2016.0307

産学協働教育における地域連携

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~産学協働教育シンポジウム「地域連携組織によるインターンシップの推進」参加報告~

産学協働教育シンポジウム「地域連携組織によるインターンシップの推進」が、2016年2月26日(金)、日本経済新聞社で開催され、高等教育・企業・行政関係者など約150人が参加した。
 本シンポジウムは、地域の大学等の教育機関、経済団体・企業、自治体・公共機関が連携し、地域に根ざしたキャリア教育のあり方を考える機会として、経済産業省の主催で行われた。


●産学協働インターンシップ等の連携実態

 プログラムの最初に、原正紀氏(株式会社クオリティ・オブ・ライフ 代表取締役)から、「産学協働インターンシップ等の連携実態調査」調査結果(中間報告)について報告が行われた。
 携組織設立と参加状況については、「地域」が3機関(大学、経済団体、自治体)に共通する参加目的となっており、連携組織については学生の地域理解・定着に繋がる人材育成が求められていることについて報告があった。


 インターンシップ連携組織の大学の参加については「インターンシップ受入企業数の増加につながる」ことが目的として最も多く、大学がインターンシップへの取組を強化する中で、受入企業の開拓への期待が参加のきっかけとなっているとみられる。次いで、「学生の地域への関心を高めることができる」となっており、地域連携組織を通した学生と地域との接点への期待もみられた。
(下記データ参照)


図表:「大学の連携組織への参加目的」(※データは配布資料に基づく)

20160307_resarch.png

 また、連携組織の活動内容と効果については、「インターンシップの仲介」「学生向け事後研修・成果報告会」の実施率が高く、効果も高くなっていること、実施率は低いものの、「大学教職員向け研修」「学生向けセミナー」は効果が高い取組となっていること、「企業向けの研修」は「期待以上の効果が出ている」の割合が最も高いことなどについて報告があった。

 連携組織の体制・運営状況は、2010年以前の連携組織は「企業」「自治体」が参加している割合が多く、2011年以降は「大学」「経済団体」の割合が高いこと、連携組織の運営については、中長期的な方針や運営計画等の設定は継続した運営を行っている連携組織の方が実施している傾向がみられること、「予算の確保」「人材の確保」が大きな課題となっていることが挙げられた。

●インターンシップ推進に向けた地域連携組織の取組

4団体からインターンシップ推進に向けた地域連携組織の取組事例について報告された。

事例1:「石川県人材育成推進機構~自治体のイニシアティブによる取組~」
門間 由記子氏(ジョブカフェ石川 インターンシップコーディネーター)
<参加団体・構成:県内9大学5短大、県外参加大学(32)、県内企業に事務所を持つ企業93社、石川県、ジョブカフェ石川>
 インターンシップの現状(2014年10月アンケート結果)としては、参加した90%以上の学生がインターンシップ経験は必要と回答し、70%以上が参加して「満足」であったこと、また、大学・企業との年間スケジュール等や取組事例(学生がライフキャリアを考える機会を設けるための女子会やエンジニアリング企業の会の実施など)報告があった。
 2016年の新たな取り組みとしては、金沢大学COCプラス事業との協働、ライフキャリアを意識した教育プログラムの実施、参加学生数・受け皿企業の拡大、理系学生の参加強化、多様な交流機会の創出などが挙げられた。

事例2:「九州インターンシップ推進協議会~産業界の主体的な取組~」
古賀 正博氏(九州インターンシップ推進協議会 理事・事務局長)
<参加団体・構成:29大学、主に福岡県内の企業、団体約300社、福岡県、福岡市、北九州市、九州経済産業局、福岡労働局>
 九州インターンシップ推進協議会の概況、参加者・受入企業の状況、学生スタッフ組織の概要(学生、社会に対してインターンシップの意義・メリットを伝えることを目的とした組織)、実施しているインターンシップ(標準的、中期実践型、PBL型)の取組について説明があった。
 中長期ビジョンとしては、中長期実践型のインターンシップの推進、広域推進として九州広域推進モデルの確立、地域課題との連動、留学生インターンや海外インターンなどグローバル人材育成などが挙げられた。

事例3:「山口県インターンシップ推進協議会~県単位での産学公参画による取組~」
平尾 元彦氏(山口大学 学生支援センター教授)
<参加団体・構成:12大学、4高等専門学校・専門学校、5経済団体>
 山口県インターンシップ推進協議会の取組概況と特徴(県内の学校を中心として産学公連携組織の運営、県外学校の学生たちの積極的な受け入れ、インターンシップだけではない多彩な活動)などについて報告があった。
 協議会としては、地方におけるインターンシップは、地方型人材の育成・自律型人材の育成効果があると認識しており、今後の課題として、県外を強化し、規模拡大効果によるメリット獲得や、意識の低い学生にも学びの機会に繋げられるような量的拡大を行うこと、学生ニーズにあった実施方法の開発などが挙げられた。

