2017.1206

ここが知りたい!新入試~文科省に聞く① 学力の3要素の評価

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3行でわかるこの記事のポイント

●全ての入試方式で学力の3要素を評価する
●「大学入学共通テストのみでは学力の3要素の評価は不十分」
●一般選抜での主体性等の評価においては調査書の活用の実質化を

「大学入学共通テスト」の導入を伴う形で2020年度に実施する2021年度入学者選抜に向け、各大学で入試の見直しが本格化しつつある。文部科学省が示した実施方針等が検討の拠り所となるが、大学が解釈や判断に迷う部分もあるようだ。そこで、これまで進研アドに寄せられた質問を中心に、大学の疑問点について文科省の見解を確認した。「大学の判断に委ねる」とされた部分については進研アドの見解や関連する情報で補足しつつ、各大学が入試改革にどう対応すべきか、3回に分けて解説する。
*本シリーズは11月上旬から下旬にかけて、文科省大学入試室の山田泰造室長に取材した内容に基づいている。
*2017年7月に発表された「大学入学共通テスト実施方針」、および「平成33(2021)年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」はこちら


●「入試方式を"トータルで見れば"3要素を評価している」はNG

1.全ての入試方式で学力の3要素を評価しないといけないのか?
  答えは「Yes」。これについて文科省は次のように説明する。「学力の3要素を多面的・総合的に評価する入試に転換することが求められている。センター試験から大学入学共通テストへの移行に関しては、記述式問題の導入、英語の4技能評価への転換が大きな変更点であり、各大学の個別試験については、各入試区分の改善を図る観点から、評価方法、実施時期等を見直した」。個別試験でも学力の3要素を多面的・総合的に評価する点は今回の入試改革の根幹であり、大学が特に頭を悩ませている部分だ。
 一般選抜では知識・技能のみを評価し、総合型選抜と学校推薦型選抜では思考力・判断力・表現力と「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を中心に評価するという具合に、「全方式トータルで見たときに3要素を評価することになっていれば問題ない」と考える大学も多いようだが、これは現行の入試とほぼ変わらないことになる。一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜の「いずれでも」「3要素全てを」何らかの方法で評価する必要がある。
 新たな入試区分の名称と中身は次のようになる。
●一般入試⇒一般選抜
●AO入試⇒総合型選抜...現行の自己推薦も含む
●推薦入試⇒学校推薦型選抜...現行の指定校推薦も含む
*本サイトでは以前、取材に基づいて「指定校推薦は総合型選抜に含まれる」としたが、今回の取材に基づき、出身高校長の推薦に基づくものは「学校推薦型選抜に含まれる」としている。

●共通テストのマークシート部分のみの活用は想定されていない

2.一般選抜で主体性等をどのように評価すればいいか
 マークシート方式の筆記試験でも出題の工夫によって思考力・判断力・表現力を評価することは可能であり、大学入学共通テストも、センター試験以上に思考力等までカバーできる問題になる見通しだ。共通テストを利用する場合、新たに導入される記述式問題も含めて評価する必要があり、マークシート部分のみの活用は想定されていない。
 筆記試験では難しい主体性等の評価には、調査書や志願者本人が記入する志望理由書等の資料の活用が期待されている。現在、多くの大学が実施しているセンター試験利用方式のように、大学入学共通テストのみで合否判定する方式は「学力の3要素を必ずしも十分に評価していることにならないのではないか」というのが文科省の見解だ。
 「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」には、調査書や志願者本人が記入する資料のほかに「エッセイ、面接、ディベート、集団討論、プレゼンテーション、各種大会や顕彰等の記録、総合的な学習の時間などにおける生徒の探究的な学習の成果等に関する資料やその面談」の活用も例示されている。これらは2月1日以前でも実施できるが、私立大学の場合、志願者数や学内体制、スケジュール等の制約上、一般選抜では当面、調査書の活用が現実的な選択肢となりそうだ。
 現行の入試でも調査書を十分に活用することになっているが、実際に活用している大学は少ないと考えられ、今後は活用の実質化が求められる。そして、具体的な活用方法を早めに公表する必要がある。

●大学からは「調査書のデジタル化は不可欠」との声

 選考に活用しやすくなるよう、2021年度入試から調査書の書式が変わる。「指導上参考となる諸事項」欄を拡充し、ひとまとめになっていた項目を分けて項目ごとに記入できるようにするほか、「留学・海外経験等」「表彰・顕彰等」の項目を追加した。これらの項目を各大学のアドミッション・ポリシーに基づいて、例えば点数化して「一定の得点以上を出願要件にする」「筆記試験の得点に加点する」「筆記試験で一定以上の得点だった者について、調査書の得点で合否を判定する」といった活用法が想定されている。
 一般入試で多くの受験者の調査書を確認するのは大きな負担となるため、文科省の委託を受けて関西学院大学と複数の大学が連携して開発しているeポートフォリオなどの活用も選択肢となる。探究活動、生徒会活動、課外活動や資格・検定など、主体性等の評価のエビデンスとなる情報を蓄積したeポートフォリオを高校や生徒が活用し、その内容をweb出願ポータルサイトから各大学に送信する仕組みで、2019年度入試で実証事業が行われる予定だ。
 大学の入試担当者からは、一般入試で多数の受験者の調査書を確認するにはデジタル化とルーブリック的な書式が不可欠との声が多く聞かれる。文科省は、新学習指導要領への対応に合わせて、前述のeポートフォリオ等の活用状況もふまえながら調査書のデジタル化を検討することにしている。
 調査書については、限られた期間での大人数分の評価という課題以外に、帰国生や浪人生など、調査書を提出できない出願者をどう扱うべきかという問題も指摘されている。文科省は「われわれがこうすべきと言うのではなく、入試の実施主体である大学側からいい知恵を出してほしい。これらの課題について議論はまだ尽くされていない」と話す。


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