2016.0311

東京大学のアクティブラーニングと初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

~東京大学 教養教育高度化機構「教養教育とアクティブラーニング」参加報告~

東京大学教養学部附属 教養教育高度化機構(機構長:松尾 基之氏 大学院総合文化研究科教授)は、2016年3月9日(水)、シンポジウム「教養教育とアクティブラーニング」を同大・駒場キャンパスで開催し、約200人の高等教育・大学関係者で会場は満席となった。
 今回のポイントは、国立大学のなかで一番多い入学定員を持つ同大学においても、入学生全員に対して独自の工夫を加えた英語の少人数教育を実施していること、全学出動による理科生必修の初年次教育がスタートしたこと、さらに、同大学が考えるアクティブラーニング手法の体験と共有である。


●東京大学の教養教育におけるアクティブラーニングと初年次教育の取り組み

 第1部では、「教養教育におけるアクティブラーニングの取り組み」として、永田 敬 氏(大学院総合文化研究科 教授)による「東京大学教養学部における構想と実践」と題する基調講演が行われた。

 永田氏はここで、2015年度に前期課程教育(教養学部)で実施したカリキュラム改革について、新たに「展開科目」として主体的に学びを展開する社会科学・人文科学・自然科学の各ゼミナールが開講されたこと、また、意欲を高める横断的・先進的学習である「主題科目」に「国際研修」が追加されたことに触れた。さらに、学生への達成度調査結果が示す「身に付いた力」について、自己表現やディベートの力が学問的知識や論理的・分析的思考よりも低い結果だったことを報告し、ここにアクティブラーニングを進める必要性があると述べた。

 続いて2つの実践事例が報告された。
 まず、トム・ガリー 氏(同大学グローバルコミュニケーション研究センター 教授)が、「学術英語のアクティブラーニング」について報告を行った。ガリー氏は、教養学部の前期課程教育で行われている、文科生向けのALESA(学術英文の約束+英語で小論文)、英語表現向けのALESS(オリジナル科学実験実施+英語でプレゼン)、2015年度から全員向けに開講したFLOW(習熟度別スピーキング)の3タイプの授業について、ネイティブ教員による少人数(10~15人)授業が行われていることを紹介した。これらを支えるラボラトリーや大学院生TAなど、施設・体制面の充実についても触れた。

 さらに、増田 健 氏(同機構初年次教育部門長・大学院総合文化研究科 教授)が、「初年次ゼミナール - 新たな少人数授業でのアクティブラーニングへの取り組み」と題した報告を行った。増田氏は、ベストセラーとなった「知の技法」(1994年、東大出版会)で知られる伝統を持つ文科生基礎演習(2015年度より「初年次ゼミナール文科」)と、2015年度から理科生必修で開講された「初年次ゼミナール理科」により、同大1年生に対する初年次教育体制(1クラス20人)が整ったと述べた。特に理科生については、本郷・柏キャンパスにある学部・大学院や附置研究所の教員も駒場キャンパスに赴いて実施する全学体制を取り、少人数授業を実現していることが特色である。

「初年次ゼミナール理科」については、事前の授業ガイドラインの配布やポータルサイトの設置、教員向けのアクティブラーニングやグループワークの実践法講演、TAとのワークショップの実施など、十分な準備を経ての開講であることを明らかにした。

●アクティブラーニング体験ラボ

 第2部では、「アクティブラーニング体験ラボ」が実施された。ここでは、同機構アクティブラーニング部門による「大人数講義における実践」と、同機構科学技術インタープリター養成部門による「少人数授業における工夫」が報告され、参加者がアクティブラーニングを疑似体験ができるような報告がされた。

 「大人数講義における実践」では、約200人のフロアを大講義に見立て、教具を使った回答表明を行わせた(当日は、5択の回答選択肢を示す紙を参加者に配布し、自分が正しいと思う回答を紙を挙手させた。実際の講義ではクリッカーを使用するという)。そのうえで、大講義におけるアクティブラーニングの成功ポイントは、それ自体が目的化しないことと、方法の目的・目標・メリットを説明し明確な指示を教室に出すことであるとした。

 続く「少人数授業における工夫」では、大学院生のための「科学技術インタープリター養成プログラム」について、講義を受けている大学院生も参加して授業の再現が行われた。同プログラムは学部選択以後の後期教養教育の一環として実施されている副専攻プログラムで、参加する大学院生が所属する研究科はさまざまである。答えのない問題に学際的な見地からディスカッションを行う様子が再現され、ここでは工夫としてミニッツレポート(受講者が提出する短文の講義振り返りシート)の活用が示された。

 フロアとの質疑応答では、アクティブラーニングでの適切な評語の付け方など活発な質問が出され、最後に、松尾同機構長による閉会挨拶があり、シンポジウムの幕を閉じた。