2020.0908

年内入試の動向② 大学教育を先取りする入試―東北福祉大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●コロナ禍の下での探究活動を支援する高大連携プログラムを開設し、出願要件に
●総合型選抜での実習体験など、事前の教育体験でミスマッチを予防
●入学前から高校教育に関わることが経営の安定をもたらす

元々、高大接続改革の一環だった「大学入試改革」。入試改革元年といえる本年度、学校推薦型選抜で「高大連携入試」を始めるのは、東北福祉大学だ。その背景と具体的な取り組み内容について聞いた。
*「年内入試の動向」シリーズは9月発行『Between』9-10月号の特集「これからの年内入試」の先行掲載です。
年内入試の動向① 指定校推薦の受験希望者が増加~川崎市立高津高校
年内入試の動向③ 探究学習と多面的評価の親和性~三田国際学園中学校・高校


●高大連携プログラム参加者の情報を高校にフィードバック

 東北福祉大学は、2021年度入試から学校推薦型選抜に「高大連携入試」を新設した。書類審査とその場での小論文作成、2対1の個人面接で選考する。
 出願にあたっては学校の推薦に加え、事前に同大学の「高大連携プログラム」に参加し、修了することを条件にしている。出願の有無にかかわらず高1からプログラムに参加可能で、2020年度は7、8月に実施した。学科の紹介等のガイダンスの後、学科別に専門分野に関する課題に取り組みレポートを提出する。オープンキャンパスでの模擬講義などと異なり教員からフィードバックをする点が特徴だ。最後まで取り組んだ生徒には修了証を発行する。
 6月22日から7月3日の申し込み期間に延べ422人から応募があった。千葉幸喜入学センター長は「コロナ禍で探究学習が滞っている高校は多い。本プログラムの活動が探究学習にもなるためか、申し込み者の1割は低学年だった。今年度は感染予防のためオンラインでの実施にしたところ、奈良や鹿児島からも参加してもらえた」と話す。
 高校に対して参加者の状況や結果をフィードバックすることも「高大連携プログラム」の特徴で、その後の学習活動や進路指導に生かしてもらうことが目的だという。探究学習の機会を提供したり、高校に情報を提供したりといった内容について千葉センター長は「従来、取り組んでいる高校との教育連携を通して生徒と大学、高校と大学が入学前からもっと関わり合あい、理解し合うほうが、ミスマッチの少ない入学を促し、入学後もより実態に即した教育ができるのではないかと考えていた」と説明する。

●専門高校枠は高校側の要望に応えて設定

 マッチング重視の考え方は総合型選抜の設計にも生かされている。たとえば社会福祉学科の2次選考では、関連の福祉施設で一泊二日の体験実習を行うなど、専門教育の一端を体験する実習が必須(本年度は感染予防のため課題レポート、事例解釈、事例考察レポート作成に変更)。実習後に報告シートの作成やプレゼンテーション、ディスカッション、面接を行い、志望学科の適性をシビアに見る。「体験で得たことを自分の言葉で表現できる生徒なら、本学でやっていける」と千葉センター長。
 超高齢化社会において重要な福祉系人材の担い手を養成する大学としての責任を果たすためにも、さまざまな入試で入学前から大学での学びを理解する選抜方法を設けているという。
 高校での学びと大学での学びの接続にフォーカスした入試として、1999年からは推薦入試に専門高校枠を設けている。そのきっかけとなったのが、一般的に大学での受け入れ体制が十分ではない専門高校からの「高校で学んだ専門的な学びを大学でも継続したい生徒のための入試制度を作ってほしい」という要望だったという。専門高校枠は主に、同大学の専門分野につながる福祉科などの専門学科を対象として想定、今年度は「専門課程入試」として実施する。専門高校の生徒に限らず、指定する専門科目を履修していれば出願できる。文科省が推進している普通科高校の特色化を先取りした取り組みと言えよう。

●アカデミック・インターンシップなどで高大の教育連携も

 東北福祉大学は教育連携を希望する高校をさまざまな形でサポートしている。学びの分野が一致している高校のコースと連続した講座の実施や、高校生が興味ある分野について探究活動を行う「アカデミック・インターンシップ」の受け入れなどだ。
 ここ数年、志願者数が安定しているのはこのような施策の成果と言えよう。「18歳人口減少期には高校との太いパイプづくりが欠かせない。高校生のうちから一人ひとりの能力を引き出すことが入学者の質を高めることになり、長い目で見ると中退防止による経営の安定化にもつながる」(千葉センター長)。
 同大学ではIRにも力を入れている。入試方式別の入学後の追跡調査によると、一般入試入学者に比べると何らかの高大連携活動を経た年内入試による入学者のほうが明らかに目的意識が高く、成績も良いという。今後は、このようなデータを入学前教育にも生かしていく考えだ。「入学前教育も高大連携の一部として捉え直し、入試方式別に異なる学生の状況に対応した個別指導化を検討している」(千葉センター長)。


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