2016.0302

中国の1980年代・1990年代生まれの生活意識

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3行でわかるこの記事のポイント

~三菱総合研究所「第9回mifチャイナセミナー 中国80後・90後世代の価値観と幸福感、中国高齢者の生活」参加報告~

株式会社 三菱総合研究所(本社・東京都千代田区)は、2016年2月26日(金)、第9回mif(生活者市場予測システム)チャイナセミナー」を東京・赤坂で開催した。

同研究所は2015年1月から北京大学と、中国の1980年代生れ(80後)、1990年代生れ(90後)の生活意識、消費意識、消費実態、および高齢者の実態について共同研究を進めてきた。本セミナーの前半はその結果報告、後半は北京大学実施の調査に基づく分析報告である。


●中国「80後・90後」世代の価値観と幸福感

 まず、中国の一子化政策世代である「80後(バーリンホウ)・90後(ジューリンホウ)」の人々の価値観と幸福感について、任 強 氏(れん・せん 北京大学 社会科学研究センター 准教授)から、同研究所が実施した「中国生活者調査」に基づく報告があった。 
 報告に先立ち、同調査の概要について説明があった。この調査は、2013年12月に中国30大中都市在住の20歳~49歳の国民3万人の回答を収集したインターネット調査で、回答の男女比は1:1である。調査対象とした大中都市は中国沿岸部に多いため、調査結果は中国全体のこの年代の意識を代表するものとは言えないが、経済発展の牽引地域で消費力も旺盛、かつ、ネットリテラシーが高い層の意識が集約されていると同研究所では考えている。なお回答者は男女とも50%弱が4年制大学を卒業しており、高学歴層の割合が高い。
 「80後、90後」の年齢は、25歳~35歳、35歳~45歳であり、中国における4年制大学卒業後の勤労者層、およびこれから大学進学をめざす子女を育てている保護者層にあたる。次世代の留学生を生み出す潜在保護者層の意識、といってもよい。今回の調査報告は、この世代間の意識を、「物質主義・個人主義・幸福感」に焦点を当てて分析している。
 この世代の特長の1つは、「お金持ちになりたい」「ハイエンド商品を買いたい」などの物質的な欲求が強い反面、節約や禁欲などの意識は弱い。その傾向は男性で強く女性では緩やかであると報告された。
 さらに、この世代は自己実現の意欲が強く、意思決定に際しては友人や同年齢の人の意見を重視する。伝統的な中国的感覚と計画経済下で、我慢強く目上の人の意見を重視する彼らの親の世代の姿勢とは異なっている。こちらは物質欲とは異なり男性よりも女性のほうが自己実現の意欲は強い。ただし女性は「家族や友人の意見を聴く」割合が年代を追って増えているのが注目される。現在の20歳代以降の中国人女性は、自己実現にアクティヴだが周囲や同年代の意見も聞く柔軟な思考を持っているということだ。
なお幸福感については男女差が大きく、女性が男性よりも幸福感を感じること多いことがわかった。

●中国人女性のライフスタイルの変化

 また、 瀟瀟 氏(りゅう・しぇいしぇい 同研究所 政策・経済研究センター 研究員)から、北京大学中国社会科学調査センターが実施した「2010年中国家庭追跡調査(CFPS)」に基づく報告があった。同氏は、近年の社会経済の発展と、外国留学経験者の増加を含む女性の教育レベルの向上が、こうした中国人女性のライフスタイルの変化をもたらしていると指摘した。

●高度な教育を受けることが将来の生活を保障すると考える

 最後に、フロアとの質疑応答があった。
 最近の一子化政策の転換が今後の一世帯あたりの子どもの数の増加をもたらすかとの問いに対しては、子どもの養育費が非常に大きな生活コストになるため、複数子を容認しても子どもの数が増えるタイミングではないとの認識が示された。
 また「90後」の富裕層の生活意識についての質問には、リテラシーが高く教育が持つ重要度が増していること、高度な教育を受ければ将来の生活は保障されると考えていることを指摘した。

 本セミナー報告を留学生問題に引き寄せて考えると、日本・中国ともに18歳人口は減少局面にあるが、中国の一子化政策変更を直接的原因とする将来の中国留学生の派出増は見込めないことがわかる。ただし「90後」の富裕層は将来の生活保障のためにも、高度な教育を受けてきたり、またその必要性を認識しているため、そのような親世代に育てられる子どもに望まれる教育は、おのずと高度なものになるだろう。