2020.1130

私大の個別試験では全テストの半分近くが記述式なし―文科省の入試調査

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3行でわかるこの記事のポイント

●国公立ではほぼ全てのテストで記述式を出題
●特に数学で国公立と私立の状況の違いが鮮明に
●委員から「私立のサポートを考えるべき」との意見

文部科学省は、全大学を対象に実施した入試調査の結果から記述式問題の出題状況について、「大学入試のあり方に関する検討会議」で報告した。一般入試の個別試験では、国公立大学のほとんどのテストで記述式が出題されているのに対し、私立大学では46%のテストで選択式や〇×式などの客観式のみが出題されていることがわかった。

*記事中の図表は文科省の公表資料から引用
*調査結果の資料はこちら
*「大学入試のあり方に関する検討会議」の全資料はこちら
*調査結果のうち、4技能評価や記述式出題に対する考え方の報告はこちら
*調査結果のうち、センター試験や英語外部検定の活用実態に関する報告はこちら


●国立の数学の全テスト中97.6%は記述式のみで構成

 この調査は、入試改革の再検討の参考データを得るため文科省が20207月から9月にかけて全大学771校を対象に実施、699大学(2222学部、46007選抜区分)から回答を得た(回収率90.7%)。10月下旬の「大学入試のあり方に関する検討会議」で英語4技能評価や記述式問題に対する大学の考え方について、また、11月中旬の同会議ではセンター試験や英語外部検定の活用実態について、それぞれ報告がなされた。今回は記述式問題の出題状況のほか、4技能評価や記述式出題のあり方に関する自由記述の内容が示された。
 一般入試の個別試験全テストにおける記述式問題(短答式・穴埋め式、120字以下の短文、121字以上の長文・小論文、図表・グラフ等で記述する問題など)の出題状況を設置形態別・入学定員規模別に見ると、国公立大学では規模にかかわらず、ほぼすべてのテストで記述式を出題(「記述式のみ」または「客観式+記述式」)していた。
※「客観式」とは○×式、選択式、組み合わせ式、並べ替え式等の問題を指す。
 これに対し、私立大学は全体で45.9%のテストで客観式のみが出題され、規模が大きくなるにつれてその割合が増加、入学定員1000人以上の大学群では56.7%のテストで客観式のみが出題されていた。

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 国公立と私立の違いが特に目立つのが数学だ。
 国立では個別試験における数学の全テストのうち97.6%が記述式のみで構成されていた。さらに、数学の全出題について細かく見ると、54.4%が長文・小論文の記述式だった。公立は全テストの85.7%が記述式のみで、全出題の51.5%が長文・小論文となっている。
 一方、私立では記述式のみは全テストの53.1%で、客観式のみも36.4%あり、「客観式+記述式」は10.5%だった。全出題のうち客観式が58.8%6割近くを占め、短答・穴埋めが32.4%、長文・小論文は6.2%だった。
 こうした状況の下、一般入試の個別試験で、記述式問題(短答・穴埋めを除く)の問題を1問以上解いたと推定される延べ入学者数は、国立で全体の99.1%、公立で99.0%であるのに対し、私立は53.8%にとどまる。

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 この報告を受け、委員からは「国公立では個別試験で記述式の出題ができていることがわかった。今後は私立をどうサポートするか考えていくべきだろう」という意見があがった。

●自由記述では「今後も選択式を中心とせざるを得ない」との私大の声

 これまで検討会議では、記述式は共通テストではなく各大学の個別試験で出題すべきとの考えが繰り返し示された。
 この日の会議では、同じ調査結果から記述式の出題に関する自由記述の意見も紹介された。その中で私立大学からは「今後の大学入試でも選択式を中心とせざるを得ない。記述式の検討と並んで、選択式出題の可能性と限界をあらためて分析し、その改善を図ることも課題」「記述式の出題の有効性は認めるが、私立大学の一般選抜では短期間での採点を考えねばならず、現実には難しい」といった声が。一般入試の受験者数が多く、国公立に比べて教員が少ない私立大学にとって、記述式の作問や採点は難しいという認識があらためて示された。
 そのため、「論理的思考力を高めるというメッセージを発するためには共通テストでの出題が望ましい。AIを用いれば将来的に数問出題することは可能ではないか」「共通テストでの出題・評価に期待している。各大学が多様な選抜方法を実施する上でも大変参考になる」など、当初の方針通り共通テストでの記述式出題に期待を寄せるコメントも。
 一方で、「全国的に総合型選抜の募集人員比率を高めれば、個別選抜である程度、実施可能」「受験者数の多い一般入試では困難であるが、推薦入試では記述や英語面接などを導入し、資質を評価できる体制となっている」など、総合型や学校推薦型を前提に、個別試験での記述式の出題に前向きな私立大学のコメントもあった。