2021.0310

【更新】3月初旬現在の私大志願者数は前年比86.8、後期の減少目立つ

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3行でわかるこの記事のポイント


●大都市部を中心に全エリア、全学問系統で減少
●後期試験の志願者数は東海で指数65、北陸は28
●減少の要因は「受験人口の減少」×「1人当たり出願校数減」

2021年度入試は終盤に向かっている。3月初旬時点の集計によると、私立大学の一般選抜・大学入学共通テスト利用方式の総志願者数は対前年指数86.8で、2年連続での志願者減が確実。要因として考えられることを整理したうえで次年度以降の入試について予測し、大学がどう対応すべきか考える。
*記事中、2021年度入試の私立大学志願者に関する数値は、進研アドと連携している豊島継男事務所が3月5日までにまとめたデータをもとにしている(集計大学数は239校で2020年度に集計した最終志願者数の76.2%に相当)。各数値は今後、変動する可能性がある。

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●一般選抜と共通テスト利用方式、いずれも大幅減

 私立大学の一般選抜・大学入学共通テスト利用方式を合わせた総志願者数は285万7154人で対前年指数は86.8。18歳人口の指数97.7と比べても、また、14年ぶりの前年割れとなった2020年同時期の指数95.4と比べても減り幅が大きい。後期試験での減少が目立ち、中間集計を重ねるにつれて全体の指数が徐々に低下している。
 一般選抜は190万7496人(指数86.5)、共通テスト利用方式は94万9658人(同87.3 )でいずれも大きく減少し、センター利用方式のみが落ち込んだ2020年度入試とは様相が異なる。2020年度入試でのセンター利用方式の志願者減は、数年来の安全志向で同方式による併願が増え、難易度が上昇して敬遠されたためだった。今回はメーンの一般選抜でも減少が顕著で、18歳人口の指数との落差を見ると、例年に比べて「受験生がおしなべて出願していない」「1人あたりの出願校数が減っている」といった状況がうかがえる。
 下表の通り志願者数はすべてのエリアで減り、特に東京(87.4)、東海(84.3)、近畿(85.0)など、大都市を抱えるエリアでの減少が目立つ。地方では新型コロナウィルス感染を警戒して大都市圏の大学の受験を避ける受験生も多く、県外の大学を受験した生徒に1週間、登校を控えるよう指導する高校もあるという。

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 後期試験は特に厳しい状況で、一般選抜・大学入学共通テスト利用方式を合わせた志願者数は東海で指数65.0、北陸27.9などとなっている。

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 大規模大学もそのほとんどで志願者数が減っている。
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 早稲田大学は、政治経済学部で募集人員を減らし(一般450人→300人、共通テスト利用方式75人→50人)、一般選抜で共通テストの数学Ⅰ・Aを必須化。国際教養学部、スポーツ科学部も一般選抜で共通テストを必須にするなど、大きな入試改革を行った。志願者数9万1659人、対前年指数87.6で確定。3年連続の志願者減で、この調査を開始した1985年度以降で初めて10万人割れに。
 一方、指数106.8の立教大学は、文と理を除く8学部が個別学部の日程を廃止して全学部日程に一本化し、試験日が3日増えた。これにより学内併願や他大学との併願が増えたと推測される。共通テスト利用方式の志願者数も微減にとどまり、東京地区の大学の中で増加数が最も大きくなった。

●コロナ禍を受けた受験料免除で志願者が増えたケースも

 全ての学問系統で志願者が減り、特に国際・外国語(79.2)、農・生命科学(80.6)での減少が目立つ。国際・外国語系統については、コロナ禍で留学派遣を停止する大学が多いことも影響していそうだ。

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 下表では、一般選抜・共通テスト利用方式を合わせた総志願者数が増えた大学を一覧にしている。

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 志願者増加数が最も多い千葉工業大学(指数105.3)は、コロナ禍による家計急変に対する支援として受験料を無料にした共通テスト利用方式で大きく伸ばした。大阪産業大学(指数116.8)は高校生と保護者が一緒に見られるDMの送付など、広報の工夫に加え、一般選抜の得点と共通テストの高得点科目とで合否判定する「共通テストプラス方式」が浸透してきたことが志願者増につながったと分析している。指数178 .9と大幅増の聖学院大学は、コロナ禍を受けて導入したLINEによる個別相談の活発な利用、新入試の積極的な広報などが要因と言えそうだ。

