2018.0604

鎌倉女子大学-入試改革元年を見据え、重視するAO入試に磨きをかける

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3行でわかるこの記事のポイント

●配点までガラス張りの学力の3要素の評価方法を絶えず見直し
●指定校・併設校推薦は育成を重視、公募推薦は選抜精度の向上を図る
●伸びしろのある学生確保のための手間暇を惜しまない

鎌倉女子大学は2021年度の入試改革元年をにらみ、募集戦略上、特に重視する新AO入試のブラッシュアップを続けている。今回の入試改革を自学のポジショニングアップのチャンスと捉え、「アドミッション・ポリシーとの適合性と学力の3要素を見極めて受け入れ、入学後、しっかり成長させる」「AO入試の知見を他の入試方式に生かし、2021年度以降の入試に備える」という方針で改革を推進。AO入試の見直しプロセスと専願型重視の入試改革について、入試・広報センターの河村和宏センター長に聞いた。


●プレゼン・面接・集団討論・小論文のフルコースによる多面的評価

 鎌倉女子大学のAO入試(高大接続重視型)は2017年度入試でスタートし、家政学部管理栄養学科を除く4学科(家政学部家政保健学科、児童学部児童学科、児童学部子ども心理学科、教育学部教育学科)で実施している。調査書、および当初はいずれも学科単位での実施だったプレゼンテーション、面接、集団討論、小論文によってアドミッション・ポリシーとの適合性と学力の3要素を多面的に測る。これらの各プロセスで評価する能力と配点を明示し、自学を第一志望とする高校生が具体的な目標を定め、知識の詰め込みではない学力向上に努められるようにしている。

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 それ以前のAO入試では高校での部活動やボランティアなどの実績に関するプレゼンテーションが柱で、大学での目標を考えさせ、評価するものになっていなかった。そのため、入学しても目的意識が弱く学習姿勢に問題があったり、学外実習への参加要件となる成績に達しなかったりという学生が見受けられた。
 そこで、大学で学ぶ意欲と一定の基礎学力を担保できるAO入試への刷新を図った。プレゼンテーションでは、学科の専門分野にかかわる課題解決案や入学後の学修に対する抱負をパワーポイントを使って述べさせる。同じく学科ごとにテーマを設定する集団討論も新たに導入。面接、小論文も合わせ、各プロセスで重複なしの教員2人ずつが評価者となり、1人の受験生を計6人の目を通して多面的に評価する。

*AO入試(高大接続重視型)の詳細はこちら
*本サイトでの紹介記事はこちら

●高校の意見をふまえ調査書の配点をアップ

 AO入試(高大接続重視型)は導入初年度の2017年度入試以降、改良を加えてきた。3年分の評価表の変遷を下に示す(赤字部分が前年度からの変更点)。

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2017年度から2018年度にかけての変更点は次の通り。

①集団討論の方法と配点
 初年度、集団討論は40点と高い配点だったにもかかわらず、多くの受験者が高得点となり差がつかなかった。実施後の教員アンケートから、学科ごとに分けたグループだと受験者の同質性が高まり、前提となる「多様性」を確保できず「主体性」「協働性」の見極めも難しいと結論づけた。そこで、2018年度は学科混成のグループでの実施に変更、共通で論じ合える建学の精神に関するテーマを設定した。評価者の教員2人は自分の所属学科以外の志望者の評価も担うが、集団討論では学科のAPとの適合性は見ておらず、主体性等の評価は全学科共通の基準に基づいてなされるため問題ないという。
 グループの編成を変えても主体性等についてはあまり差がつかないと考え、配点を25点に下げた。

②調査書の配点
 この入試について意見を求めた高校教員から「評価表の配点は学力に対する鎌倉女子大学の考え方そのものだが、調査書が5点というのは、高校での学習の積み重ねを軽んじているようにも受け取れる」と指摘された。調査書は評定平均を5段階評価して加点するという活用をしている。同じ評定平均でも高校によって学力に差があるため配点を抑えたが、高校側の意見を尊重して10点に上げた。入試・広報センターの河村和宏センター長は「本学をめざしてくれる高校生が張り合いを持って授業に臨むうえでも、1割程度の比重は必要だと考えた」と説明する。 

③面接の配点
 初年度はプレゼンテーションだけで評価していた各学科のAPとの適合性を面接でも評価することにし、配点を10点高くした。初年度の面接では、それぞれの学科で取得をめざす資格についてよく理解しておらず、APに対する認識が不十分な受験者がいたためだという。

