2020.0422

乗り切ろう!コロナ危機① 数と質の確保に向け対面型広報の代替策を

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●大学からの情報発信も進路指導も停止、高まる高校教員の焦燥感
●高2までの大学情報に基づく進路選択で「出合い」の機会喪失やミスマッチの恐れ
●ウェブによる入試説明会を準備中の大学も

新型コロナウイルスの感染拡大は収束の気配がなく、高大接続にも暗い影を落としている。大学関係者の間では、政府の緊急事態宣言の期限である5月6日以降も休校や外出自粛の要請を想定すべきとの見方が強まっている。大学の学生募集広報、高校の進路指導は事実上停止し、両者のコミュニケーションはほぼ寸断。新入試一期生となる現3年生の納得いく進路の実現が危ぶまれ、大学は定員確保と学生の質確保に危機感を強めている。大学では他にも、在学生の授業や就職支援、留学生の受け入れ・送り出しなど、対応すべき問題が山積している。本シリーズでは大学や高校の声を集めながらいくつかの問題を取り上げ、その影響や対応策について考えていく。初回は高大接続を取り上げる。


●ほとんどの大学が「目の前の在学生の授業で精一杯」

 2月下旬に政府から休校要請が出て以降、多くの高校は登校日を設けないまま新学期を迎えた。大学も新学期スタートを5月に延ばして自宅待機にしたり、オンライン授業で対応したりしている。高校、大学の教職員も徐々に在宅勤務に切り替わり、4月16日に緊急事態宣言が7都府県から全国に拡大されるとその動きが一気に加速した。
 こうした中、大学の学生募集活動と高校の進路指導は事実上、停止状態に陥っている。大学では3月以降、オープンキャンパスや進路ガイダンス、教員向け入試説明会など、対面広報がほぼすべて中止に追い込まれ、高校訪問も見合わせている。教職員は一様に「在学生の授業をどうするかという目の前の課題に精一杯で、次年度の募集や入試のことは後回しにせざるを得ない」と苦しい表情で語る。
 高校側も生徒の自宅学習の指導やケアに追われて進路指導まで手が回らないのが実情だ。進路検討会や3者面談などの行事は軒並み延期。大学からの入試情報の発信が滞る一方、直近の模試が中止になって指導の材料を入手できないことも響いている。新入試制度の導入を前に従来以上に手厚い進路指導が求められている中、焦燥感を募らせている。

●高校教員は「学校再開までに進路指導に使える情報を」と切望

 高校教員からは次のような声が聞かれる。
〇学校が再開したら3年生の進路指導にすぐ着手できるよう、十分な情報を今のうちに入手しておきたい。
〇入試、差し当たって推薦・AO入試のスケジュールと内容がどうなるか、大学から何の発信もなく不安だ。
〇例年、この時期には指定校推薦の案内が郵送されて来る。今年度も指定校になっているか、推薦要件に変更がないか確認したいが毎日学校には行けないので困っている。
〇この先、授業を再開できるのか、ちゃんと成績評価ができるのか不透明な中、推薦入試の評定平均値の基準がどうなるか気になる。
〇入試説明会等で入手していた情報を各大学のウェブサイトで調べるのは大変だし、見落としが怖い。

●特に指導を必要とする推薦・AOを回避する可能性も

 新入試に向けた進路指導の早期化の下、2年次の終わりまでにある程度、志望校を検討していた現高3生も多い。いよいよ第一志望校を絞り込んでいこうという矢先に春のオープンキャンパスが次々に中止になり、困惑と不安の只中にある。
 今回のコロナ問題が受験生の進路選択に与える影響として、次のようなことが考えられる。
〇感染拡大が激しい都市部の大学を敬遠し、地元志向が強まる。
〇経済の失速によって国公立志向が強まり、私大併願校を絞り込む。
〇同じく家計の悪化により、奨学金や授業料減免等、経済支援策の情報ニーズが高まる。
 さらに、教科指導や進路指導が手薄になることによって次のようなことも起こりそうだ。
〇自宅にいる時間が大幅に増えるため大学選びにおける保護者の影響力が増す。
〇ウェブの情報への依存度が上がる。
〇面接・小論文等、教員による指導が必要な推薦・AO入試を敬遠する。
〇逆にこの先、学力を伸ばせるか不安なため、一般入試を避けて推薦・AO入試を選ぶ。
〇オープンキャンパスを通じた大学情報が更新されないため、低学年のうちにオープンキャンパスに参加した大学、2年次までに志望校候補にした大学にそのまま出願する。
〇一般入試の出題範囲の学習を終えられない、模試の中止で志望校判定情報を得られないなどの不安から難関大を敬遠し、安全志向が強まる。
 これらの多くはほぼ全ての大学にとって「本来、自学との相性が良く、選んでくれていたはずの受験生と出合うことすらできない」「自学を志望校の中に入れていた受験生の志望度が上がらず、出願につながらない」というリスクをはらんでいる。その一方で、情報不足で自学の教育の中身を十分に理解しない結果、ミスマッチ入学者が増えることも懸念される。大学は志願者数という「数」の問題、入学者の適性という「質」の問題、両方に直面しているわけだ。

●「夏のオープンキャンパスも通常開催は厳しい」との想定による検討

 先に挙げたような問題を回避するため、そして情報不足で焦りや不安を募らせる高校側を支援するため、大学は「今できること」を考える必要がある。高校教員や高校生との対面広報に代わる施策を早急に考え、コミュニケーションを再開・継続することが第一だ。その際、現在の状況を考えるとやはり、ウェブの活用が妥当な選択肢になる。一部の大学では、オープンキャンパスや高校教員対象の入試説明会をウェブで実施することを決定したり検討したりしている。
 西日本のある小規模大学の職員は「このまま手をこまねいていたら、次年度入試では受験生が知名度のある大学に一斉に流れてしまう。本学では早期の囲い込みをねらって例年、他大学より多くオープンキャンパスを開催していたが、今年度はその予算をDMやウェブ広報に回すことを決めて募集戦略を練り直している」と説明。夏以降のオープンキャンパスの開催も危ういと考え、告知用のチラシには「7月・8月・9月」と開催月のみを入れて「詳しい日程は大学のウェブサイトで確認を」とした。コロナの影響が残る場合には受け入れを少人数に絞って回数を増やすという案に加え、オンラインでの開催も視野に入れている。
 同じく西日本の中堅大学は例年、6月に主な募集エリアで開いている高校教員向けの説明会をオンラインで実施することを決めた。動画を制作し、メールで案内する準備を進めている。高校訪問のめどが立たない中、コロナ問題の発生前に企画、制作した県別の大学紹介パンフレットも役立ちそうだという。
 コロナ問題の収束が見通せない中、ウェブによる説明会やオープンキャンパスを検討する大学は今後、増えていくはずだ。その際、どのようなことに留意すべきなのか。また、ウェブならではの特性を生かしたどんな付加価値を生みだせるのか。次回はこれらの点について考えてみたい。