●年内入試でも減り「受験生はどこに?」の声も

 例示したように一部、志願者が増えた大学もあるものの、私立大学全体としては2年連続の減少で着地するのは確実な情勢だ。総合型選抜をはじめ年内入試も厳しい結果に終わった大学が多く、「受験生は一体どこに行ったのか?」という戸惑いの声も聞かれる。
 志願者減少の背景には、そもそも受験人口が減っていることがある。18歳人口の減少に加え、新入試への移行以前の安全志向で既卒者も指数89と大幅に減少。さらに、「コロナ禍で年明けの入試情勢が読めない中で年内入試で進学先を決めてしまい、受験生が一般選抜まで残らなかった」と読み解く入試担当者も多い。年内入試の志願者が減る中で合格者を例年通り出したり、増やしたりといったケースもあるためだ。高校へのヒアリングによると、家計の悪化などにより大学から専門学校に志望変更する生徒も例年になく多かったようだ。
 受験人口の減少に加え、先に触れた「1人あたりの出願校数減」という要因も挙げられる。コロナ禍の影響は都市部の大学の敬遠にとどまらない。休校で教科指導、進路指導それぞれに遅れが生じて個別試験対策や大学研究が十分にできず、受験生が出願校を減らす結果につながったと推測される。
 入試改革もさまざまな形で影響しているようだ。志望理由書や主体性にかかわる活動の説明を一般選抜の出願要件にした大規模私立大学で志願者が減るケースが目立ち、新たなハードルが受験生に敬遠された可能性もある。さらに、難化が予想されていた共通テスト利用方式への事前出願を控えた、一部の大学が1月の一般選抜実施をやめて併願に利用できなくなった―といったことも考えられる。
 このように、2021年度入試の大幅な志願者減少は「受験人口の減少」と「1人当たり出願校数の減少」のかけ合わせによって起きたと説明できそうだ。

●次年度も志願者減が予想される中、「量から質へ」目標の切り替えを

 では、次年度以降の入試はどうなるだろうか。18歳人口は引き続き減少し、今回の入試で志願倍率が低下して既卒生の減少も続くと予想される。難関大学の難易度は低下する見通しのため次年度も安全志向による出願校数増は起こらないだろう。つまり、「受験人口の減少」と「1人当たり出願校数の減少」による志願者数の減少が続く可能性が高い。
 このような環境予測の下、大学は志願者数のダウントレンドを前提に、コロナ禍による制約が続くことも想定しながら、志願者の量から質へと目標をシフトさせる募集戦略の立て直しを迫られている。
上位校の入試の易化によって歩留まり率の低下が見込まれる大学は、自学を第一志望とする入学者を年内入試で確保することに従来以上に力を入れる必要があり、低学年からのコミュニケーションがますます重要になる。オープンキャンパスなどのイベント依存型からの脱却を図り、非対面型広報の試行を重ねることになるだろう。
 受験生の動向に詳しい進研アド・データサービス開発部の仁科佑一グループリーダーは「従来、出願につながっていたオープンキャンパス参加者が激減する一方、自学のウェブサイトからの接触者・出願者が増加するなど、2021年度入試に関するデータはこれまでにない傾向になっているはずだ。今後のコロナ禍の影響予測は難しいものの、これらのデータを総括し、自学にとっての新たな指標を決めて志望度の高い志願者を確保するための目標管理をすべきだ。高校教員との間でも、コロナのような環境変化によって寸断されない関係構築、コミュニケーション手法の確立が不可欠だ」と指摘する。
 「今回、入試改革が志願者減につながったとしても、自学が求める学生を集めるために必要な改革だったはずで、数だけを見て失敗と捉える必要はない。期待した層の割合が増えたか検証しておくことが大切だ」と仁科グループリーダー。「志望理由書等を必須化した大学は、それを丁寧に読み込んで志望度の高い受験生が集まっているか、ぜひ確認してほしい。そして、受験生が明確な志望理由を書けるだけの大学の特徴を打ち出せていたか総括し、量から質への転換を実現できるよう、広報と入試を継続的に見直していくことが大事だ」。


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