年内入試の動向① 指定校推薦の受験希望者が増加~川崎市立高津高校

●私大一般入試の難化を受け、年内入試にシフト
●成績上位層も指定校推薦に流れる傾向
●ミスマッチを防ぐため志望理由を明確にさせる

推薦入試やAO入試など、いわゆる「年内入試」への対応が大学、高校の双方で変化しつつある。新入試制度への移行や入学定員管理の厳格化に加え、新型コロナウィルス問題の影響も考察しながら、年内入試をめぐる動向をシリーズで紹介する。初回は、受験生の「年内入試シフト」を取り上げる。ベネッセの高校部では最近、複数の高校教員から立て続けに「指定校推薦希望者が増えている」という声を聞いたという。「特に今年は、元々多かった中堅クラスの高校だけでなく、進学校でも指定校推薦など年内入試の利用が増え、一般入試受験者が減るのではないか」という見立てだ。その背景には「入学定員管理の厳格化」による私大の難化がある。さらに、入試改革への不安と高校生の意識変化も加わり、2021年度入試は年内入試「人気」に拍車がかかることが予想される。このような傾向を象徴する事例として川崎市立高津高校の状況を紹介する。

*「年内入試の動向」シリーズは9月発行『Between』9-10月号の特集「これからの年内入試」の先行掲載です。
年内入試の動向② 大学教育を先取りする入試―東北福祉大学
年内入試の動向③ 探究学習と多面的評価の親和性~三田国際学園中学校・高校


●先輩の受験を見て「一般入試はハイリスク」と認識

 「『部活引退後から頑張って勉強し、第一志望校に合格する』という受験モデルが崩れてしまった」。こう語るのは、神奈川県川崎市立高津高校の進路指導主任・石川毅教諭だ。同校では合格実績を入試方式別、大学群別、成績別のデータで詳しく分析し、進路指導に役立てている。生徒の多くは神奈川、東京の中堅私大に進学する。2017年度までは一般入試とAO・推薦入試の進学者数はほぼ同程度だった。それが、20182019年度はAO・推薦入試の進学者数が一般入試を大きく上回った。指定校推薦による進学者だけで見ると2017年度まで3040人で推移していたのに対し、2018年度は63人と70%増え、2019年度も引き続き多かったという。

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 特に成績上位層での増加が顕著だった。2018年度から評定平均4.3以上の生徒が指定校推薦を選択するケースが急増。2019年度には7割を占め、一般入試での受験を希望したのは2人だけだった。

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 「評定平均が問われる指定校推薦は成績上位層が利用しやすい。これまでは少し頑張ってみろよと一般入試での挑戦を勧めていたが、従来は合格できた大学群に軒並み不合格になる先輩の姿を目の当たりにすると、もはや一般入試での受験はリスクでしかないと思うようだ」(石川教諭)。実際、首都圏の中堅大学群の合格率は2016年度に40%だったが、2019年度には14%まで下がっている。受験数はほぼ同じだった。

●「『身の丈』や『コストパフォーマンス』を意識」

 指定校推薦での受験希望者が急増した背景には、生徒の意識の変化もあるという。「以前と比べ、バリバリ勉強して少しでも偏差値上位の大学へと考える生徒は少なくなった。多くの生徒は背伸びをせず、身の丈に合った大学を選ぶ」と石川教諭。さらに、一般入試を受験する生徒の多くは塾や予備校に通い、私大の難化で受験校数を増やすと受験料がかさむという問題もある。「多額の費用がかかる一般入試と比べ、3万5000円程度の受験料で済む"コスパのよさ"も指定校推薦の希望者が増えた要因。保護者も指定校を希望するケースが増えている」。
 高津高校がこの状況を歓迎しているわけではない。一般入試受験による合格実績が減ると、指定校推薦の枠を減らす大学が多いからだ。
 「リスクヘッジのためだけに指定校推薦を利用すれば、学部・学科の学びとミスマッチを起こす可能性が高くなる」(石川教諭)との懸念もある。実際、枠があるからと、何の関心もない学部への推薦を申請する生徒もいるという。そのため、同校では2年生の段階から全生徒に志望理由書を作成させて、自分の将来に向き合いながらどの大学・学部に進学すべきか考えることを徹底させている。さらに、「卒業生に聞く会」を設けて大学でのリアルな学びに触れさせ、ミスマッチを減らす努力をしている。指定校推薦を受験する生徒には面談を重ねて志望理由を明確にさせ、合格後は検定受検を促すなど、利用にあたってのハードルを高くしている。

●ミスマッチを減らすため、大学にはAPが明確な入試を要望

 指定校推薦に限らず、ミスマッチ入学者を減らすことは大学にとっても重要な課題だ。多くの大学はさまざまな努力をしているが、高校側はどんな施策を求めているのか。
 石川教諭は次のように要望する。「まずは入試が重要で、アドミッション・ポリシーが透けて見えるような入試、年内入試においても、指定されたレポート課題などができなければその大学の教育と合わないことがわかるような、ある程度歯ごたえのある入試が望ましい。次に情報提供で、自分が興味を持ったテーマを研究している教員がいるかどうかがわかる高校生向けの『研究室・ゼミガイド』のような資料があれば学部・学科選びに役立つ」。
 さらに、大学は高校の教育に積極的に関わってほしいとの要望も挙げる。「本校では次年度からキャリア教育に力を入れるのでアドバイスや評価に協力いただけると助かる。単発の出前授業で終わらず、継続的な連携で生徒の成長を一緒に見守ることが、長い目で見て大学にもメリットがあるのではないか」。