2017.1101

英語検定、大学はどれを選ぶべき?「なるべく多く・できれば全て」が◎

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3行でわかるこの記事のポイント

●国公立との併願の受け皿として、私大もより多くの検定試験を利用することが望ましい
●文科省はなるべく多くの検定試験の指定を模索
●「受検する検定試験を2回とも指定する」高校は半数以下

2021年度入試から大学入学共通テストで導入される英語4技能評価で、文部科学省は対象となる外部検定試験を本年度内に発表すべく、指定要件の詰めを急いでいる。国立大学協会が検定試験と共通テストの英語の試験、両方を課す方向となったのを受け、私立大学でも検定試験への対応の検討が本格化しそうだ。入試で民間の検定試験を活用することに不安や戸惑いの声も聞かれるが、私立大学はどのような考え方で対応すればいいか、考えてみたい。


 私立大学が英語外部検定試験について検討すべきことは、①共通テスト利用入試(現在のセンター利用方式)と自学独自の一般入試、それぞれで検定試験を利用するか否か、②利用する場合はどの検定試験を選ぶか、③どのように利用するか、④評価するレベルをどう設定するか、の4つがある。

① 検定試験を利用するか否か

 国大協が外部検定試験と共通テストの英語の試験、両方を課す方向になったのを受け、公立大学もこれに足並みをそろえる可能性がある。基本的に全ての国公立大学が検定試験を利用することになった場合、高校で検定試験の受検が活発化するのは確実だ。従来、生徒が任意で受けるケースが多かったのに対し、今後は学校の指導の中に外部検定の対策と受検が組み入れられる。下のグラフに見るように、外部検定の活用を見据えた進路指導計画はまだこれからという状況で、大学から活用法に関する具体的な情報が出てくるのを待っているところと言えそうだ。

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 高校の指導の中に外部検定の対策と受検が組み入れられる以上、国公立大学との併願者を集めたい私立大学にとって、学生募集の観点から共通テスト利用方式、一般入試いずれにおいても外部検定試験を利用するのが望ましいと言える。検定試験のスコアを持つ高校生が私立の志望校を選ぶとき、国立大学と同様、4技能を評価する大学に目を向けると考えられるからだ。大学にとっては、入試での検定試験の利用が4技能を身に付けた学生の確保につながり、また、一般入試含め、4技能評価を求める文科省の方針とも合致する。

② どの検定試験を利用するか

 各大学は文科省が指定するものの中から検定試験を選ぶことになる。文科省は、大きく分けて7種類ほどの検定試験を候補として検討している。当初は「全都道府県で複数回の実施」を指定の要件として考えていたが、現状でこれをクリアするものは少数のため、譲歩案として「地域による受検機会の偏りをなくすための配慮」を求める方向になった。「学習指導要領に準拠」という要件もハードルが高く、これらの要件を厳密に適用すると2つほどの検定試験しか指定できないことになる。結局、高校生の受検機会を広く保証することを重視し、要件を緩やかにして候補に挙がっている試験のほとんど、場合によっては全ての候補を指定する可能性も高いとの見方がある。
 その場合、国大協は「受検者の負担に配慮して、できるだけ多くの種類の指定試験を対象として活用するように」という文科省の要請に従い、指定される全ての検定試験を利用する可能性が高い。一部の試験を除外したくても、受験生が納得できる理由を説明するのは難しいという事情もある。となると、私立大学もそこに足並みをそろえ、より多くの検定試験を利用することが、国立大学との併願者確保という学生募集上、また、高校への配慮という点でも妥当な判断となる。
 受験生は2回までの試験結果を志望校に提出できるが、高校が2回とも同じ検定試験を受検させ、特定の試験に受検者が集中することになるだろうとの見方が大学側にはある。しかし、検定試験の受検指導について高校教員に聞いたところ、「学校指定の試験を2回とも全員に受検させる」と答えたのは45%だったのに対し、「学校指定の試験を1回は全員に受検させる」が38%、「学校で指定せず、自由に受検させる」が17%で、計55%の高校が、生徒が検定試験を自由に選ぶ機会を設ける方向だ。つまり、半数以上の高校では受検する試験が多様化する可能性がある。この点でも、大学はより多くの検定試験を利用するほうが、求める学生を取りこぼさないで済むことになる。

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 複数の検定試験を利用する場合、異なる試験間の成績を公平に評価できるのかという懸念が大学側にある。CEFR(外国語の学習・評価のためのヨーロッパ共通参照枠)には6ランクしかなく、高校生の受検者の大多数は下位から2番目と3番目のA2 ・B1に収まってしまうのが現状だ。そこで、CEFRの対照表の検討に関わっている専門家の間では、この2つのランクを細分化すべきとの意見も出ており、本年度内に公表される対照表に反映されるか注目される。

③ どのように利用するか/④ 評価するレベルをどう設定するか

 外部検定試験の主な利用方法とそれぞれのメリット・デメリットを下表に整理した。

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 この表は一般入試における外部検定試験の利用について説明しているが、共通テスト利用方式の場合でも、⑤「試験の代替」を「外部検定試験のみを利用」と読み替えるなどして、同様の考え方をあてはめることができる。英語運用能力が高い学生を確保したいのか、受験生の英語学習のインセンティブにするのかなど、検定試験利用の目的に合った使い方を考えることが重要だ。
 出願基準や加点の基準など、求めるレベルの設定も、利用目的と自学の現状をふまえて検討する必要がある。出願資格として利用する場合、独自の英語試験を課す入試方式の合格水準より低い基準にすると、そのスコアに達した受験生は英語の勉強をしなくなり、結果的に、独自の英語の試験を受けて入学した学生に比べて英語力が劣ることになるかもしれない。逆に、出願資格を高く設定しすぎると、はじめから出願をあきらめることになりかねない。こうしたリスクを避け、期待通りの効果が上がるよう的確な基準を設定すべきだ。
 繰り返しになるが、私立大学は、国公立大学の併願者を多く集めるうえで、また、高校生の選択肢を最大限に広げるためにも、外部検定試験は可能な限り多くの種類を利用するのが望ましい。英語4技能試験情報サイトなどを参考に、各試験の特色について研究しておくといいだろう。


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