2020.0116

4技能評価等再検討の有識者会議―「入試で教育を変える」に異議

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3行でわかるこの記事のポイント

●これまでの検討経緯の検証も含め、1年で提言をとりまとめ
●座長は2025年度入試からの4技能評価導入を前提にしない考え
●「4技能評価、記述式問題は個別試験で実施すべき」との意見も

大学入試への英語4技能評価や記述式問題の導入について、あらためて検討する文部科学省の有識者会議の初会合が1月15日に開かれた。立場の違いによる意見の隔たりが表面化し、今後の調整の難しさを印象づけた。2021年度入試で始まる大学入学共通テストで4技能評価と記述式問題の導入が見送られたことについて「入試を変えることによって教育を変えようという発想が問題」「これらの評価は共通テストではなく個別試験ですべき」といった意見が複数の委員から出た。閉会後、座長の三島良直東京工業大学前学長は「2025年度入試から4技能評価を導入する」という文科省の方針を議論の前提にはしない考えを示した。

*委員名簿はこちら


●4技能評価と記述式問題は「白紙に戻して議論」

 文科省の「大学入試のあり方に関する検討会議」のテーマは、①英語4技能評価のあり方、②記述式問題のあり方、③経済状況や地域にかかわらず安心して試験を受けられる配慮―など。高校、大学の団体関係者や入試、高等教育の専門家など18人の委員による会議を月1、2回、原則として公開で開き、年内をめどに提言をまとめる。
 会議の冒頭、萩生田光一文科大臣は「若者が英語のコミュニケーション力をつけること、入試で4技能を評価することの重要性に変わりはない。2024年度実施の入試に向け、できるだけ公平でアクセスしやすい評価の仕組みを検討してほしい」と要望。一方、記述式問題については「論理的な思考力や表現力を評価する記述式の役割は重要であり、文科省として大学に個別試験での積極的な導入をお願いしていく。この会議では共通テストや個別選抜での記述式問題のあり方、充実策についての議論をお願いしたい」と述べた。
 三島座長は、外部検定等の導入の是非をめぐる議論で「入試の公平性の重要さが指摘された。受験生が不安を感じるような仕組みであってはならない」と指摘。これまでの検討経緯を検証したうえで、委員以外の有識者からも幅広く意見を聞きながら議論を進める考えを示した。委員からの「4技能評価と記述式については白紙に戻し、原点から議論するとの前提で間違いないか」との質問には、「けっこうです」と応じた。

●入試と教育の関係、格差問題、自前での導入など、意見の隔たりが表面化

 続いて、各委員が意見を述べた。
 複数の委員から「入試を変えることによって高校教育を変えようという発想に問題がある」との発言が出る一方、「高校教育と大学教育をつなぎ、教育の方向性をつくるという入試の役割も重要だ」「入試というテクニカルな話にとどめず、教育改革という一連の話の中で議論すべき」との指摘もあった。
 「4技能や思考力・表現力の評価は共通テストではなく個別試験で行うべき」との意見も聞かれた。オブザーバーとして参加している大学入試センターの山本廣基理事長は「何でもかんでも共通テストに盛り込もうとするのはどうかと思うし、それが混乱の一因になった」とコメント。
 内閣府による子どもの貧困対策の議論に関わった教育行政学の専門家は、外部検定導入が政策の一貫性のなさを示していると指摘。「拙速な入試改革が格差拡大の政策として機能してしまう」と述べると、私立中学・高校の団体代表者が「貧困や格差は政府が(入試改革とは別に)予算をつけて取り組むべき問題」と反論。「日本の教育が世界に遅れをとる中で4技能や思考力・表現力の重要性が認識されて入試制度が決まった。それを白紙に戻すのは、われわれが数年かけてやってきたことをゼロに戻してしまう」と述べた。
 高等教育研究者が「文科省の方針撤回を受けて各大学が導入を取り下げる動きに驚きと憤りを感じた」と述べたのに対し、大学団体の関係者が「外部検定の成績提供システムという前提がなくなった以上、(自前での外部検定活用は)難しい」と返す場面もあった。

●1年の「期限付き」に懐疑的な声

 会議での検討に1年間という期限が設けられていることについては「1年でできる議論を超えている」「最後に事務局案が出て終わりという形は避けたい」など、懐疑的な声が目立った。
 文科省は2025年度入試から4技能評価を導入する考えで、大学には2年前告知ルールに基づき2022年夏ごろまでに入試の変更点を広報してもらう必要がある。そのためには2020年内に検討会議の提言をとりまとめ、それを受けた制度設計を経て2021年夏には大学に制度改革について予告しなくてはいけない-というスケジュールだ。

●共通テストと個別試験の役割分担を議論

 三島座長は閉会後、報道陣の質問に答え、「やる(ことが決まっている)のだからどうやるかという始め方はよくない」と述べ、2025年度入試からの4技能評価導入を前提にしない考えを表明。1年間という検討期間について「最後に強引な決め方にならないようにというのが一番気にするところだ」と話した。
 三島座長はさらに「さまざまな能力の育成を高校と大学でどう分担して接続するのか、共通テストと個別試験の役割をどう分担するかといったことから考えていくべき」と説明。記述式問題については「個人的には共通テストの中でやるのは難しく、個別試験で取り入れるのがいいのかと考えている」と述べた。
 2月7日の次回会合では政策決定過程について詳しく検証する予定だ。