④プレゼンテーションの評価項目
 独立の評価項目にしていた「情報機器の運用能力」は「表現力」の中で見れば十分ということになり、これに替えて「判断力」を評価項目に加えた。

●集団討論で入学後の指導に有効な情報を取得

 こうした変更を加えて実施した2018年度のAO入試では、集団討論で「主体性」「多様性」「協働性」それぞれを分けて評価するのは難しいと判断し、2019年度はこれらを統合的に評価することにしている。
 1年ごとに変更を加えている集団討論からは貴重な知見が得られている。教員の間から「アクティブラーニングなど、授業の中でその学生がどんな役割を担うことになりそうかという特性や強みがよくわかる」という声が出たのだ。面接と違い、他者との関わり方をリアルに観察できるためだろう。そうした特性に関する情報を入学後の指導に生かそうと、記録の取り方について検討を進めるという。専願型入試ならではの機能を見出したと言えるだろう。
 入試・広報センターでは新AO入試の初年度入学者と、旧AO入試による2015年度と2016年度の入学者について、1年次のGPAを比較・分析した。どの学科でも新AO入学者のGPAは旧AO入学者より向上。毎年、一般入試による入学者のほうがAO入学者よりGPAが高いが、新AOではその差も縮まった。
 河村センター長は「GPAはこの入試の成果指標の一部に過ぎず、今後、別の指標に基づく検証も必要だ。とは言え、今回の分析結果は入試改革を進めるうえで一定の価値がある」と説明する。すでに述べたように、以前のAO入試の入学者の中には学習姿勢や成績が低迷する者がいて、一部教員からはGPAのデータを根拠にAO入試への懐疑的な意見も出ていた。しかし、河村センター長は以前から、自学を第一志望とする受験生の資質・能力をしっかり見定めて受け入れるAO入試こそ自学の入試制度の基軸に据えるべきだと考えている。「手法さえ磨けば、GPAという指標で見た時のAOの精度を上げられ、一般入試の学生との差も縮まる」というデータが、AO重視の入試改革の追い風になりそうだ。

●「丁寧に選抜し、しっかり伸ばす姿勢を示していく」

 志望度や目的意識が高く、各学科をけん引する学生を確保する専願型の重視は推薦入試についても同様だ。出願がほぼ確実に入学につながる指定校推薦と併設校推薦にはAO入試のように集団討論を導入し、入学後の指導に生かせる情報を得る方向で検討を進める。一方、倍率が生じる公募推薦では現在実施している面接に小論文を加え、AO入試で精緻化されつつあるルーブリックを緩やかな形で取り入れ基礎学力や思考力等を評価することを検討したいという。指定校・併設校型では入学後の育成を視野に入れ、公募型では精度の高い選抜を図るわけだ。
 他大学との併願が前提となる一般入試については「本学が主導権を持って独自の入試を設けるのは無理で、併願校の動きを見たうえで対応するしかない」と割り切っている。センター試験に代わる新たな共通テストの利用は既定路線だが、英語外部検定試験や国語・数学の記述式問題の扱いの検討はこれからだ。調査書の活用はもちろん、AO入試で使っている自己PR書を改訂して志望理由を問うなど、一般入試における主体性等の評価についても検討していく。
 鎌倉女子大学のAO入試改革の姿勢が高校教員に浸透したことをふまえ、鎌倉女子短大でも入試改革に着手した。2019年度入試でAO入試を全廃し、他大学との併願が可能な特別選抜に置き換える。その「保育者適性型特別選抜」は「保健体育」「芸術(音楽・美術・工芸・書道)」の一定の成績を「保育者としての適性」と見なし、出願基準となる評定平均を設定。教科学力試験は行わず、調査書、小論文、面接による試験を9月と12月の2期に分けて実施する。
 河村センター長は「今回の入試改革は、大学が真に求める学生を受け入れて成長させることによって、偏差値に基づく従来の大学の序列を変えるチャンス」と捉えている。「本学のような小規模な女子大学は推薦入試で定員を埋めていると見られがちだが、丁寧な選抜を行い、しっかり成長させるという姿勢を示していかないと信頼を得られない」との覚悟で改革に臨んでいる。「選抜にこれだけ手間暇をかけてもGPAの伸びはせいぜい0.2~0.4ポイント。それでもこの努力を続けて伸びしろの大きな学生を受け入れていくことで、これからの厳しい時代を乗り越えていきたい」。