2016.0307

グローバル化に寄り添う英語教育とは

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~政策分析ネットワーク「日本社会におけるグローバル人材育成のあり方~英語教育に焦点を当てて~」参加報告~

政策分析ネットワーク(代表:伊藤元重 東京大学大学院経済学研究科 教授)は、2016年3月5日(土)、グローバル人材育成の英語教育の在り方についての産学官セミナーを、東京・虎ノ門で開催した。英語教育・高校大学関係者約80人が参加し会場は満席の盛況で、このテーマに関する関心の高さがうかがわれた。


●官・産・学の英語教育への考え方 

 登壇者は発表順に、四方 敬之 氏(外務省 大臣官房人事課長)、渡邊 博之 氏(三菱商事株式会社 人事部人材開発室長)、吉田 晋 氏(日本私立中学高等学校連合会 会長・元 中央教育審議会 委員)、須賀 等 氏(山梨学院大学iCLA国際リベラルアーツ学部 2016年度副学部長就任予定者・教授、前・タリーズコーヒージャパン株式会社 取締役副会長)の4人であった。

 外務省の四方氏は、「我が国からの対外発信能力向上のための外部試験の活用と人材育成のあり方」と題して、外交官という専門職においても現在以上の英語力の鍛錬が不可欠になっているとし、採用においても、4技能を測ることができる外部試験の活用が始まっていると述べた。具体的には、採用内定から新卒入省までに、TOEFL(iBT) 100点のスコアを獲得しておくことを課しているとのことである。

 三菱商事の渡邊氏は、「三菱商事におけるグローバル人材育成の取組」について、同社がここ20年をかけて伝統的な商事会社(仲介・貿易事業者)から総合事業会社に変貌を遂げてきたなかで、入社8年目までに社員全員に海外研修を体験させる制度を確立し、同社グループの海外現地法人や現地協力会社との意思疎通に齟齬の無いように語学経験を積ませていると述べた。

 日本私立中学高等学校連合会の吉田氏は、「最近の大学入試改革と中高教育の現場における英語4技能育成の強化」と題し、中高段階で進む英語教育改革はまず英語教員の資質向上を必然的に求めると指摘した。また、現在進行中の高大接続システム改革議論を示しつつ、英語教育においては初等中等教育段階で従来型の「読む」「書く」の英語力以上に「聞く」「話す」能力を涵養していく以上、大学がそれに対応した質の英語教育を準備し実行していかないと、グローバル化した社会や企業が求める英語力の獲得は難しいと述べた。

 山梨学院大学iCLAの須賀氏は、「英語能力試験の現状と我が国の高等教育における活用の方途」として、TOEFL(iBT)受験者のSpeakingの国別ランキング(2010年)によれば、アジア諸国の中では日本は27位と最下位に近い成績であることを示した。そのうえで、日本の英語教員の専門家が4技能すべてに長けているとは限らないこと、また、学生は英語とともに外国人との接し方そのものも学ばなければいけないことを指摘した。

●英語力を支える教養とコミュニケーション能力

 続いて、福原 正大 氏(Institution for a Global Society株式会社<IGS> 代表)のモデレートによる登壇者のパネルディスカッションに移った。

 福原氏は前半の登壇者の意見発表について、グローバル人材には英語力とコンピテンシーが必要だが、その養成が不十分な日本社会には何らかの問題点があるのだろうと指摘し、特に英語教育についての問題点とその変革手法を論点に据えた。

 これに対し、山梨学院大学iCLAの須賀氏は、高校段階で必要な英語4技能を身に付けさせる体制を整えるのはこれからだと応じた。

 また、日本私立中学高等学校連合会の吉田氏は、4技能を伸ばす英語教育が、生徒によっては「単語を丸暗記しないでよくなる」と勘違いしている場合があることを報告した。同氏によれば、日本の大学受験に必要な英単語数は3,000語程度だが、TOEFLで高得点を得るには6,000~9,000語程度の単語力が必要であり、かつ英語力のバックに一定の教養が必要であるという。同氏は、公教育での急激な変革はなかなか難しいであろうと述べた。

 さらに、外務省の四方氏は私見と断りつつも、国際コミュニケーションのデファクトスタンダードが英語になっている現在、大学は新卒でTOEFL(iBT)スコア100を出す学生をもっと出してほしいと述べた。同氏は、優秀なグローバル人材を採用するための母集団の確保が重要で、これはグローバル企業においても同じではないかとした。また同氏は、これから社会にとって何が必要なのかを考えてみれば、大学は英語教育について、適切な目標設定と教育環境の整備が必要ではないかと指摘した。

 三菱商事の渡邊氏は、英語をビジネスで用いるためには、英語以前に一定の常識・教養・コミュニケーションスキルが基底にあって、そのうえでの英語力が求められていることを考えるべきであると述べ、ディスカッションを結んだ。