2016.0219

産学協働とこれからの人材育成

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

~産学協働人材育成コンソーシアム設立記念フォーラム「産学協働による人材育成の新たな始動」参加報告~

産学協働人材育成コンソーシアム設立記念フォーラム「産学協働による人材育成の新たな始動」が、2016年2月12日(金)、実践女子大学(渋谷キャンパス)で開催され、高等教育・企業・行政関係者など約180人が参加した。
 産学協働人材育成コンソーシアムは、これまで、京都産業大学・新潟大学・成城大学・福岡工業大学が、大学間連携共同教育推進事業(文部科学省補助事業)において、「産学協働教育による主体的学修の確立と中核的・中堅職業人の育成」を目的とした産学協働教育の発展・推進の取り組みとその成果を全国的に水平展開していくために設立された。
 産学協働人材育成コンソーシアムは、現在、全国の14大学、6つの行政機関・経済団体、16の企業等が加盟している。今回の設立記念フォーラムでは、産学協働による人材育成をテーマに、教育機関・企業・社会として何ができるのか、すべきかについて、次世代の人材育成に向けた産学協働教育の可能性について、議論がなされた。


●これまでの人材育成では通用しない。

 最初に、「目覚めよ、若者!! -これまでの人材育成では通用しない」と題し、村井満氏(公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン)と高橋俊介氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授)の対談が行われた。

 木村氏は、人間力が高い人がJリーグで活躍しているとし、具体的には、これまで活躍している選手の特徴を分析した結果、50ほどの能力の中で、上位3つの能力について言及した。傾聴力、主張力、自己啓発能力の3つの能力が高い選手が活躍していること、それらの総体を「リバウンド・メンタリティ」と呼び、スポーツ選手に限らず、社会で活躍している人にも共通している能力であることが紹介された。

 高橋氏は、大学と社会はつながっているはずのものであるが、従来型の大学教育や小手先のキャリア教育、就職のテクニックを教えるだけでは、社会で力を発揮できないことを述べた。これからの大学教育においては、例えば、木村氏の言及した3つの能力などを育てる教育が必要となること、そして、企業が大学での学びを評価することも必要で、それは、GPAの数値だけでなく、どのような講義を一番学んだのか、どの講義で一番自分が成長できたのかということも重要になると述べた。

 両氏ともに、大学教育では、過去のケーススタディから学ぶというよりも、企業や社会の現在進行形の課題を基に、生きたケースから学んでいくことが、これからの人材育成には必要であり、その点からも、産学連携や産学協働の学びとその学びのあり方が重要であることを述べた。今後の産学協働に向けては、各地域の主要産業やそれらの産業にかかわる人たち、地域や社会の人たちと学校との連携、FDやSDも必要となり、専門職の存在も重要になってくること、そのような場では、それぞれの立場や組織の壁を越え、各参加者が、現実の中に身を置きながら、自らの立場や状況をさらけ出し、相互に成長し学んでいくことが必要であると述べた。

●「産学協働人材育成コンソーシアム」の構想と展望

 続いて、産学協働人材育成コンソーシアムの設立の背景と今後の展望について、松高政氏(京都産業大学経営学部准教授/産学協働人材育成コンソーシアム代表)より、説明が行われた。コンソーシアムのMission(ミッション)は、「産学協働による人材育成・活用の継続的な推進・発展により、一人ひとりが生き生きと学び、活躍できる次世代社会の創造に貢献する。」、Value(バリュー)は、「自分に自信、社会に信頼、将来に希望を持つ人材を育成する。地域社会の活性化に貢献する人材を育成する。普遍性の高い学ぶ力(「学びへの志」)を持った人材を育成する。」Output(アウトプット)は、「産学協働による人材育成・活用に関する課題に対し、総論ではなく実践を通して、解決に繋がる成果を創出し、社会に還元する。」との説明があった。また、コンソーシアムの組織概要について説明があった。参加の条件としては、参加者がそれぞれの地域・テーマで産学協働を実践していることとし、全国的な基盤構築の中で、地域連携とテーマ連携を推進し、実践と継続性を重視すること、大学や学校だけのメリットではなく、企業のメリットにもつながるコンソーシアムをめざし、産学協働の質的向上と新たな取組の創出を図りたいとの構想が述べられた。また、2016年度は、4回の研究会を予定していることについて説明があった。

●若者を育てていくために ~産学協働への期待~

 プログラムの最後に、「本気で若者を育てようとしているのか-高校から企業まで、総論ではなく実践へ-」と題し、パネルディスカッションが行われた。パネリストは、池田啓実氏(高知大学地域協働学部教授)、大川哲郎氏(株式会社大川印刷代表取締役社長)、武田雅子氏(株式会社クレディセゾン取締役)、豊田義博氏(リクルートワークス研究所主幹研究員)、山下陽子氏(岡山県立倉敷南高等学校校長)、モデレーターは、原正紀氏(株式会社クオリティ・オブ・ライフ代表取締役)であった。

