東京専門職大学-産業界と連携し企業でも活躍できる医療・福祉人材を

●実質的な教職協働でカリキュラムを編成
●設置基準を大きく上回る実務家教員を集めロボットや経営の授業も
●専門学校のノウハウを生かし社会人の学び直しを積極的に支援

2019年度にスタートする専門職大学、専門職短大には合わせて16校が名乗りをあげている。社会変化に迅速に対応してイノベーションを起こせる人材を育成するという目的を掲げ、産業界との密接な連携はじめ教育体制やカリキュラム編成に高いハードルを設けた新制度の下、各校はどんな設計図を引いているのか。申請校の中から、設置基準を上回る数の実務家教員をそろえ、産業界との多様な連携を打ち出す東京専門職大学の新設構想を紹介する。教員と協働してカリキュラムを編成する職員は、既存の大学の教育について精力的に調査。一方、法人トップははや完成年度以降の展開を考え、海外の名門大学の動きを注視する。


●理学療法と作業療法は夜間コースも設置

 制度初年度の専門職大学新設を申請したのはいずれも専門学校を持つ学校法人で、大学13、短大3の計16校。13大学中、医療・福祉分野が9校を占めるのは、資格取得のカリキュラムモデルが確立され、専門学校にもノウハウが蓄積されているためだろう。
 東京専門職大学(仮称)も、医療・福祉分野の専門学校で30年以上の実績を持つ敬心学園が設置申請した。大学、専門学校の間で競争が激化するこの分野で産業界との連携を推進し、スポーツ・レクリエーションやロボット・ICT等の専門性に加え、経営の基礎力や職業人基礎力も身に付け、一般の企業でも活躍できる医療・福祉人材の育成という新たな価値を打ち出す。
 敬心学園は1986年に創設され、現在は法人本部のある新宿区高田馬場と江東区塩浜に計5つの専門学校を展開。医療・福祉系4校に加え保育士養成の学校もある。学生数は5校合わせて約3500人。

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 東京専門職大学は江東区にある臨床福祉専門学校と校舎を共有する。日本リハビリテーション専門学校と日本福祉教育専門学校の現校長で整形外科医の陶山哲夫氏が学長に就任する予定だ。専門学校の定員を専門職大学に移して両方の総定員は増やさないという計画によって、定員抑制が始まった東京23区内での新設申請が受理された。
 新設計画では医療福祉学部にリハビリテーション学科と福祉介護イノベーション学科を置き、入学定員は計280人とする。
 リハビリテーション学科は理学療法と作業療法の2専攻で、それぞれ昼間コースと夜間コースを設置。夜間コースでは主に、専門職大学制度のねらいの一つである社会人の学び直しを支援する。一般企業等に勤め、これらの分野の資格取得によってキャリアチェンジをめざす人などを積極的に受け入れる。
 一方の福祉介護イノベーション学科は、昼間コースでマネジメントや起業のできる介護福祉士を養成する。全国的に不足する介護従事者を育成するとともに、介護領域を将来の有望なマーケットと捉えて企業等の成長戦略に貢献できる人材を送り出す考えだ。

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●実務家教員が7割以上でその6割以上が博士または修士

 東京専門職大学の専任教員は約60人。専門職大学の設置基準では「実務家教員4割以上、その半数以上は研究能力を有すること」とされているが、同大学の場合、実務家教員が7割以上でその6割以上が博士または修士の学位を持つ。法人内の専門学校から移る約20人の教員も、その多くが学位を持ち医療・介護の現場に関わっている実務家兼研究者だ。
 外部から加わる教員の一人は、中央省庁を経て大学の福祉系学部の学部長を経験し、福祉機器の開発にも携わった人材。一部上場企業の社長経験者や現役の経営コンサルタントもそれぞれ「研究能力」の要件を満たす実務家教員だ。全国専修学校各種学校総合連合会会長を務める小林光俊理事長、および長年、医科大学の教員を務めた学長候補・陶山氏のネットワークを生かして大学の理念・方針に合致する人材一人ひとりに参画を要請。公募はしなかったという。
 一方、大学開設準備室には産学官連携担当者として企業から迎えた職員など、多様なキャリアをバックグランドに持つ人材が集まっている。
 このような教員と職員が協働でカリキュラムを設計。大手シンクタンク出身の宮田雅之・大学開設準備室事務局長ら職員のリサーチ力、提案力に対する教員の信頼は厚く、双方の視点を生かした議論がなされたという。「この教員がいるからこの科目を置く」ではなく、「こんな人材を育てるためにはこういうことを教えられる人が必要」という発想で集めた教員を最大限に生かせるよう議論を深め、具体的な授業に落とし込んでいった。

●スポーツ、ロボットなど5つのテーマで専門性に肉付け

 宮田事務局長は「資格取得を支援する以上、国家試験の合格率は選ばれる大学になるための最重要指標の一つ」と話す。日本リハビリテーション専門学校の前年度の合格率は、理学療法士が昼間部100%で夜間部96%、作業療法士は昼間部100%で夜間部96.6%と全国平均を上回っている。その指導ノウハウを専門職大学でも生かすという。
 専門職大学ならではのカリキュラムの特色を表すキーワードは①多職種連携、②専門性の深化、③事業化力、④職業人基礎力だ。

