2017.0112

文科省の私立大学研究ブランディング事業で問われた「全学的な価値」

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3行でわかるこの記事のポイント

●学長のリーダーシップによる全学的な支援体制を評価
●地方や中小規模の大学には地域貢献、学生募集効果の観点も期待
●次年度は選定校数を10~20増やす方向

文部科学省が2016年度にスタートした「私立大学研究ブランディング事業」で、地方大学や中小規模の大学を対象とする「タイプA 社会展開型」では、地域の産業創出や文化振興への貢献をめざす研究など17件が選ばれた。文科省は次年度、選定校数を増やしたい考えなので、「特色ある研究を通じた地域での存在価値向上」に向けた支援獲得のチャンスが広がりそうだ。
文科省の発表資料はこちら。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/002/002/1379675.htm


●研究支援を通じて組織改革を後押し

 この事業には2016年度、私立大学等経常費補助から50億円が計上された。学長のリーダーシップの下、優先課題として全学的な特色を打ち出す研究に取り組む私立大学に対し、3年間または5年間、経常費・施設費・設備費を一体的に支援する。
 従来の研究助成では主に、特定の部局や個人の研究の学術レベルを評価し、選定していた。これに対し、「私立大学研究ブランディング事業」は、研究内容だけでなく、それを全学で支援する体制の構築、大学全体のブランド力向上につなげる広報戦略なども評価対象となる。クロマグロの養殖技術の開発によって大学の知名度を飛躍的に高めた近畿大学がモデルケースと言える。同じく私立大学等経常費補助を活用する「私立大学等改革総合支援事業」同様、学長のリーダーシップに基づく組織改革を促す事業だ。
 「タイプA 社会展開型」は3大都市圏以外にある大学、または収容定員8000人未満の大学が対象で、地域の資源活用、産業の振興、文化の発展等に寄与し、雇用の創出につながるかという点も審査された。特に、地方の小規模大学が地域密着型の研究によって存在感を高め、学生の安定的確保、地域における人材の定着という付加価値を生み出すことが期待されている。一方の「タイプB 世界展開型」は、全国的あるいは世界的な経済・社会の発展、科学技術の進展に貢献する研究が対象。

●「誰に何をどう伝えるか」、ブランディング戦略も問われた

 A、B両タイプとも、申請時の調査票では「その研究を全学的な優先課題として実施するため、全事業期間にわたり必要な金額を継続して学内予算で配分することを大学として決定しているか」「事業の計画にあたり、期待される研究成果およびその測定方法等について、研究成果を波及させようとする対象(企業・自治体・団体等)から意見を聴取したか」等が問われ、得点化された。
 ブランディングについては、「『何を』『誰に』『どのようにして伝えるか』を明確にするために、学内に蓄積されたデータの収集・分析や、情報の発信に関する学外の有識者のアドバイスや学外へのアンケート調査の結果を活用して学内決定を行ったか」が問われた。
 2016年11月に発表された選定校は、タイプAが短大1校を含む17校(申請は129校)、タイプBが大学のみ23校(同69校)の計40校。全体の選定率は20%にとどまった。
 タイプAには、東北学院大学「東北における神学・人文学の研究拠点の整備事業」、北陸大学「北陸地方の生薬研究と食文化を基盤とした健康と創薬イノベーション」など、地域色を前面に出した研究が目立つ。

●計画から評価に至るPDCAサイクルの具体性が採否を分けた

 タイプAに選ばれた千葉科学大学の「『フィッシュ・ファクトリー」システムの開発及び『大学発ブランド水産種』の生産」は、同大学が独自に開発した「好適環境水(魚の種類に応じて成分や濃度を調整した人工飼育水)」を活用。水産業の盛んな銚子市で魚類生産工場のモデルをつくって大学発のブランド水産種を国内外に発信し、新たな水産業を創出するという構想だ。特色ある研究と地元の資源とを結び付けて地域振興につなげ、高校を含む地域社会への情報発信に取り組むというシナリオが評価された。
 文科省によると、選定から漏れた大学の多くは、「その研究によって全学的な価値がどう高まるか」というビジョンや、計画から評価に至るPDCAサイクルの説明に具体性が乏しかったという。
 しかし、地域との連携を重視した研究の着想自体は評価できるものが多かったとして、2017年度は選定校を計50~60校に増やすべく、予算案に5億円上積みした。文科省の担当者は、「大規模総合大学では一つの研究を全学で支援するという合意形成が難しく、小規模大学の方がスムーズな計画策定に有利な面もある」と指摘。今回選ばれなかった大学の再チャレンジを含め、意欲的な申請が期待されている。