2022.0725

年内入試の発信で高校との関係構築、選抜の目標実現を~ベネッセ調査

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3行でわかるこの記事のポイント

●年内入試の目的や求める力、入学者の特徴などを調査
●「意欲」「適性」の高い入学者を獲得するため明確な志望動機を求め、面接を重視
●入学者の状況について高校の理解を深め、円滑な高大接続の実現を

ベネッセコーポレーションはこのほど、大学を対象に、学校推薦型選抜と総合型選抜の実施目的や受験生に求める力、入学者の特徴などに関する調査を実施した。これら年内入試は「意欲」や「大学での学びに対する適性」の高い学生を受け入れるために実施され、実際に意欲の高い学生を獲得できていることがうかがえる。では、こうした年内入試の目的や成果について、大学は高校に発信しているだろうか。高校の指導に詳しいベネッセ文教総研の西島一博所長が調査結果を読み解き、高校側の視点から大学の情報発信について提言する。

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●「求められる力、高校での指導法がわからない」との声を受けて調査を実施

 多くの大学が年内入試での学生の受け入れに積極的な姿勢を示し、入学定員や合格者を増やす傾向にある。年内入試での受験を希望する生徒の増加や探究活動の進展もあり、高校現場でも年内入試の指導に力を入れだしている。こうした中、高校教員からは「学校推薦型選抜と総合型選抜でどのような力を求められ、どういった指導をすべきなのかがわかりにくい」といった声が聞かれる。そこで、ベネッセコーポレーション教育情報センターは「学校推薦型選抜・総合型選抜に関する大学調査」を行った。
 この調査は2021年12月から2022年2月にかけて、全国の国公私⽴⼤学(計777校)を対象に実施。⼊試・広報・学務等の担当者にウェブかFAXによる回答を依頼し、計494校(63.6%)から回答を得た。回答した494校のうち、学校推薦型選抜(指定校推薦を除く)を実施しているのは430校(87.0%)、指定校推薦を実施しているのは353校(71.5%)、総合型選抜を実施しているのは399校(80.8%)だった。調査では、学校推薦型選抜、総合型選抜それぞれを実施している大学に答えてもらった。
 西島一博・ベネッセ文教総研所長による調査結果の解説と大学への提言は以下の通り。

●一般選抜では発掘困難な学生の受け入れが目的

 「実施目的」の回答からは、学校推薦型選抜、総合型選抜とも「意欲が高い」「大学での学びに対する適性が高い」など、教科試験中心の一般選抜では発掘が難しいタイプの入学者を受け入れる意図があることがわかる。
 早期の合格者確保という点も、特に私立大学においては重要であろうが、実施目的の上位には来ていない。一方で高校生の側は、以前からそうであるが、「進学先を早く決めたい」という動機で年内入試での受験を選択する生徒が一定程度いる。このような、ある意味安易な出願がミスマッチにつながりやすいからこそ、「意欲」「適性」の十分な見極めが大切であるというのが入試担当者の考えであろう。

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●総合型選抜では基礎学力を強く求めないとしても

 次に「受験生に求める力」を見る。学校推薦型選抜、総合型選抜とも「明確な志望動機」を強く求めている。実施目的である「意欲」「適性」の見極めのためには当然のことであろう。
 「基礎学力」については、学校推薦型選抜であれば推薦書や評定平均等で一定程度、担保できるが、総合型選抜ではそもそも強く求めていない。「受験の段階で基礎学力が足りなくても、入学後にしっかり育てる」ということであればいいのだが、実態としては「基礎学力を求めたいが、そうすると志願者が集まらないので優先順位を下げる」ということかもしれない。その場合も「この大学は努力しなくても何とかなる」という誤ったメッセージにならないよう、合格者には入学前教育での学習を課すことなど、学力に対する大学の考え方を伝える発信が必要だろう。

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●評価基準の明示によって高校での指導の支援を

 「最も重視する評価項目」は学校推薦型選抜、総合型選抜とも「面接・グループディスカッション」という回答が圧倒的に多く、次いで学校推薦型選抜は「教科試験」、総合型選抜は「志望理由」となっている。「受験生に求める力」の1位が「志望動機」であったにもかかわらず、重視する項目で「志望理由」という回答割合は低い。

