高3生9月以降の進路指導の現場―埼玉県立坂戸高校の事例

●第一志望校を最後まであきらめさせない
●「推薦に逃げず一般入試で」と励ます
●入試科目一覧から志望校を書き出し、受験日程を考えさせる

多くの大学では2016年度入試の総括がほぼ収束し、早くも次年度の学生募集が動きだしている。オープンキャンパスが始まった大学もあり、新しい大学案内の完成も間近というところだろう。入試の内容や日程も固まっていくが、その情報が届く時期、高校の進路指導はどのように展開されるのだろうか。首都圏の高校でも以前に比べると進路指導が強化され、生徒の進路決定における学校や教員の影響力が増していると言われる。2016年5月、進研アドが大学の学生募集広報担当者を対象に開いたセミナーでの高校教員の講演をもとに、3年生9月からの進路指導の事例を紹介し、ベネッセ教育総合研究所のデータも交えて考察を加える。


「第一志望宣言」で目標を明確化

 講演で自校の進路指導について紹介したのは、埼玉県立坂戸高校の進路指導主事・石川好夫教諭。坂戸高校は県内で10校指定されている「学校進学力パートナーシップ推進校」の一つだ。1学年約360人で、およそ8割が4年制大学に進み、そのうち一般入試やセンター試験利用入試で受験するのが8割程度。例年20人近くが国公立大学に進学している。
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 進路指導では「第一志望校を最後まであきらめない」をモットーに、「『行ける大学』ではなく『行きたい大学』を選ぶ」「推薦入試に逃げず、一般入試を受ける」と繰り返し伝え、国公立大学への挑戦を促す。この方針を具体化するため、当初は教員個人のノウハウだったものを共有し合い、継承していく形で様々な工夫が確立されている。
 2年生の3学期に提出させる「第一志望宣言」もその一つだ。目標を明確にするため、「何のために大学進学をするのか」「大学で何がやりたいのか」「浪人してでも行きたい大学か」等の問いに答えさせ、面談で本気度を確認したうえで書き直しを命じることもある。
 6月になると坂戸高校ではほとんどの部活で3年生が引退し、受験モードへの切り替えを図る。学力が伸びるのはこれからという時期に、教員は「焦って志望校を決めてはダメ。まずは、9月の模試で夏の勉強の成果を出そう」と励ます。
 では、受験勉強の成果確認の第一弾となる3年生の9月以降はどのような進路指導が行われるのだろうか。

9月からセンター試験直前までの指導

●9月
 推薦入試説明会が開かれる。7月に続き2回目で、推薦で進学を決めてもセンター試験を受けることを約束させる。一般入試に向けて勉強を続ける仲間の雰囲気に水を差さないこと、大学に入ってからも学び続けることの重要性を説く。
 従来は第二志望まで受け付けていたが、2016年度からは第一志望のみを受け付けることにした。万が一指定校推薦の校内選考に漏れた場合は、あらためて2回目の選考に回ることになる。公募制推薦は、第一志望校のみを指定された期日までに校内出願し、選考を行っている。
 いずれにしても、推薦入試に関しては、メリットとデメリットを十分に説明した上で、第一志望校のみを受け付けている。進学目的が明確でなく「推薦で入れるならどこでも」といった安易な受験は認めず、推薦枠は全て埋めなくてもいいという方針だ。また、あくまで一般入試での合格を基本にしているので、一般入試に向けた準備を怠ることがないよう指導している。
 9月にはセンター説明会も実施される。
 この時期、75%ほどの生徒は明確に第一志望校を決めており、以降、併願校も決めていく。

●10月
 出願指導の説明会が2回開かれる。併願を含め出願校の決め方を指導。現役生は入試の当日まで力が伸びると強調し、「第一志望校は絶対に譲ってはいけない」と鼓舞する。ここで学校独自の「面談調査用紙」を活用。進学情報誌の入試科目一覧を見ながら志望校を書き出させ、入試の日程や科目、配点等の欄も埋めさせる。

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●11月

 学年団と進路指導部による志望校検討会を実施。三者面談に向けた指導の目線合わせが目的で、ここでも第一志望校を必ず受けさせるようあらためて申し合わせる。気がかりな生徒を中心に、模試の志望校・学部の順位が変わっていないか、第一志望校について「願書、過去問は入手したか」「受験カレンダーにどう記入されているか」を確認し合う。
 受験カレンダーを記入させる時には「安全校は必ず受ける」「難易度の低いところから高いところという順番で組む」といったことを指導。第一志望校の合格発表前に併願校の手続き締切日が来ない組み方になるよう、確認を促す。
 そして、志望校検討会をふまえた三者面談を行う。第一志望校を譲らないために保護者が弱気にならない、結果をせかさないよう協力を求める。模試の得点による合格可能性シミュレーションのシステムを使いながら志望校について検討し、受験カレンダーと入試科目一覧を確認する。
 11月には大学の入試担当者を招いての入試直前ガイダンスも3日間にわたり開いている。

●12月
 センター試験本番を想定して実力試験等に取り組む。

 こうした進路指導を経て、3月には生徒から合格の報告が次々と寄せられる。学校全体で一人ひとりの進路決定を喜び、讃え、頑張った先輩の姿を年度末の卒業生体験発表会で後輩に見せる。後輩は、第一志望校を最後まであきらめることなく走り続けるためのバトンを受け取り、次の年度にも坂戸高校のこの文化が継承される。


明確に志望校を決めたのは高3の7〜9月

 坂戸高校では「推薦に逃げず一般入試で」という指導がなされるが、「推薦・AOでなく一般入試で」という意識は生徒の間でも高まっている。ベネッセ教育総合研究所の調査によると、「できれば一般入試で大学に進学したい」という高校生は2006年には6割弱だったが、2015年には7割弱に増えていた。

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・ベネッセ教育総合研究所「第5回学習基本調査」
・2015年6〜7月に実施。回答した高校生の中から、大学進学希望者のみに質問した。

 坂戸高校の例に見るように、高校3年の9月以降は進路指導がめまぐるしく動きだし、生徒の意識と行動も大きく変わる。その変化は学習時間にも表れる。ベネッセ教育総合研究所の調査によると、高校3年9月の1日の平均学習時間は4月の2倍近くに増えている。部活を引退して志望校が決まり、目標に向けた努力が本格化するためだろう。


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・ベネッセ教育総合研究所 「大学生が振り返る大学受験調査」
・2012年8月に実施したインターネット調査のデータから、一般入試で入学した大学生2869人を抽出。

 同研究所初等中等教育研究室の邵勤風室長は、「2015年3月に高3生を対象に実施した調査では、主体的に進路を選択した生徒ほど、高校生活を振り返って、自分の成長を実感していることがわかった。部活を引退して時間が生まれるこの時期はじっくり考えて主体的な大学選びをする最良のタイミングであり、目的意識を持って勉強に集中することが志望校の合格だけでなく、成長にもつながる」と話す。
 坂戸高校では、進路指導の適切さや成果を検証するため、卒業式直前、さらに卒業後にもアンケートを実施している。卒業生には、大学満足度、入学後に力を入れていることなどを聞いている。「明確に志望校を決めた」のは高3の7〜9月だったという回答が最も多かった。

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 高校3年生の9月前後、各大学は、第一志望校としてはもとより併願校としても検討対象になり、多くの生徒の「受験カレンダー」に大学名を書かれる存在になっておく必要がある。それには、入試情報をはじめとする自学の情報を確実に高校、高校生に届けることが、募集広報における必須の要件だと言える。