2016.0315

記述試験採点における人工知能(AI)活用の可能性

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一般社団法人 日本教育情報化振興会主催『平成27年度「教育の情報化」推進フォーラム』参加報告

一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPEC&CEC)が、2016年3月4日(金)、5日(土)の2日間にわたり『平成27年度「教育の情報化」推進フォーラム』を開催した。
 4日(金)に行われた特別講演「AIが大学入試に合格する時代に求められる教育」には、国立情報学研究所社会共有研究センター センター長の新井紀子氏が登壇。新井氏がプロジェクトリーダーを務める「ロボットは東大に入れるか(以下、東ロボ)」の研究成果や、そこから見えてきた教育的課題について報告があった。また、その中で、「ロボットによる大学入試(記述試験)の採点」についても触れられた。


●AIは「意味を考えてはいない」

 「東ロボ」は、言語処理や画像処理などさまざまな技術が求められる大学入試問題にAIが挑戦し、「AIが人間に代わる可能性がある分野は何か」などを考える客観的指標を示すプロジェクトとして2011年に開始。国立情報学研究所をはじめ名古屋大学や富士通研究所、日本ユニシス総合研究所など多くの研究機関が参加している。

 冒頭、新井氏が「皆さんは、犬と猫を見分けられますか」と参加者に投げかけ、壇上のスクリーンにはさまざまな犬や猫の画像が映し出された。

 「人間は、さまざまな経験から簡単に判別できるものでも、AIには非常に難しい。AIはデータに基づく解析をするだけで、その意味は考えていない」とした。

 また、プロジェクト開始当初について「デジタルにできること、できないことをはっきりさせたかった」と自身の思いを語るとともに、背景の一つとして、「大学の記述入試をロボットに採点させる話も出ていた」と述べた。

●AIによる記述式の正誤判定は「絶望的に難しい」

 プロジェクトは2021年度までに東京大学に合格することを目標に掲げているが、2015年度の進研模試(高3生・高卒生 総合学力マーク模試6月)へ挑戦した結果、5教科7科目合計で偏差値57.8、国公立33大学を含む474大学でA判定(合格可能性80%以上)を得たという。

 模試への挑戦を振り返る中で、記述試験の採点についても触れた新井氏は、「記述解答の正誤判定は、あらかじめ用意された模範解答と受験者の解答が『同義文か』を判定する作業」と述べ、意味を考えず、文章を単なる文字列データとして捉えるAIにとって、句読点1つで大きく意味が変わるような日本語の記述をミスなく判定するのは絶望的に難しいことであるとした。

 講演は、「ただ文字列を解析するだけのAI」になぜ人間が負けるのかという視点から、独自の調査結果も踏まえ、現在の中・高生の読解力のなさを指摘。「中学校での教育目標は、『中学校の教科書をきちんと読める』に置くべき。このまま大学入試で記述式試験を課しても意味がない。2020年までにAIに負けない子どもを育てたい」と結んだ。