2016.0209

高大接続改革の具体像を考える

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3行でわかるこの記事のポイント

~朝日みらい教育フォーラム2016
「みらいの教育を考える-高大接続改革が目指す新しい姿-」参加報告~

朝日新聞社主催の「朝日みらい教育フォーラム2016」(後援:文部科学省)が、2016年2月6日(土)、東京・浜離宮朝日ホールで開催され、高等教育関係者など約300名が参加した。
冒頭、「第2回朝日みらい教育賞」の受賞式が行われ、受賞4団体の紹介と表彰があった。受賞団体は、Minamiこども教室(大阪府・グローバル賞)、金沢工業高等専門学校・金沢工業大学(石川県・グローバル賞)、隠岐國学習センター(島根県・デジタル賞)、京都文教大学・城陽市市民活動支援センター(京都府・新聞活用賞)である。


●高大接続の改革は新しい能力を育成することにつながるのか、またその実現性は

 本フォーラムでは、高大接続システム改革会議で大学教育・高大接続・高校教育の三位一体改革が議論されるなかで、高大接続改革が「学力の3要素*」や活用力・課題発見解決能力などの新しい能力を育成することにつながるのか、また改革そのものは実現できるのか、について、事例報告と討論がなされた。
*文部科学省は「学力の3要素」を、(1)基礎的・基本的な知識・技能 (2)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等 (3)主体的に学習に取り組む態度、の3つの要素としている。

 まず、常盤 豊氏(文部科学省 高等教育局長)が、「高大接続改革が創る新たな教育」と題する基調講演を行った。常盤氏は、知識基盤社会に必要な新しい力とは、知識を活用し創造できる力であるとし、文部科学省における大学教育・高大接続・高校教育の改革議論の経緯を概観しつつ、学習指導要領の改訂がもたらし得る高校教育の変化は、大学入試の変化により実効度が増すので、高大接続改革は実現すべき喫緊の課題であると指摘した。

 また、近藤 治氏(河合塾 教育情報部長)から、2015年度「ひらく 日本の大学」調査について報告があった。

●高大接続システム改革の実際

 続いて2大学から、高大接続改革の現場の実践事例が報告された。
 東京農業大学の夏秋 啓子 副学長(国際食料情報学部 教授)は、同大学がオープンキャンパス実施のパイオニア的な存在であることを紹介した。1990年代から現在まで長年に渡りオープンキャンパスで研究室を開放して、学修現場の実質的な情報を与え続けてきたことが、同大学の「中身」を知りたい受験生のニーズに応えて志願者を増やし、社会の理解も進んでいるとした。

 また、早稲田大学の佐藤 正志 教務担当理事(政治経済学術院 教授)は、「Waseda Vision 150」の取り組みの紹介を通じて、高大接続の伝統的手法である入学前導入教育や高校生特別聴講制度に加え、入学後のアカデミックリテラシー教育や自学自習環境の整備により、高大接続改革がもたらす新しい力を持つ入学生が、円滑に大学生活に移行できるように学内システムの整備が進んでいることを報告した。

●高大接続システムのあるべき姿とは

 プログラムの最後に、高等教育に関する有識者によるパネルディスカッションが行われた。パネリストは、基調講演を行った常盤 豊氏をはじめ、南風原 朝和氏(東京大学 理事・副学長)、金子 元久氏(筑波大学 特命教授)、清家 篤氏(慶應義塾大学 塾長)、高祖 敏明氏(上智学院 理事長)、酒井 正三郎氏(中央大学 総長・学長)であった。

 はじめに、司会者の指名により金子氏が、進行中の高大接続改革議論について、「共通テストのデザイン」「大学の選択」「高校・高校生はどう動くか」の3つの論点を示した。パネリストの議論は、新しいテストのデザインについて的を絞った議論となった。

 南風原氏は、東京大学の入試担当副学長かつテスト理論の専門家の立場から、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」への導入が議論されている記述式回答が、採点面で入試の肥大化や入試スケジュールの混乱をもたらしかねないとし、高大接続システム改革会議が予定する2015年度内最終報告に向けては慎重な検討が必要であるとした。

 司会者が現在の大学入試センター試験の問題点を問いかけたのに対し、中央大学の酒井氏は、大学経営上はセンター試験の改革は大学にとって重大な影響をもたらすと応えた。また同大学では、学力選抜型入試に合格し入学した学生の25%がセンター試験を経ており、大学入試センター試験を経た学生にはGPAの高得点者や資格試験の合格者が多いことを明らかにしたうえで、議論中の高大接続改革の趣旨を自学で具現化するには、大学経営面の検討も必要であるとした。

 続いて、大学入試センター試験を入試に用いていない2大学に、司会者がその理由をたずねた。慶應義塾大学の清家氏は、過去に同試験を利用した学部もあったことを述べた後、

 利用するベネフィットよりもコストが大きくなってきたことが理由であると応えた。清家氏は「(同大学には)自分で考えることが好きな学生に来てほしい。それを『得意』にするのが大学である」と述べ、自学の多様な試験方式で、多彩なバックグラウンドを持つ学生を集めることができているとした。また、上智大学の高祖氏は、自学が中心となり開発した英語の学力試験「TEAP」を挙げ、その試験を通じて同大が求める学生を得ることができると述べた。

 さらに司会者が今後の高大接続改革議論の行方について文部科学省の常盤氏の見通しを聞いたのに対し、常盤氏は、各大学が実施する個別試験については、大学の主体性が求められること、いわゆる「一般・センター・推薦・AO」の入試区分の廃止議論については、アドミッションポリシーにおいて学力の3要素を確実に評価することがまず重要との認識を示した。

 最後に、司会者が高大接続改革議論の最終着地点についての見解を金子氏にたずねた。金子氏は私見としながらも、総合性を持つ共通テストの意義の理解がさらに必要であるとし、教育システムの必然的な変革の時期に際して、前向きかつ深い議論がより求められると述べ、パネルディスカッションの幕を閉じた。