる。
 具体的な規制手段を考えるうえでの難題の一つが、他の政府方針との整合性だ。「留学生30万人計画」達成のための外国人留学生の受け入れや、働き方改革の下での社会人の学び直しの受け皿として、都市部の大規模大学の果たす役割は大きい。文科省は、留学生や社会人を別枠として規制の対象から外すことも検討する。しかし、その場合、私学助成の算定基準にもなる収容定員を「一般学生」「留学生」等、複数のカテゴリーに分けるという煩雑な管理が必要になり、それを23区だけでやるのかという問題も生じる。
 2019年度からスタートする専門職大学を規制の対象とするか否かも、大学の関心事だ。内閣官房の有識者会議の中間報告には「専門職大学の取扱いに関しては、留意が必要である」という文言があり、何らかの例外規定が盛り込まれる可能性が高い。とはいえ具体的な検討はこれからで、内容によっては専門職大学設置予定の大学や専門学校のみならず高校生も不利益を被ることになりかねない。
 さらに、設置基準等による規制が及ばない定員増をどう扱うかという難題もある。例えば、総定員は変えずに、郊外にある学部の定員の一部を23区内にある他の学部に移す場合、現行制度の下では届け出だけで可能だ。さらに、定員を変えず、土地の取得や施設の建設も伴わない形である学部を既存の別のキャンパスに移す場合は、届け出も不要となっている。

●大学トップからは「文科省に背を向ける大学も出てくる」との声

 制度を改正する場合、どのレベルの法令を対象とするかも検討課題だ。有識者の間には「大学設置基準はすでに時代に合わなくなっており、その見直しによって23区問題に対応すべき」との声もあるが、文科省の担当者は「大学に求める最低基準を示した設置基準に、地域を限定した規定はなじまない」と見る。2016年度から始まった入学定員管理の厳格化と同様、設置基準に追加する要件を示した「認可基準」に記載することも選択肢となるが、その場合、今回のような改正内容であれば、省令である設置基準の改正とは違って通常、審議会への諮問は行わない。大学の経営を縛るような重大な制度改正の手続きとして、それが適切かという問題が残る。
 骨太の方針等では23区規制について「本年度から、直ちに、こうした趣旨を踏まえた対応を行う」とされた。これを受け、文科省は今年3月に収容定員増を申請した23区内の各学部・学科について計画の再考を求めたが、受け入れる大学はなかった。定員増を前提に、すでに施設整備や教員確保等の投資がなされており、強制力をもって計画を撤回させた場合に大学の反発は避けられない。
 では、今年6月に申請を予定していた大学、さらには2019年度の定員増に向けて準備を進めている大学などのうち、どこでの線引きなら反発や混乱を回避でき、行政の裁量でやれると判断するのか。その判断次第では経過措置が講じられ、一定の条件の下で次年度の定員増が新たに認められる可能性もある。
 23区内にメインキャンパスを置くある私立大学のトップは、「有識者会議の中間報告にはなかった『(収容定員増の規制を)原則とし』という文言を、骨太の方針等には何とか入れてもらった。『原則はこうだが、こういう場合は例外』という読み方が可能になり、そこに期待をつないでいる」と話す。「私学助成が徐々に削られる一方、定員増という経営努力による収入拡大まで認められなくなれば、文科省と私学助成に背を向ける大学も出てくるのではないか」。

*文科行政に関する記事はこちら

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