2020.0330

私大協が「共通テストでの外部検定活用は必要性感じず」-入試検討会議

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3行でわかるこの記事のポイント

●加盟校対象の調査結果を報告
●2021年度一般選抜での英語4技能評価は「実施」「検討中」合わせて約半数
●これまでの会議で「入試の機能とは」など、根本に立ち返る議論も

このほど開かれた文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」(座長・三島良直東京工業大学前学長)の第4回で、日本私立大学協会が加盟校に入試について聞いた調査の結果を報告した。2021年度入試で英語4技能評価の実施を考えている大学は、「検討中」を含め約半数。2025年度入試の大学入学共通テストで英語外部検定試験を活用する必要はないと答えた大学は77%に上っている。

*文科省の資料(全体)はこちら
「4技能評価等再検討の有識者会議―「入試で教育を変える」に異議」


●私大協会の調査では共通テストでの記述式の出題も「不要」が85%

 日本私立大学協会の調査は「大学入試のあり方に関する検討会議」での意見表明を目的に、2020年1月下旬から2月上旬にかけて実施された。加盟校404校のうち大学院大学、募集停止校を除く400校が対象で339校(84.8%)から回答を得た。
 検討会議では、同会議委員を務める私大協会の小林弘祐常務理事(学校法人北里研究所理事長)が、調査結果について以下の概要を説明した。
 2021年度入試の一般選抜における英語4技能評価について、「実施する」と答えた大学は27.4%で、実施を「検討中」の大学23.3%と合わせるとほぼ半数。「実施する」と答えた大学のうち77.4%が外部検定を活用する予定で、大学の独自試験を実施する大学は5.4%にとどまる。一方で、2025年度入試の大学入学共通テストで外部検定を活用することが「必要」と答えた大学は19.8%にとどまり、「不要」が77.3%だった。
 また、2021年度入試の一般選抜で記述式問題を出題すると答えた大学は64.9%。「検討中」の17.7%と合わせると約8割に上る。一方で85.3%が、2025年度入試の共通テストで記述式問題の出題は「不要」と答え、「必要」の12.7%を大きく上回った。共通テストに記述式問題を導入する場合の採点者として望ましいのは「大学入試センター」という回答が91.2%と多数を占めた。

●「成績提供時期が現在より遅れるなら共通テストの利用は難しい」

 小林委員は、今回の調査によると全入学者に占めるセンター利用方式による入学者の割合が15%以下の大学が77.8%を占めることも説明。そのうえで、「私立大学では、アドミッション・ポリシーの下ですでに一般入試で外部検定を活用したり、記述式問題を出題したりしている。AO入試や推薦入試など、多様な入試を行う中でセンター利用方式による入学者は少数であり、共通テストでは外部検定の活用や記述式問題の出題の必要性を感じていない」と結論づけた。共通テストの成績提供時期が現在のセンター試験より遅れると、共通テストを利用できない大学が増えるとの見方も示した。
 報告の中で、私立大学の入試は各大学の自主性・自律性に委ねるべきとの考えを強調したうえで、個人的見解として「共通テストで外部検定や記述式問題の出題を実施するのであれば、その採否は各大学の判断に任せてほしい」と要望した。
 私大協会の報告について、日本私立中学高等学校連合会会長の吉田晋委員が「一般入試ではAPに沿って記述式問題を出題しているとのことだが、センター試験のみを課す選抜はどうなっているのか。共通テストの記述式の採点も、APに基づいて各大学が行うのがいいのでは」と質す場面もあった。

●文科省は各外部検定と学習指導要領の整合性確認の中身を説明

 この日の会議では、東京大学大学院准教授の両角亜希子委員が、高等教育の専門家として意見を発表。「国公立大学にとっての入試の問題点は学力選別機能の有無ではなく、実施における負担の重さである。当事者である大学がこの問題をどう変革したいのか、明確にしたうえで議論すべき」「入試を変えることによって教育を変えるという発想自体が間違っている。他の委員から報告があったように高校教育の現場は大きく変化し、大学教育でも英語4技能や記述力を重視する動きが広がっており、これらを支援する方が入試を変えるより有効だ」と述べ、これまでの入試改革の議論のあり方に疑問を投げかけた。
 文科省は、前回会議までの委員からの要望に応え、高校の学習指導要領と英語外部検定試験との整合性確認の内容について説明。「学習指導要領では家庭生活や学校での学習や活動、地域での活動など、多様な言語の使用場面を取り上げて指導することとしており、各検定試験はこうした言語の使用場面の範囲から外れるものではないと確認された。一部、語彙などの難しい試験もあるが、学習指導要領は最低限の学習内容を定めていて上限を示すものではないため、難易度の高さをもって整合性がないとは言えない」とした。

●文科省が示してきた「大前提」に対する異論も

 「大学入試のあり方に関する検討会議」は、①英語4技能評価のあり方、②記述式問題のあり方、③経済状況や地域にかかわらず安心して試験を受けられる配慮―などについて、高校、大学の団体関係者や入試、高等教育の専門家などの委員が話し合う。文科省は年内に提言をまとめて2025年度入試から英語4技能評価を導入したい考えだが、これまでの議論を見る限りそれは難しい情勢だ。
 初回の会議で萩生田光一文科大臣は「若者が英語のコミュニケーション力をつけること、入試で4技能を評価することの重要性に変わりはない」との見解を述べ、「できるだけ公平でアクセスしやすい評価の仕組みの検討を」と要望した。しかし、委員からはこの見解自体に懐疑的な声も挙がっている。「エリート教育として英語を自由に操れる国際人を育成するという話と、同世代の50%を超える大学生にどんな教育を提供したらいいのかという話は分けるべき」「スピーキングの力がなければ大学にふさわしくないとは思わない」といった意見に、他の委員が深くうなずく場面も見られた。
 議論の内容は、外部検定と記述式の見送りの直接的な要因となった「評価の公平性」「地域的・経済的格差への配慮」といった次元の問題を超え、「大学入試の目的・機能とは何で、現状どこに問題があるのか」という「そもそも論」にさかのぼっている。そこからさらに、「入試によって教育を変えられるか」「入学時の基準にすべき力・大学で育成すべき力」「共通テストで問うべきこと・個別試験でしか評価できないこと」など、さまざまな問題が焦点化している。
 これらは制度設計の大前提となる問題であり丁寧な議論が必要だが、そのためのスケジュールの見直しに加え、委員の間でも立ち位置が異なる「そもそも論」をどう集約するのか、文科省は難しいかじ取りを迫られる。