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 年内入試での受験を希望する高校生が増えているため、大学ごとに異なる出願書類の作成や面接の指導を行う高校教員の負担は増大するばかりだ。一方の大学側は、受験生の素の状態がわからなくなるという理由で、高校教員による熱心な指導をネガティブに捉える向きもあるだろう。
 しかし、こういった指導なしに、高校生が自己との対話を通してやりたいことを見つけ出し、志望校について調べ、触れたこともない学問の中身を理解し、アドミッション・ポリシーを読み込んで......ということを自身で進めるのは極めて困難である。年内入試の受験希望者が増える中で高校での個別指導が相対的に薄くなっていけば、アドミッション・ポリシーも読み込まずに面接に臨む受験生が続出する可能性もある。
 年内入試の定員の拡大は大学にさまざまな負担をもたらすが、高校にとっても大変である。教科試験の点数だけでほぼ決まる一般選抜と違い、高校教員は合否の基準が不明瞭な中で指導や助言をせざるを得ず、自信を持って進路希望実現の支援を行いにくいのが現状である。
 高校における的確な指導とよりよい高大接続の実現のために、大学は、年内入試における面接やディスカッション、調査書をはじめとする書類について、どのような評価基準で合否を決めるのかをできるだけ具体的に明示すべきではないだろうか。「こういう受験生に受けてほしい」というメッセージも込めて、ルーブリックのような形で提示することによって、高校教員は大学が求めるような生徒を特定して自信を持って受験を勧められるし、受験に向けて生徒の力や気持ちを引き上げられる。その結果、大学側は選抜のねらいを実現しやすくなるはずである。

●多様な人材確保という真意を伝えるため、入学者の特徴を高校と共有

 年内入試で入学した学生はどのように成長・活躍しているだろうか。「入学した学生の特徴」という問いに対し、学校推薦型選抜、総合型選抜とも「学習に対する意欲」「授業以外の活動における積極性」という回答が55~65%に上り、目的にかなった選抜ができていると言える。

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 高校、特に進学校には「入試の本丸は一般選抜である」という進路指導の文化が残っている。「3年生の最後まで努力する生徒であってほしい」「教科学習が高校生の本分である」という純粋な思いからであり、それ自体は正しいことであろう。
 一方で、大学は多様な人材を求めている。教育を活性化させるための手段の一つとして多様な入試を行っているが、その真意は高校側にまだ十分に伝わっていない。
 各大学は選抜方式ごとの入学者の成長、活躍の状況について検証を行っていると思うが、高校訪問でその結果を共有し、学生の多様な活躍の状況をぜひ積極的に発信していただきたい。総合型選抜だからこそ見出すことができた学生の活躍ぶり、一般選抜で評価された学生の成長など、可能であれば訪問先の高校の卒業生の状況を伝え、それぞれの選抜基準にマッチする生徒像を高校側とすり合わせてほしい。そうすることで、選抜や大学教育に対する高校教員の理解が深まるとともに、大学側も選抜における評価の観点・精度が磨かれていくだろう。
 年内入試で入学した学生の「意欲」「積極性」に肯定的な回答ができなかった大学も4割前後ある。これらの大学においては、「他の選抜方式と変わらない」であればまだよいが、「他の選抜方式の入学者のほうが、これらの資質が高い」という場合には、何を評価するのか、何を使って評価するのかといった観点から選抜方法の見直しが必要であろう。

●6割の大学が「指定校推薦での不合格があり得る」

 指定校推薦の合否の基準について尋ねたところ、「基本的に不合格になることはない」と答えた大学は4割にとどまった。残り6割の大学では何らかの基準によって不合格にすることがあり得るわけだ。
 実際には生徒の不合格を経験したことがほとんどない高校も多いだろう。指定校推薦は大学と高校の信頼関係の証でもある。関係を損なうことがないよう、大学は合否の基準を高校にしっかり示し、不合格もあり得ることを理解してもらうことが大切である。

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 大学入試は「選抜」であると同時に、「高大接続」という言葉の通り、高校教育と大学教育をつなぐ仕組みでもある。高校と大学は、どのようにして若い世代を育成していくのか、手を携えて共に考える「同志」である。高校教員にとって、一般選抜と違い学校推薦型選抜、総合型選抜は「わかりにくい入試」「指導が大変な入試」である。年内入試の定員を増やす中、高校での指導・学習と入学者選抜、大学での学修をつなげ、生徒・学生の成長を高校・大学の両者で促すためにも、大学は高大接続の仕組みである入試の意図や内容について、より具体的な情報を発信していくことが肝要である。


西島一博(にしじま・かずひろ)
ベネッセ文教総研所長。ベネッセコーポレーションで小・中・高校の教材開発に従事。2016年度から高校用教材、生徒手帳等の制作・販売を行うグループ会社「ラーンズ」の代表取締役社長を務める。2021年度から現職。主として中高接続、高校教育、高大接続の各領域について研究と情報発信を行っている。

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