事例4:「堺・南大阪地域インターンシップ推進協議会~市単位での産学官参画による取組~」
難波 祐美氏(特定非営利活動法人南大阪地域大学コンソーシアム コーディネーター)
<参加団体・構成:36大学、その他大学校、高専、企業110社、堺経営者協会、南大阪地域大学コンソーシアム、堺市>
 南大阪地域大学コンソーシアム、堺・南大阪地域インターンシップ推進協議会の概要説明があり、インターンシップ事業の取り組みやプログラムの成果としては、学生数・大学数・企業数は年々増加しており、学生の人材育成、企業の若手人材育成につながっているとの報告があった。
 課題は、企業と学生のニーズのマッチングの難しさや、研修中の企業負担の大きさ、学生数・大学数・企業数増加に伴う事務局負担など、また、今後の展望としては、マッチング率の向上に向けた広域インターンシップ取組の活用や、受入企業向けセミナーによるプログラムの質向上などが挙げられた。

●地域連携組織におけるインターンシップの推進

 プログラムの最後に、「持続的な地域連携組織の構築に向けて」と題し、パネルディスカッションが行われた。パネリストは、門間由記子氏、古賀正博氏、平尾元彦氏、難波祐美氏、原正紀氏、コーディネーターは、松高政氏(京都産業大学 経営学部準教授)であった。

 パネルディスカッションでは、コーディネーターからの質問や、リアルタイムで参加者から寄せられた質問なども交えながら、インターンシップの教育効果や評価、学生が主体的に参加するために必要なことなど、意見が交わされた。

 インターンシップの教育効果については、原氏からは、インターンシップ単体の教育というよりも、大学教育全体の仕組みの中に、インターンシップをどのように組み込んでいくのかが重要となること。古賀氏からは、地域で若手人材を育てることを優先順位として高くしており、学ぶための動機づけを高めることが大切であること、平尾氏からは、インターンシップにはいろいろなものがあるが、体験を通して、学生にとって良い経験となったと感じたり、もっと勉強しなければならないと気づくことなど、何かを持ち帰ることが重要であること、門間氏からは、石川を好きになり、石川の企業で働きたいという意識を高めるための取り組みに触れながら、産学協働における地域連携のあり方が重要となること、難波氏からは、インターンシップを通し、仕事について理解したり、自分の将来を考えたり、学びの動機づけにつながったり、堺・南大阪(地域)が好きになる機会となること、など意見が出された。

 また、インターンシップなどの参加について、学生を動かすために必要なことについては、門間氏からは、実際にインターンシップに参加した学生自身から、良さを伝えていくこと、古賀氏からは、学生スタッフの活動が成果をあげており、身近な先輩の実際の体験を伝えることにより、インターンシップのハードルは思っているほど高くないと感じてもらうこと、また、学内で社会活動に関わる機会を得る事前のステップを入れて、その次の段階として実際にインターンシップで社会とかかわる機会を持つようなプロセスを設けること、平尾氏からは、インターンシップのハードルを下げるという点では、必ずしも5日以上など、日数を限定するのではなく、1日だけでも効果はあると思われるため、いくつかのバリエーションが考えられること、難波氏からは、参加を動機づける方法としては、たとえば、マンガで案内冊子を作成している大学もあることから、わかりやすく伝えることも必要となる、との発言があった。

 最後にパネリストから、これからの取り組みに等ついて発言があった。原氏からは、地域連携が今後かなり重要となり、その原点には、「若者を育てる」ということが必要で、連携のあり方や取り組みについては、さらなる高度化が必要となること、難波氏からは、参加への動機づけだけでなく、実際のプログラムをさらに向上させて満足度を高めていくこと、平尾氏からは、「地域」「若者」のためにがんばろうという求心力が必要であり、その求心力を保ちながら、持続的な組織づくりを行っていきたいこと、古賀氏からは、インターンシップは、大学のキャリアセンターだけにかかわるものではなく、大学教育全体との関係の中に位置づけ、社会連携教育の位置づけが重要となると考えており、産学協働の推進においては、熱く動く人が必要となること、門間氏からは、インターンシップの機会を通し、仕事は楽しいと感じてもらいたいこと、そして、この地域が好き、この地域の企業で働きたいと思いを高められるように取り組んでいきたい、との発言があった。

 パネルディスカッションの最後には、コーディネーターの松高氏より、各地域におけるさまざまな取り組みは、成果も上がっているが、課題や多くの苦労があること、これからは、地域内だけでの産学協働に留まらず、それぞれの地域の成果や課題を横断的に共有できるような横串の連携が必要になっていること、そのようなことから、今年、「産学協働人材育成コンソーシアム」も設立されており、これからの産学協働の発展のためには、地域連携組織の持続的発展と地域連携のあり方がますます重要となるとの発言があった。