2020.0428

乗り切ろう!コロナ危機② ウェブの制約と強みを踏まえた広報戦略とは

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3行でわかるこの記事のポイント

●ウェブ本来の制約に加え「コロナの影響」にも配慮を
●従来の内容の再現では参加者を引きつけられず、離脱のリスクも
●事前に把握した属性ごとに情報を変え、継続的コミュニケーションも可能に

前回は、オープンキャンパスや高校訪問、入試説明会などの対面広報を中止・延期せざるを得ない中、ウェブによるこれらの活動の実施を提案した。新型コロナウィルスの感染拡大の状況はいまだ見通せず、5月以降も高校の休校が続くことが現実味を増してきた。そうした状況の下、ウェブによる対面広報を企画する際に押さえておくべきポイントは何か。進研アドで大学・短大の学生募集広報やブランディングの立案に携わってきた新井千晶エリアプランニング部部長に聞いた。
乗り切ろう!コロナ危機① 数と質の確保に向け対面型広報の代替策を


●ウェブ広報にありがちな2つの誤解

 新型コロナ問題の影響が長引く中、ウェブによるオープンキャンパスや高校教員向け入試説明会を検討する大学が増えており、一部ではすでに実施もされている。
 これら対面広報をウェブで実施する時にありがちな誤解として
①リアルでやっていることをそのまま動画に落とし込めばいい
②面白いコンテンツを作りさえすれば、高校生に見てもらえる
という2つがある。元々、リアルではないがゆえの制約があるのに加え、今の特殊な状況の下での配慮や工夫も必要になる。一方でウェブだからこそ実現できることもあり、課題をクリアしようと知恵を絞る中で新たなアイデアが生まれることも多いはずだ。
 
<「リアルでの実施内容を動画に落とし込むだけ」という誤解>

●「1つのコンテンツは最長でも20分」を目安に

 オープンキャンパスのキャンパスツアーを動画で再現しようとしても、今、大学には学生がほとんどいない。人気(ひとけ)のない建物や教室を漫然と見せるだけで自学の魅力を伝え、受験生の気持ちを動かせるだろうか。この例一つをとっても今、対面広報をウェブ化することの難しさを理解できると思う。
 高校教員向けの入試説明会についても考えてみよう。対面方式なら途中、退屈だと感じても2時間くらいなら我慢して聞いてくれるだろう。ところがウェブ開催で同じ内容を発信したら、簡単に離脱してしまうはずだ。特に今、教員はコロナ問題への対応で従来にも増して多忙を極めている。そう考えると1つのコンテンツは最長でも20分を目安に完結させるのがいいだろう。従来30分、40分かけていた説明を20分に収めるためには本当に伝えたいことだけ残して他を思い切って削ぎ落とす必要があり、かなり苦労するはずだ。

●相談コーナーをいかに機能させるか

 対面方式と同じことを再現するのがそもそも不可能なコンテンツもある。その一つがオープンキャンパスの相談コーナーだ。オープンキャンパスの重要な機能の一つが、受験生の不安や疑問を解消すること。新入試に切り変わるうえに学校に行けない、進路指導も受けられないという現在の環境下で、受験生は例年とは比較にならないほど大きな不安を抱えている。「自分なりに考えてこういうふうに勉強しているけど大丈夫かな」「部活の実績をAO入試でアピールするつもりだったのに2年生の終わりからずっと活動できていない」といった不安を大学がしっかり受け止め、勇気づけるアドバイスをする必要がある。
 多くの大学ではリアルタイムではなく閲覧型のオープンキャンパスになるだろうから、相談への一次対応は質問フォームが適切だろう。想定される質問にチャットボット(入力されたテキストや音声による質問に自動的に回答する仕組み)で答え、キャッチボールをすればいい。
 その先、質問内容がより個別化、具体化してきた段階では、教職員の在宅勤務が続くことも想定して、誰の判断で誰にどうトスアップするかをしっかり決めておく必要がある。トスアップされた担当者はオンラインの相談会を設定し、受験生に日時を通知して来てもらうなど、基本的なフローも決めておかなくてはいけない。ウェブによるコミュニケーションで回答の質を担保するための研修も不可欠だ。夏のオープンキャンパスをウェブ化するなら、これらのことを十分に練り上げるために今から動き始めないと間に合わない。

<「面白いコンテンツを作れば見てもらえる」という誤解>

●コンテンツ作り同様、導線作りも重要

 ウェブによるオープンキャンパスへの集客はリアルのそれに比べると、はるかにハードルが高い。従来なら開催が集中する時期に高校教員が参加を促してくれたが、今の状況ではオープンキャンパスがあるのかどうか、また、どの大学がいつ、どんな方式で開催するのか、高校側も把握するのが難しい。「友達に誘われて」という導線も期待できない。
 大学のウェブサイトにバナーを貼ったところで、元々、自学に関心を持ちサイトをまめにチェックしている受験生以外には見つけてもらえない。たまたまバナーを見て少し興味を持っても「ウェブだからいつでも見られる」と思って通り過ぎ、結局見ないままで終わるということも予想される。それでは、オープンキャンパスを起点にした新たな接点は作れない。
 魅力的なコンテンツを作ることに加え、「絶対見たい」と動機付ける強力な導線も併せて考える必要があるわけだ。 

●ウェブならではのOne to Oneコミュニケーションを

 対面広報のウェブ化について私たちが大学から相談をいただいた時、まず確認するのは「従来のリアルのイベントでは何を実現するためにどんなキラーコンテンツを入れているか」ということだ。オープンキャンパスなら「何を伝えることによって参加者に『この大学は自分に合っている』と思ってもらい、出願・入学へとつなげてきたか」という振り返りが必要だ。ウェブの強みと制約をふまえてその「めざすもの」を可能な限り再現し、何かをプラスアルファすることを考える。
 対面でもウェブであっても、広報の本質は「この情報は誰に何を伝えるのか」を突き詰めていくことだ。その中で個別対応のOne to Oneコミュニケーションを実現しやすいことがウェブならではの強みと言える。イベントへの参加登録時に興味のあるテーマを聞き、一人ひとりの属性に応じて発信内容を変えれば目的の達成度を上げられる。
 このことは、先に説明した教員向け説明会で「コンテンツを20分に収める」というポイントにも生かせる。詳しく知りたいのは一般入試と推薦入試のどちらかといったことを事前に把握し、該当するコンテンツを組み合わせて見てもらうようにすれば、参加者は最短の時間でニーズを満たし、説明会に対する満足度も上がる。その後も、一人ひとりのニーズに合った情報を継続的に届けることによって関係を強化できる。ウェブなら遠隔地からでも参加してもらえるので、従来とは異なる工夫が可能になり、各都道府県出身の学生数やUターン就職率等の情報を個別に提供することなども考えられる。
 オープンキャンパスも同様で、せっかくウェブを活用するのだからこうした強みを生かさない手はない。
 5月末まで休校の継続を決める高校が増えつつあり、今の状況はまだしばらく続くと予想される。夏のオープンキャンパスを従来通りの形で開くのは難しいという想定の下、成果の上がるウェブ広報を検討し始める必要があるだろう。ここでは触れられなかった高校訪問含め、高校教員との関係構築、情報提供の新たな手法も模索を続けていくべきだろう。

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新井千晶
進研アド・エリアプランニング部部長