2014.0901

学校法人杏林学園 松田剛明副理事長

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3行でわかるこの記事のポイント

キャンパス集約を機に学部間連携と地域連携を強化

杏林大学は2016年度、新たに井の頭キャンパスを開設、全学部を三鷹市に集約し、学部間の連携強化を図る。新キャンパス開設の指揮をとる松田剛明副理事長にその狙いと背景、めざす大学像について聞いた。

コミュニケーションを促進し大学全体の一体感を高める

 杏林大学は現在、三鷹市と八王子市にそれぞれキャンパスを持ち、4学部を設置しています。2016年度に、医学部がある三鷹キャンパスの隣接地に井の頭キャンパスを開設し、保健学部の8学科をはじめ、総合政策学部、外国語学部を移転する予定です。これまでキャンパスが離れていたため、4学部の総合力を生かし切れていない面がありました。今回の集約により、全学的な教育連携の強化を図ります。

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 移転の最大のメリットは、全学部の教職員、学生の距離が近くなることです。これまでは2つのキャンパス間でコミュニケーションを取りづらいという課題がありましたが、移転後は教職員同士、あるいは経営陣と学生が交流する機会が増え、意思疎通がスムーズになるでしょう。全学に一体感が生まれ、さまざまな面で改善が進むものと期待しています。

 教育面のメリットとしては、医療系学部と文系学部の連携をより強化できることが挙げられます。医学部の教員が外国語学部で旅行医学を教えるなど、教員の相互派遣は以前から行っていますが、これをより発展させたプログラムづくりに取り組みたいと考えています。経済やITと関連付けた医療の授業を実施するなど、本学だからこそできる教育があるはずです。

 学生募集においても良い影響を期待しています。新キャンパス開設に先立ち、2009年度から保健学部看護学科のみ、三鷹キャンパスに移しています。実習の機会が多い看護学科は付属病院に近いほうが良いという判断からです。実際、志願者数が増加し、優秀な学生が入学しています。保健学部8学科も志願者数が増えると予想しています。

 一方、文系の2学部は楽観視していません。都心との距離、駅からのアクセスなど、立地条件は良くなりますが、近隣には本学以上に長い伝統とブランド力を持つ大学が複数あります。移転後数年間、競合校の動向を分析したうえで、生き残りをかけた改革が必要になると考えております。

医療・介護とグローバル教育2つの強みを生かした地域貢献

 移転を機に、三鷹市を中心とした地域との連携も強化します。本学は地(知)の拠点整備事業において、三鷹市、八王子市、羽村市と連携協定を結んでいます。これらの地域では団塊世代の高齢化という都市型の高齢化社会が進展すると思われ、大学がいかなる形で貢献できるかが問われています。医学部と付属病院の近くにコメディカルを担う保健学部が移転することにより、医療や介護の分野で地域の課題解決に力を発揮できます。

 リタイヤした世代の教養を深める場として、語学や観光の公開講座も積極的に開きたいと考えています。若い教職員や学生が町づくりに関する提案を積極的に行うことにより、地域の活性化にも貢献できます。

 また、地域における高大連携にも取り組みます。2014年度、文部科学省の大学教育再生加速プログラム(テーマⅢ:高大接続)に本学の「日中英トライリンガル育成のための高大接続」が選定されました。グローバル化の進展により、大学には語学力のある人材の育成が求められています。外国語学部は、日本語、英語に加えて中国語の教育にも力を入れています。外国語教育は大学入学後からスタートさせるのでは遅いので、SGH指定校との連携によって、高校生のうちから大学生と一緒に「使える外国語」を身に付ける機会を提供します。現在は多摩地区を中心に8校と協定を結んでいますが、今後は三鷹市にも協定校を拡大し、将来的に20校程度を目標にしています。

 今のところ、連携は文系学部が中心ですが、医療系学部との連携を希望する高校の声もあります。医学部の設備を利用したサイエンス系の授業の開催も構想中です。

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次の50年を見据え教育の特色強化を推進

 本学は、新キャンパスが完成する2016年に創立50周年を迎えます。記念すべき節目ではありますが、周囲に目を向ければ、100年以上の歴史を持つ大学も多い。その中で存在感を発揮していくためには、次の50年のことを考えなければなりません。特に教育面の特色強化が必要になるでしょう。

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 医療系学部に関しては臨床能力の高い医師や医療従事者を送り出したい。研究に重きを置く大学もありますが、本学は今後も実践的な教育を重視します。これは文系学部も同様です。今後、実習やアクティブラーニングを積極的に取り入れる予定ですが、これらは手間がかかりますので、教員の意識改革も必要でしょう。

 世界に目を向けると戦争や貧困、災害など、厳しい環境の中に生きている人々がいます。日本も今日のような安定した状況がいつ崩れるかわかりません。その中で、国の将来を支える若者の教育は重要です。医療教育やグローバル教育を通じて、相手に対するホスピタリティー(思いやり)精神を持ち、かつ自分の意見を自分の言葉で表現できる強い「人財」を育てたいと考えています。

学校法人杏林学園 副理事長
松田 剛明

まつだ・たけあき● 1967年生まれ。1993年東京慈恵会医科大学卒業。1999年東京大学大学院博士課程修了。1999年ハーバード大学外科研究員、2000年コーネル大学外科研究員。杏林大学医学部救急医学教室助手、講師、准教授を経て2011年教授。2009年から現職。医学博士。