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① 多職種連携
 宮田事務局長は既存の大学について調べた結果をふまえ「チーム医療が求められる中で多職種連携科目を設ける大学が増えているが、討議中心のグループワークや見学実習等の取り組みが多いと感じた」と指摘。自学では多職種連携担当主任を置き、医療・福祉施設等との連携の下、実践的で時間をかける教育プログラムを開発して実際にさまざまな専門職と協業できる力を育てるという。

② 専門性の深化
 医療・介護分野の周辺にある課題の中から「スポーツ・レクリエ―ション」「地域活性化・ツーリズム」「福祉機器・ロボット・ICT」「障がい・難病者の支援」「生活・自立支援」を「5つの柱」として設定。学生はこの中からテーマを一つ選んで専門性を深掘りする。実務のリーダーをめざしたり、一般企業に就職したり、キャリアチェンジを図ったりする時の強みになるという考えだ。
 一般企業とは百貨店、ホテル、航空会社などのサービス業を中心に、銀行や住宅メーカーなども想定している。企業へのヒアリングを通し、高齢者や障がい者の課題を熟知したうえで接客や商品の企画・提案ができる人材のニーズを感じているという。
 学生は、5つの柱それぞれを専門とする実務家教員が担当するゼミ形式の授業や約40日間のインターンシップで学び、卒業研究をまとめる。「スポーツ・レクリエ―ション」は障がい者や高齢者の社会参加、健康増進の支援、「福祉機器・ロボット・ICT」は医療や介護の質向上、労働環境改善につながる技術開発や運用といった内容を予定している。

③事業化力
 キャリアアップや起業が可能になるよう、マーケティングや経営、組織マネジメントについて必修で学ぶ。4年次には企業や自治体と連携し、他大学の学生も参加して競い合うビジネスプランコンテストを実施。「既存の大学が主催する主要なコンテストを調べたところ、医療・福祉分野に特化したものは少ない。他大学の学生含め多彩なプランを集めて産業界にインパクトをもたらしたい」と宮田事務局長。こうした取り組みを卒業生の就職先確保につなげるねらいもある。

④ 職業人基礎力
 三越伊勢丹グループと提携し、社員研修用のマナー・接客プログラムを基に構築した1年次対象の社会人基礎力科目など、実務家教員や産業界とのネットワークを生かした必修のキャリア科目群を設ける。
 こうした実践的なカリキュラムによって「4年間で600時間以上の実習」という専門職大学の基準を大きくクリアする予定だという。

●「大学になるからには海外との連携・競争に挑む」

 敬心学園は20年前から18歳人口の減少を見越し、専門学校で社会人の学び直し対応へのシフトを図った。当初は約2割だった大卒・社会人学生の割合は、現在7~8割。宮田事務局長は「18歳の入学者の中に社会人学生を少し混ぜるという発想では受け入れは到底無理で、トップの本気度が問われる」と話す。
 同学園の専門学校では社会人への徹底的なヒアリングを通して学び直しを阻む要因が学費、仕事、時間等だと把握し、対策を講じてきた。学ぶ時間と一定の収入を確保できる「働きながら学ぶプログラム」という選択肢を提供したり、大卒者のみを対象としたコースを設けたりして社会人学生を増やしてきたノウハウが、専門職大学でも生かせると自信を示す。
 社会人学生の募集はウェブサイトによる広報を中心に据える一方、企業や施設を訪問して幹部候補の派遣を呼びかける。一方、わが子の進路選びで就職面を重視する保護者が多い中、専門職大学に対する高校生の関心も高いと見ている。オープンキャンパスや出張授業で企業等と連携した実践的な学びを体感してもらうことに力を入れる。
 社会人対象の入試は休日や夜間など「受けやすさ」に配慮し、培った知識やスキルを評価する面接中心の選抜を予定。高校生については、2021年度からの入試改革を先取りする選考手法を考えたいという。
 小林理事長は「人生100年時代を生き抜くうえで、学び直しによって自分を変えていく力は全ての人にとって不可欠だ。それを支援し、教育機関としての社会貢献を強化したい」と話す。グローバル化が進む中、国際的通用性のある学位を出し、海外の教育機関との連携を図るためには専門学校ではなく研究機能を併せ持つ大学でなければと考え、専門職大学第1号に名乗りをあげた。
 「専門学校の運営では国内の教育機関を意識していればよかったが、大学になったら国内外の教育機関や企業等とも連携を図り、グローバルな視点で競争力を高めることが必要だ」と小林理事長。昨年末にはオックスフォードやロンドンで名門大学の幹部らと情報交換した。「どの大学もダイバーシティすなわち多様性こそがイノベーションの源泉だと考え、世界中から教員と学生を集め、企業とのパートナーシップ構築にも力を入れている。日本の大学は数十年遅れをとっていると痛感した」。
 大学院と学部の比重を半々にするという名門大学の方針にも触発され、はや専門職大学院の設置構想にも考えを巡らせている。大学名に専門分野を掲げていないことからも推測できる通り、言語聴覚士や保育等のコースや学部も追加していく予定だ。
 「今の日本の高等教育に欠けているダイバーシティ、スピーディーな意思決定、前例のないことに挑む価値創造型の教育を新しい制度の下で展開していく」。小林理事長は新たな挑戦への意気込みをそう語った。

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