2016.0201

公立大学の教育改革が向かうべき方向性

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3行でわかるこの記事のポイント

~高等教育改革フォーラム「公立大学の教育改革~先進的事例の報告~」参加報告~

公立大学協会は2016年1月29日(金)、公立大学の教育改革先進事例を共有するフォーラムを東京都千代田区の学士会館で開催し、全国の公立大学の教職員をはじめ大学関係者など約120人が参加した。


●公立大学の教学改革事例

 冒頭、公立はこだて未来大学の美馬のゆり教授による「大学生のピアチュータリングによる学習支援」と題する基調講演があった。美馬氏は、同大学が持つ学生オープンスペース施設が、学生を学びに向かわせるよう意図的に設計されていることを紹介した後、同大学メタ学習センターの実践に触れた。同センターが運営する、教えることに興味を持つ成績優良な学部生・大学院生のチューター17人と8割近くの学部1年生が参加する課外学習組織「メタ学習ラボ」についての活動報告があった。学生の意識改革・学力向上とチューター自身の成長をめざすものである。

 続いて、山口県立大学のカリキュラム改革事例(岩野雅子副学長)、県立広島大学の総合教育センターの取り組み(西本寮子副学長・総合センター長)、茨城県立医療大学のFD推進(富田美加准教授・同大FD企画運営部会長)の事例報告があった。(報告順)

 山口県立大学(国際文化・社会福祉・看護栄養の3学部)は、2016年度に完成予定の、社会から認知される公立大学ブランドの学生輩出を目標とするカリキュラム改革について報告した。同大学は「予測困難な未来を切り拓くために、大学生が身につける力」(同大学による)が付くことを教育成果と位置付け、インターローカル人材の育成・子育てなどのマイスター・地域学の習得をカリキュラム上に可視化し、eポートフォリオで教育成果の把握と検証を進めている。

 県立広島大学(人間文化・経営情報・生命環境・保健福祉の4学部)からは、教育改革を支える組織体制としての総合教育センターの取り組み報告があった。県内の旧3公立大学を合併して発足した同大学には、3キャンパスを1つの大学として一体性を保ち、総合力の発揮が不可欠であった。全学的な教育・入試・学生支援体制を構築するための組織が、総合教育センターである。専門教育と並び立つ「豊かな教養」(同大学)を学士課程の4年間を通じて身に付ける共通教育改革をはじめ、大学教育再生加速プログラム採択などの実績を積み上げてきている。同大学の今後の課題は、法人化後10年を経て、学内でのさらに強い学部との協力体制作りと、教員の世代交代に伴う人材育成が急務とのことである。

 茨城県立医療大学(保健医療学部のみ)は、保健・医療系大学におけるFD活動の促進について報告した。同大学では、教員全員の参加を義務づけた全学FD研修会や、「同僚性・日常性の重視」(同大学による)を目的とした教員の自主性に基づく授業の公開、学生意見の反映と学生の相互交流のための学長と学生による教育懇談会などが実施されている。さらに、カリキュラム改定時期に合わせたFD活動では、同大学の理念や教育目標の振り返りや高等教育動向の把握が行われた。このような取り組みにより、保健・医療系内の学問の専門を超えた教員の連携がしやすい状況が生み出されており、FD活動が同大学の教育の特色である「専門職連携教育」の素地となっていることが示された。

●経営マネジメント力と現場力の効果的リレーションが重要

 引き続き、高知県立大学学長の南裕子氏(公立大学協会理事)をモデレーターとして、基調講演者、事例報告登壇者4人によるパネル・ディスカッションが行われた。

 まず、フロアからの質問への講演者・登壇者からの補足説明があった。公立はこだて未来大学からは、正課授業のTAと課外プログラムのチューターは異なるが相互連携を図る仕組みがあること、山口県立大学からは、単位化されている地域学は外国人との交流を含むこと、県立広島大学からは、教育カリキュラムに含まれる「広島と世界」課目は選択必修科目であることなどの補足説明がなされた。

 また、大学職員が大学改革に果たす役割については、大学の中の教員と事務方というモデルではなく、大学教員と大学職員というモデルでの職員の教員のFD活動への参加機会があることについて、山口県立大学・県立広島大学の両大学から追加説明があった。茨城県立保健医療大学からは、医学部を持たない付属病院との連携について報告があった。

 モデレーターからは、学長のリーダーシップについて考えたいとする問題提起があり、各大学からは、経営のリーダーシップともに現場のチーム教育の重要性、大学経営ビジョンの実体化、計画の目標達成について現場からの提案の吸い上げが大事、とのコメントがあった。さらにフロアからは、地方公立大学の学長からFD/SD成果報告の出版に向けた教職員の協働作業の成功事例についての報告、などの発言があった。

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●公立大学独自の強みの教学改革の実質化が持続的発展をもたらす

 このフォーラムに参加して感じたのは、主に地方に所在する「地域貢献」を強く義務付けられた国立大学と、「地方自治体の高等教育機関」として設立された経緯を持つ公立大学の違いが見えにくくなってきているなかで、地方自治体が設立の中心である公立大学は、どのような教学改革・地域貢献の特長を身に付けて国立・私立大学と差別化し、存続を図るのかということである。公立大学の未来を開拓する力が大学経営層に求められている。

 このフォーラムで講演・報告された4事例にみられる積極的な教学改革の取り組みの核は、自学の教育改革の意思や特長を十分に反映した、学びの工夫やカリキュラム改革であった。地方自治体が設立の中心であるからこそ国立・私立大学より実現しやすい独自の高大連携施策や、地場産業とのタイアップによる優秀な卒業生の地元定着型就職の促進など、公立大学がリードできることは多い。優秀な卒業生が輩出し地域貢献人材を提供し続けていく大学であり続けるための、自学に内在する強みを把握した教学改革の実質化が、公立大学の持続的な発展につながるのではないだろうか。

平成27年度高等教育改革フォーラムプログラム.pdf