入学前教育への期待③医療創生大学-教育力による評価で生き残りを図る
入学前教育・初年次教育
2021.0816
入学前教育・初年次教育
3行でわかるこの記事のポイント
●2021年度入学者からいわきキャンパスの4学部で統一的な実施に
●高校の教育課程を前提にした学外プログラムを活用
●データを使って学生の成長を可視化し、大学の評価向上をめざす
年内入試による入学者が増える中、入学前教育は高大接続の重要な要素になっている。「早期合格者の学習習慣の維持」にとどまらないねらいと戦略を持ってプログラムを実施する大学もある中、3大学の事例をシリーズで紹介する。
医療創生大学(福島県いわき市)は2021年度から、いわきキャンパスの全4学部(薬、看護、医療健康、心理)で入学前教育を統一し、学外のプログラムを活用している。各学部の学問系統に紐づいた教材の下、ロジカルライティングで日本語リテラシーを引き上げる。さらに、英語や理科、数学など、学部ごとに重視する科目の復習も行う。
これまで、学部単位で実施していた入学前教育は年内入試による入学予定者が対象だったが、2021年度からは一般選抜まで広げ、2月末までの合格発表による入学予定者のうち希望者が受講。入学前教育の目的の一つである学習習慣の維持は、年内入試受験者だけの課題ではないと考えたからだ。
薬学部と看護学部は以前からこの外部プログラムを使っていたが、他の2学部はそれぞれ、自前の学力測定用のレポートと日本語リテラシー測定用の小論文を課していた。
15年ほど前、全学で最初に入学前教育を導入したのは薬学部だった。薬剤師国家試験突破に向けて、数学や化学の基礎学力、医療従事者としてのコミュニケーションに必須の日本語能力を一定レベルに引き上げることをめざし、自前の教材でスタート。
同学部が2014年度から外注化した理由について、教務学生課の入学前教育担当者は次のように説明する。「それまでは高校の教育課程を理解しないまま、『ここまではできるようになっておいてほしい』という期待だけで教材を作り、難易度が高くなりがちだった。高大接続の観点に立った入学前教育のためには、高校の学習指導要領や受験から入学に至るプロセスに精通した事業者が、客観的な評価指標に基づいて作る標準的なプログラムの方が望ましいと考えた」。
新しいプログラムは、高校の復習から大学での学びの導入へとつながる構成になっている。高校で勉強した内容が土台になることを実感しながら、新しい学びに対する期待を高めるというコンセプトに共感した看護学部も、2020年度から同じプログラムに切り替えた。
担当者は、この外部プログラムで学力や学習姿勢のデータを取得できる点に着目し、全学的な活用を働きかけた。入学入試広報委員会で「今後は自学の教育による学生の成長を可視化し、それを大学の価値として社会に示すことによって評価を高める必要がある。入学前教育をその起点にすべきだ」と提案。しかし、委員が各学部で説明しても「学生募集がうまくいっているのだから変えなくてもいい」という意見もあったという。
これに対し、担当者は「今の状況がずっと続くと考えるべきではない。18歳人口が減少する中で医療系志望者の規模拡大は望めず、競争が激化して本学のような地方大学は必ず厳しくなる。その前に、教育力が評価される大学になっておく必要がある」と繰り返し主張、最終的には入学前教育刷新の合意を取り付けた。
医療創生大学では元々、教育に手をかけてきたという自負がある。学習の節目ごとに学力チェックのテストを実施し、一定ラインに届かない学生には放課後や土曜・日曜、夏季休暇中に開講する「学内学習塾」で指導している。そこで努力した学生は、出身高校の学力レベルや入試の成績とは関係なく着実に成績が伸び、国家試験にストレートで合格するという。
「『あの生徒が医療創生大学でそこまで成長したのか』という高校教員の評価が、現在の順調な学生募集につながっていると思う。地域での大学の評価を持続させ、生き残っていくためには、確かな力をつけさせる教育に今以上に力を入れる必要がある」(担当者)。
今後は入学予定者の学力レベルや大学での目標、それを実現するうえで足りない部分などのデータを分析し、入学後の教育を最適化したい考えだ。
「入学時の力はこの程度だったが、これだけ勉強したらここまで伸びたということを学生自身に対しても可視化できれば、学ぶ意欲や大学への帰属意識が上がり、結果的に留年や中退も減るはずだ」と担当者。中退率が特に高い薬学部で入学前教育のデータを初年次教育の指導に活用してきた結果、全学の中退率は2017年度の5.9%から2020年度の3.9%まで改善した。
入学前教育をはじめプレイスメントテストや日々のテスト、学力考査、GPA、学生行動調査など、各種データの活用においては職員が重要な役割を果たしている。担当者は「教員はどうしても自分の学部・学科のデータだけを見てしまいがちだが、職員は学部間の比較をしながら俯瞰的に捉える。ある学部で効果を上げている取り組みを委員会等で報告して他学部にも参考にしてもらうのは我々の役割だ」と説明。職員が連携の軸を担う教職協働によって、全学的な改善の仕組みを整えていきたいという。
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