2022.1017

私大全体の入学定員充足率が改善する一方、未充足校の割合は過去最高

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3行でわかるこの記事のポイント

●全体の充足率は前年より1ポイント上昇して100.8%
●未充足校は7校増えて全体の47.5%に
●大規模校での充足率改善が全体を押し上げるも、中小規模校は厳しい状況

私立学校振興・共済事業団はこのほど、2022年度の入学志願動向調査の結果をまとめた。私立大学全体の入学定員充足率は前年の99.8%から1.0ポイント上昇して100.8%になり、定員充足に改善。しかし、未充足校は7校増えて284校で全体の47.5%に。この割合は事業団が充足率を算出するようになってからこれまでで最も高い。全体での充足率改善は主に大規模校の改善によるもので、中小規模校における定員確保はさらに厳しい状況になっている。

*調査結果はこちら
*表やグラフはいずれも私学事業団の資料より
*参考記事(Between情報サイト)
年内入試の発信で高校との関係構築、選抜の目標実現を~ベネッセ調査


●充足率が上昇したのは「入学定員1500人以上」の2つの区分のみ

 2022年度入試の対象となった18歳人口は約112万人で、対前年指数は98.1。
 私学事業団の調査では、私立大学598校(前年から1校増)の入学定員や志願者数、合格者数、入学者数などを集計し、分析している。
 各数値と対前年指数は次の通り。

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  全体の入学定員が0.6%と微増した中で志願者数は0.3%の微減となり、志願倍率は0.1ポイント低下。一方で合格者数は4.9%増えて合格率が2.2ポイント上昇した。受験生にとって「受かりやすい入試」の状況がさらに進んだ。入学者数も1.6%増え、入学定員充足率は100.8%に。前年はこの調査で初の未充足に陥ったが、今回は充足に戻った。
 ただし、私立大学の学生募集状況が一様に好転したわけではなく、定員割れの大学は前年より増えている。
 入学定員規模による11の区分ごとの入学定員充足率を見ると、前年より上昇したのは定員1500人以上の2つの区分のみ。「1500人以上3000人未満」が3.1ポイント上昇して104.4%、「3000人以上」が4.2ポイント上昇して104 .1%だった。これら含め、定員を充足したのは800人以上の4区分で、前年は600人だった充足・未充足の境界線は800人に上がった。
 「100人未満」「100人以上200人未満」の2つの区分で充足率が90%を切るなど、未充足校の中でも規模が小さい区分ほど定員確保が厳しいという、おおよその傾向が見られる。

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 21のエリア別に見ると、「東京」(103.4%)、「愛知」(102.1%)、「大阪」(103.0%)など、大都市部で充足率が100%を超える傾向にある。一方、これら都市の周辺部の「千葉」(97.5%)、「東海」(93.0%)、「近畿」(90.5%)などはいずれも未充足で、前年から充足率が下がっている。

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 ●募集環境が厳しくなる中でも教育成果を上げるための選抜手法開発を

 今回の私学事業団の調査では、前年度と比べて歩留まり率が1.1ポイント低下している。 進研アドが実施した調査では、中堅大学や難関大学でも一般選抜の歩留まり率は過去5年間で大きく低下したことがわかっている(合格目標偏差値55~68の大学群の歩留まり率は、2017年度入試の29.0%から年々低下し、2021年度入試では16.5%)。
 入試の易化により合格しても入学を辞退して上位校に行くケースが増えると、辞退された大学は定員確保のために合格ラインを下げざるを得ない。その結果、従来に比べて入学者の学力レベルが低下し、教育の成果を上げることが難しくなる。それによって大学に対する社会的評価が下がり、志願者が集まらなくなるという「負のスパイラル」に陥ることが考えられる。
 今後も18歳人口が減少し、入試の易化が進むと予想される中で「負のスパイラル」を避けるためには、自学の教育に対する適性が高く、学ぶ意欲も高い入学者を受け入れて育成し、社会に送り出していくことが重要になる。こうした認識は私立大学のみならず、国公立大学でも高まりつつある。それが、教科学力の評価だけでなく、「興味・関心」「この大学で学びたいという意欲」を重視し、評価する総合型選抜の拡大の要因の一つになっている。
 高校での学びを大学での学びにどうつなげて深め、身に付けた力を社会でどう生かそうと考えているのか。受験生にそこを深く掘り下げて言語化させる選抜方法を開発することが、これからの学生募集のカギと言える。