 はじめに、パネリストの現在の活動について述べた後で、産学連携の取り組み・人材育成等についての意見交換を行った。

 池田氏は、高知大学でのインターンシップ事例(首都圏の企業での半年間のインターンシップ、地域の企業に3人一組でのインターンシップ)などに触れながら、産学協働で成果をあげるためには、学生が大学というコミュニティにおける価値観だけでなく、企業という外の価値観を知り、学ぶことが重要であり、産学協働においては、双方が本気と覚悟を持つことが必要であると述べた。そして、企業や社会での本気の人たちとの接点をいかに作っていくかが重要であり、そのことにより、学生の企業や社会の魅力認知に繋がること、今後の産学協働の推進には、企業の人たちのしっかりしたサポートや、専門人材も必要になると述べた。

 山下氏は、高校においては、進学実績についても求められる中で、学びの志づくりを大切にしながら、三位一体改革の動きを見越して導入したキャリア教育の現状や課題について述べた。生徒が倉敷という地域との関わりの中で学んだり、カンボジアなど現地に行って実際に学び考えることで、成長する姿を実感しており、子どもの成長を保護者も実感していると述べた。キャリア教育導入当初は、通常授業にプラスされる負担感や成果が見えないこともあり、教員の理解も十分ではなかったが、生徒の学びへの動機づけや成果が見えてきたことで、2年目以降は、教員全員が連携・協力してキャリア教育を行っているとの報告があった。

 また、これからの日本の教育の質を確保していくためには、いい教師をさらに育てることも必要になるが、学校、地域、企業、社会のそれぞれがすべきこと、その役割を明確化していくことも必要になること、キャリア教育については、小・中・高・大・産業のそれぞれにおいて何らかの指標が必要であり、社会全体で教育を自分ごととして考えることの重要性に言及した。そして、産学協働やキャリア教育を進めていくためにも、既存の学校の固定概念に捉われず、現在の変化している学校を是非知ってもらいと述べた。

 大川氏は、経営する会社におけるインターンシップの目的や産学協働のあり方について述べた。インターンシップの実施は、会社を元気にする、若者を育てることができる人材を社内に育てる、若い人のアイデアを事業に活かすという3つの目的で行っていると言及した。また、これからは、企業規模の大小ではなく、CSRが重要となるとし、横浜の地域にある企業(地域企業)として、横浜にある企業の経営者と大学生の学びの場も作っており、それは、相互の学びの機会だけでなく、リアルな体験をすることで、学生が地域や地域企業のおもしろさや魅力の気づきにつながっていると述べた。そして、これからは、大学との連携も重要になり、地域企業として、これからも働くことの楽しさを発信していきたいと述べた。

 豊田氏は、社会で生き生きとしている若者もいるとし、これまでの研究や調査を踏まえながら、大学生活の過ごし方や産学協働のあり方について言及した。就職活動においては、部活動やサークルでの成果をアピールすることも多いが、それらの成功は、当初からある程度予見できたり、例年通りのやり方でもある程度うまくできるものであったとしたら、その成功や成果はある意味で錯覚していることになること、そのように考えると、試練ややらざるを得ないことに直面し、異なる価値観を受容する機会の中で、PDCAを何回も回すことが重要であると述べた。産学協働についても、学生にとっていい経験をするようにデザインしたものが、必ずしも学びにつながるとは言えない場合があること、失敗の経験やそこから学ぶことで成長することを述べた。また、学びの体験を本当の理解を促していくためには、専門職の存在も必要になるとの見解を示した。

 武田氏は、自社でかかわる産学協働の事例を交え、高校生や大学生が学ぶという側面だけでなく、社員自身の学びや気づきにつながっていることを述べた。また、採用の立場からは、就職活動をしている学生の多くは、最初の段階で、わかりやすい業界に目を向けてしまうため、社会や世の中はどうなっているのかと気付くためのシーンを作ることが必要であること、学校での成功体験よりも、失敗や挫折から何を学んだのかが重要となると述べた。また、社会に出ても、学び続け、好奇心を持ち続けていくうえでも、産学協働のあり方が重要になると述べた。

 モデレーターの原氏は、産学協働は、大学・学校、企業、地域が連携する中で、継続している事例もあるが、現状では、その教育の質までは十分に踏み込めていない状況であること、そのような中、産学協働人材育成コンソーシアムの設立により、産学、地域の横断的課題等について、幅広く協働し、実践を通して、人材育成・活用の継続的な発展・推進への期待が述べられた。